コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
会えなくとも、すぐ近くにリアムがいるということは嬉しい。周りが敵だらけの中にいるというのに、不安はなく嬉しい。
翌朝、リアムと身分の高い数十人の騎士達が、先に王都に戻るらしく宿を出発した。
当然その中にゼノも入っている。しかしゼノは僕を連れているために、隊から少し離れてついて行く。このように特別な行動が許されているのも、ゼノがリアムの信頼が厚いからなのだろう。
でもやはり僕のことが気になるらしく、隊の後方にいる騎士達が、チラチラとこちらを見てくる。
トラビスは隊の最後尾にいて、こちらを見てくる騎士達の視線を遮るように馬を移動させて威嚇している。
しかしついには一人の騎士が、馬の足を遅らせてゼノの隣に並んだ。
「列を乱すな、ジル」
「いやぁ、だが気になるじゃないか。おまえが自ら馬に乗せてる人物のことが」
「…仕方なく理由あって捕虜にした少年だ。俺の部下として育てる」
「ふーん。男か?きれいな顔をしてるけど」
ジルと呼ばれた騎士が、僕の顔を下から覗き込む。
僕はマントを引っ張って、顔の半分を隠した。
「あらら、そんなに用心しなくても。ゼノの捕虜だから俺は手出ししないぜ。しかし…おまえは女に興味がないと思ってたら、そういうことか」
「は?バカなことを言うな。この者は部下にすると言ってるだろうが」
「そんなにムキになるな。悪かったよ。リアム様からお許しをもらってるんだろ?他の者にもちょっかい出さないように俺がきつく言っておく」
「…ふん」
ジルが笑って手を上げて、隊に戻っていく。
僕はそっとゼノを振り返り「大丈夫?」と聞いた。
「申しわけありません。嫌な思いをさせましたか?」
「嫌な思いをしたのはゼノじゃない?ごめんね、僕のせいで…」
「フィル様は悪くありません。俺があなたをここまで連れて来たのです。しかし…」
「なに?」
「いえ、たとえ銀髪や顔を隠しても、皆があなたに興味を持つ」
「それは怪しいからじゃないの?」
「違います。高貴なオーラというか、美しさを隠しきれてませんし」
なにを言ってるんだと僕は首を傾げて前を向く。そして小さく「ひっ」と悲鳴を上げた。
隊の中央にいるリアムが、僕を見ていたからだ。
気づかれた?いや、記憶がないから僕をフィルとして見ているわけじゃない。だけど旗の下で会った男だと気づいた?それともただ単に怪しい人物だと疑っているのか。
リアムがこちらを見ていたのは一瞬で、すぐに顔を前に戻す。
僕がホッと息を吐き出していると、今度はトラビスが隣に来た。
僕はトラビスを睨みつけて、また何か言ってくるのかと身構える。
そんな僕を見て、トラビスは複雑な表情をする。
「…なにも言いませんよ」
「言いたそうにしてるじゃないか」
「心配になっただけです。ゼノ殿、先ほどの男は誰だ?」
ゼノが「マントをしっかりかぶってくださいね」と僕の頭に触れてからトラビスの問いに答える。
「ジルと言う。リアム様の叔父君に仕える騎士だ」
「あんたとは仲良いのか」
「まあな。俺のことをよく知っている。だから捕虜を連れ帰ることが信じられないのだろう。今までこんなことをしたことがないからな」
「それまずくないか?怪しまれているんじゃないのか?」
「たぶんな」
「おいっ」
「トラビス、静かにして」
「…はい」
ただでさえトラビスは身体が大きくて目立つのだから、言動には気をつけてほしい。
僕は小さく息を吐き出すと、トラビスに近寄るように手招きする。
「トラビス、ところでネロを見かけた?」
「いえ、この集団にはいないようですね。まだ宿に留まっているのか、それとも先に逃げたのか…」
「フィル様、ネロとはこの戦の発端になった事件の真犯人ですよね。フィル様から聞いた容姿の男を宿で見つけました。俺達が出発するよりも先に、宿を離れましたよ」
「なんだって?」
驚いて思わず後ろのゼノを見る。
「ご安心を。信頼できる俺の部下に後をつけさせてます。たぶんクルト王子のもとへ向かっていると思われます」
「そう…クルト王子は王城に?」
「はい。そのはずです」
「僕はネロとももう一度話をしてみたい。なぜこんなことをしたのか。なぜ会ったこともない僕のことを憎んでいるのか。それにクルト王子に忠誠を誓ってるようには見えなかったし」
「ちょっと待ってください」
トラビスが話を遮る。
僕は視線をゼノからトラビスに向ける。
トラビスがとても怖い顔をしている。
「なに」
「ネロに会ったのですか?」
「会ったよ。自分がやったことを認めてた。僕を殺したいみたいだよ」
「はあっ?」
「静かにして」
「う…」
僕はトラビスにしばらく口を開くなと命じて、再び後ろのゼノに目を向ける。
「ネロはバイロン国の出身ではないと僕は思ってる」
「たぶんそうでしょう。国内のあなたくらいの歳の騎士を俺はだいたい把握している。だが宿でネロという人物を遠目で見たが、全く知らなかった」
「どういう経緯で第一王子と知り合ったんだろう」
「そうですね、気になります。それにあなたのことも気になります。もうここまで来れば大丈夫だと思いますので、王城に着く前に逃げてくれませんか?」
僕は勢いよく上半身ごと後ろを向いた。ゼノの服を掴んで叫ぼうとする口を手で塞がれる。
「お静かに。あなたまで騒いではダメですよ。わかりましたか?」
僕は何度も頷く。
ゼノが笑って、僕の口から手を離す。
僕はごく小さな声で聞いた。
「どうして?僕はまだ帰らないよ。リアムと会って話すまでは帰りたくない」