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その日の夜。
夕食を食べ終え、二人でソファに座ってテレビを見ていると、阿部のスマートフォンが鳴った。
画面には――
「深澤」
と表示されている。
阿部は目黒と顔を見合わせ、小さく笑った。
「ふっかだ。」
通話ボタンを押す。
「もしもし。」
『あべちゃんー!』
電話の向こうから、いつもの元気な声が響いた。
「どうしたの?」
『どうしたのじゃないよ!』
『照から聞いたぞ!』
『今日、家に行ったんだって?』
阿部は苦笑する。
「うん。」
『ずるい!』
『俺も会いたかったのに!』
その勢いに、阿部も目黒も思わず笑ってしまう。
「ごめん、ごめん。」
『俺だってリハビリ参加したかった!』
『照だけ抜け駆けなんてずるい!』
その言葉を聞いていた目黒が、小さく口を開く。
「じゃあ。」
「明日来る?」
電話の向こうが一瞬静かになった。
『……いいの?』
「もちろん。」
「俺たちも会いたい。」
『よし!』
『じゃあ明日行くね!』
『手ぶらじゃ悪いから、なんか持ってく!』
そう言うと、深澤は上機嫌のまま電話を切った。
阿部はスマートフォンを置き、目黒と笑い合う。
「ふっからしい。」
「元気出るね。」
目黒も穏やかに頷いた。
「うん。」
「電話だけで笑えた。」
___________
翌日の午後。
インターホンが鳴る。
「来た来た。」
目黒が玄関を開ける。
「お邪魔しまーす!」
深澤は大きな紙袋を抱えて立っていた。
「これ差し入れ。」
「この前テレビで紹介されてた洋菓子。」
「めちゃくちゃおいしいらしい。」
「ありがとう。」
阿部は嬉しそうに受け取る。
「ふっか。」
「ありがとう。」
「いいって。」
「俺が食べたかっただけだから。」
三人はリビングへ移動した。
深澤は洋菓子を皿へ並べながら言う。
「事件の話は禁止な。」
「今日は楽しい話しかしない。」
「異議なし。」
阿部が笑う。
「賛成。」
目黒も頷いた。
そこから始まったのは、本当に他愛のない話だった。
最近見たドラマ。
康二の天然発言。
佐久間とゲームで徹夜したこと。
ラウールがまた背が伸びたらしいこと。
途中、深澤が面白おかしくメンバーの近況を話し始めると、二人は何度も声を上げて笑った。
「そういえば。」
深澤がケーキを食べながら言う。
「照がさ。」
「『今日は人に会えただけで十分だ』って言ってた。」
阿部と目黒は顔を見合わせる。
「照らしい。」
「うん。」
深澤は笑いながら頷く。
「照。」
「心配してるくせに、ああいう言い方しかできないから。」
三人でまた笑った。
気付けば、あっという間に夕方だった。
「じゃあ俺帰るわ。」
深澤は立ち上がる。
「また来る。」
「今度はゲームでも持ってくる。」
「楽しみにしてる。」
「ありがとう。」
玄関で手を振り、深澤は帰っていった。
___________
静かになったリビング。
目黒がソファへ腰を下ろす。
「今日も。」
「楽しかった。」
「うん。」
阿部も嬉しそうに頷いた。
「照は何も聞かずに安心させてくれて。」
「ふっかはいっぱい笑わせてくれた。」
目黒は少し考えてから笑う。
「二人って。」
「なんか。」
「お父さんとお母さんみたい。」
阿部は思わず吹き出した。
「分かる。」
「照がお父さんで。」
「ふっかがお母さん。」
「すごくしっくりくる。」
二人は顔を見合わせて笑う。
「二人とも。」
「本当に温かいね。」
阿部がそう呟くと、目黒も優しく頷いた。
「うん。」
「俺たち。」
「本当にいい仲間に恵まれた。」
その言葉に、阿部も静かに微笑んだ。
二人のリハビリは、仲間の温かさに支えられながら、少しずつ前へ進んでいた。
___________
数日後。
この日は病院で傷の経過を診てもらう日だった。
朝。
支度を終えた二人は玄関に立つ。
ドアの向こうへ出るだけなのに、どちらも足が止まっていた。
目黒は玄関のドアノブに手を掛けたまま動けない。
「……あべちゃん。」
「うん。」
阿部も小さく頷くが、表情は少し強張っている。
家の外へ出ること。
人のいる場所へ行くこと。
事件以来、それだけで胸がざわつくようになっていた。
阿部は目黒の手をそっと握る。
「めめ。」
「一緒だから。」
目黒はその言葉に小さく頷いた。
「うん。」
「一緒。」
ゆっくりと玄関のドアが開く。
二人は手をつないだまま外へ出た。
___________
病院へ着くと、診察は思っていたよりも早く終わった。
医師は傷口を確認し、優しく微笑む。
「きれいに治っていますね。」
「今日で抜糸しましょう。」
阿部は少しだけ緊張した表情を見せたが、無事に抜糸は終わった。
「これで傷口は順調です。」
「無理は禁物ですが、少しずつ普段の生活へ戻していきましょう。」
「ありがとうございます。」
二人はそろって頭を下げた。
___________
帰り道。
行きよりも少しだけ表情は柔らかかった。
家へ着き、玄関のドアが閉まる。
目黒は安心したように大きく息を吐いた。
「帰ってきた……。」
その声には安堵がにじんでいた。
阿部は静かに目黒を見つめる。
目黒は引き出しから鍵を取り出し、何も言わずに阿部の右足へ鎖をつないだ。
カチッ。
小さな音が部屋に響く。
阿部は何も言わない。
ただ目黒の表情を見る。
目黒は申し訳なさそうに笑った。
「……ごめん。」
「まだ。」
「もう少しだけ。」
阿部は優しく微笑む。
「うん。」
「大丈夫。」
目黒はほっとしたように阿部の隣へ座った。
しばらく沈黙が流れる。
やがて阿部が口を開いた。
「めめ。」
「今日さ。」
「事情聴取の日より、大丈夫だったね。」
目黒は少し考えてから頷く。
「うん。」
「最初は怖かったけど。」
「あの日より、大丈夫だった。」
「俺も。」
阿部も静かに笑う。
「ちゃんと外へ行って。」
「ちゃんと帰ってこられた。」
「少し前進かな。」
「そうだね。」
目黒も穏やかに微笑んだ。
まだ鎖は外せない。
それでも、事情聴取の日のように二人とも心が崩れてしまうことはなかった。
それだけでも大きな一歩だった。
阿部は少し考えてから目黒を見る。
「めめ。」
「ん?」
「もし。」
「翔太の体調が大丈夫だったら。」
「会いたいな。」
目黒は驚いたように阿部を見つめる。
「しょっぴーに?」
「うん。」
阿部は静かに頷く。
「事件のあと、ちゃんと話せてないし。」
「俺。」
「翔太の顔見たら安心できる気がする。」
目黒は少しだけ笑った。
「俺も。」
「舘さんも一緒に来てくれたら。」
「もっと安心できそう。」
「じゃあ。」
阿部も微笑む。
「聞いてみようか。」
「うん。」
目黒はスマートフォンを手に取った。
二人のリハビリは、ほんの少しずつ。
それでも確実に前へ進み始めていた。
コメント
1件
え〜〜〜っ、第17話も最高だったよ!!😭💕💕 ふっかからの電話、めっちゃ彼らしいし、「照がお父さんでふっかがお母さん」って言うめめのセリフに爆笑したw 確かにしっくりくる!!笑 そして病院行く前に二人で手を繋いで外に出るシーン、胸がぎゅーってなったよ…。怖いのに一緒にいるから頑張れるの、尊すぎる💦 最後の鍵のシーンも切ないけど、めめの気持ちも分かるし、“少しずつ前進”って言葉にめっちゃ希望もらえた! みらさんの描くスノのみんなの優しさに癒されまくりです。次話も楽しみにしてるよ〜!!🌸✨
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三文小説
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