これは、ある日の桃源郷のお話。
「さて、今日は仕事が早く終わったし、ゆっくりお茶でも飲もっかな〜」
白澤は、いつものように手作りの茶葉をきゅうすに入れた。
そして、兎達と一息着いた頃、
トントン
と、戸を叩く音がした。
「はいはーい、どちら様ですか…」
「…って、なんだお前か」
そこには一人、一本角の鬼がたたずんでいる。
「今月の納品はまだ期限が残ってるだろ」
そんな言葉を無視し、鬼は一言、
「この度、私鬼灯、結婚することになりました。」
と、放った。
「は?」
白澤は入れたばかりの茶を身体にこぼしてしまった。
「あぁぁつっ!!」
「…全く、何やってんですかおじいちゃん」
鬼灯は、近くにあった布巾で白澤の身体を拭いた。
「では、私はこれで。」
「ちょぉぉっと待て!!」
白澤は、すかさず鬼灯の襟を掴んだ。
その顔は、完全に血の気が引いている。
白澤は、一旦落ち着き、2人分の茶を入れ直し
た。
白澤が、険しい顔で 鬼灯の顔を見ている。
「で?」
「これ以上お話することはございませんが? 」
「いや、あるだろ」
「はて…」
鬼灯が顎に手をあてる。
少し考える猶予を与えたが、白澤は我慢できず質問した。
「誰、相手 」
「居酒屋で会った女性です。」
と、鬼灯が答える。
「経緯は」
「前々から言い寄られていましたので、先日そこまで言うなら、と」
「はぁ?!それだけ?」
白澤が、ますます険しい顔になる。
「流石に、それだけって訳じゃないだろ」
「…私もそろそろ身を固めてもよい年ですし、丁度いい機会かなと思いまして」
「理由、本当にそれだけなのか?」
「えぇ」
鬼灯は、毅然と答え、茶を啜った。
すると、白澤はいつになく真面目に、
「その言葉を聞いて確信した。お前はもう少し考えた方が良いと思うね」
と、反論する白澤に、鬼灯はまた想定の範囲内の言葉いという顔で答えた。
「仕事との両立などは色々考えました。その結果、判断したことです。」
「…」
白澤は、机に突っ伏した。
「まだ、なにか聞きたいことはありますか?」
返事は無かった。
「…」
「では、これ以上用がないなら、私はこれで」
鬼灯は、席をたち玄関の方に歩きはじめる。
「さようなら」
「…!」
白澤は、鬼灯の着物の袖をキュッと掴んだ
「…今度は、どうされましたか」
「誰でもいいのかよ」
「はい?」
「結婚できるなら誰でもいいんんだろ」
「まぁ…」
「ならさ…僕でよくない?」
一瞬、時が止まる。
鬼灯は、少し目を見開いた後、
「まぁ、アリかもしれませんね」
「え?!マジ?!」
鬼灯が、自分で言っといて何なんだという顔をすると、
「ですが…」
と、ボソッと言う。
「何?」
「あなたとなら、段階を踏みながらがいいです。」
それを聞いて、白澤は拍子抜けしたような顔をするが、その後、
「僕 も同じ事思ってた。」
と言った。
「それでは、私はこれで」
「うん」
鬼灯は、そそくさと帰ってしまった。
白澤もなぜか今回は早々と帰ろうとする鬼灯を止めなかった。
かと思うと、白澤は出かける準備をする。
そして、地獄の飲み屋に向かって急ぐ。
到着すると、すぐに酒を注文し、酒が出てきた瞬間ガブッと一気飲みした。
(あんな状況…!ずっとシラフで耐えられるか…!)
数十分後、ベロベロに酔っ払い、顔もタコのようになった頃、ふと、隣の席が自分と同じくらい大量の酒を飲み干している事に気づき、相手を見てみると、
それは、先程まで一緒にいた一本角の鬼であった。
相手の方もいつになく酒に潰れている。
それを見た瞬間、両者はもう一度大量の酒を一気に飲んだ。
桃太郎が仕事から帰り、後の仕事をしているころ、地獄の飲み屋から連絡が来た。
「また、白澤様…」
いつも事だから内容を聞かなくても分かるが、受話器をとる。
「はい…はい、分かりました。ご迷惑おかけしてすみません」
桃太郎は、地獄の飲み屋に向かった。
飲み屋に着き、いつものように酔い潰れている上司を見て呆れていると、隣にも同じように酔い潰れている客に気付く。
「…鬼灯様?」
それを見て、
「白澤様また、鬼灯様に要らぬ勝負を持ちかけましたね…?」
と、言う。
「鬼灯様も、起きてください」
鬼灯が目を開けた。
「目覚めましたか?」
と、桃太郎が言うと、
「お恥ずかしいところを見せてしまい、すみません。」
と言い、鬼灯は軽く頭を下げた。
「いいですよ、どうせ白澤様が持ち掛けた要らぬ喧嘩でしょう?」
と、桃太郎は言う。
その言葉を聞き、桃太郎の近くにいる酔い潰れた神獣を見ると、鬼灯は、
「すみません急用が出来たので、すぐに帰らせていただきます」
と言い、よろつく足で早々と帰っていってしまった。
「鬼灯様、なんか様子がおかしかったけど…白澤様、他にも鬼灯様になんかちょっかいかけたのかな…」
その後、白澤は飲んだ酒の量がいつもの、4倍程で、支払い金額について、桃太郎と深く話し合いをしたのだった。
コメント
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え、これ読切…続きってないんですか…? !?