あくまで個人の趣味であり、現実の事象とは一切無関係です。
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メンバーのみで開催された飲み会。いつの間にか出来上がって瀕死のりぃちょに近づく。酒の入ったグラスを大事そうに握り締めながら、首の座らない赤ん坊のように脱力し頭を揺らしていた。
「お前そろそろやめとけば?」
「んふ、まだのみたい」
「でも全然進んでねぇし、顔真っ赤じゃん」
「えぇ…んん、ニキニキがいうならやめとこぉかなぁ…、これ、あげる」
そう言って当たり前のように飲みかけのグラスを押し付けてきやがった。一口舐めたがウイスキーの味がほぼしないハイボールは飲めたもんじゃなくて、近くにあったメーカーズマークを注ぎ足した。
「水、いる?」
「いらない」
俺を見上げたその目が、今にも泣き出すのかと錯覚するくらい潤んでいる。不安定な声だった。馬鹿みたいにギャハギャハ笑っている時の叫び声とも、伸びやかな歌声とも、どれとも違う知らない声だった。普段聞く芯の強いハッキリした輪郭はそこにはない。むしろ酒に負けて疲れ果てた哀れな姿を体現しているようにすら思えた。
「ニキニキ」
ゆったりと動き出した腕が甘えるように首に巻きついた。愚図る子供みたいな話し方で何度も名前を呼ばれる。普段は気にもしないが、体丸ごと包み隠せてしまえそうな小柄な体躯。何度も見てきたし、何度も触れてきた。こうやって抱きつかれる事だって数え切れない程あったと言うのに、画面越しじゃ絶対に伝わらない頼りなさに今更驚きが隠せなかった。
触れている事が恐ろしくなって離れようと身を捩るが、不機嫌そうに擦り寄って腕に力を込めてきた。俺の知る彼の姿からは想像が出来ない。普段は俺よりよっぽど自立していて、一人で生きていけそうな雰囲気を纏っている。それなのにアルコールに暴かれた今、人肌に触れていなければ死んでしまいそうな危うさがあった。思わず頬に触れれば、満更でもなさそうな笑い声を溢す。
「ふふ、なぁにニキニキ」
顔を覗き込めばアルコールで染まった頬や唇、水分量の多い瞳から目が離せない。一気に酒が回ったと勘違いするくらい脈が早くなり息が詰まる。
「俺、お前の事好きになったかもしれん」
「おれたち付きあってたんじゃないの?」
「っ、りぃちょさぁん、惚れ直したってことですやん」
我ながらとんでもない失言をした事に気づいて慌てて誤魔化したが、特に気にした様子はなくヘラヘラ笑っている。
「にきにき、おれはね」
伏せられた目にほんのり上がった口角。まるで歌うような口ぶりはどこまでも幸せそうだ。
「おれは、ずっとすきだったよ」
俺を非難する声も怒りも何もない。ただ幸せそうに優しい顔でお前は歌う。
「やっと、好きになってくれたね」
ほんの少しの寂しさを含んだ声に思わず彼の手を取った。嬉しいと思ってくれたのか、ふよふよ笑うと繋がれた俺の手を遊ぶように握ってくる。繋いだ手が離れてしまわないように握り直した。
バレていたんだコイツには。好きになり切れず、愛してるなんて面倒くさい言葉に縛られるのが嫌で逃げてきた事を。上手く誤魔化せているとすら思っていた。抱かれた後、煙草の匂いさえ残さず他の女のところへ向かう俺をどんな気持ちで見送っていたんだろう。偽物だと気づかれない愛なら、本物みたいなもんだって俺の言い分は普通に考えれば通用するわけがない。
なんて酷い事をしてきたんだろう。顔を上げられないほど反省していれば突然非難の声が飛んできた。
「ニキくん。今の話どういう事かな」
「おいニキ、今のは惚れ直したって話じゃないな」
「正直に話しなさい。ニキニキ、私の納得出来る話が出来るんだろうね?」
ボビーとキャメからの、呆れていますと伝わってくる視線。それと案外りぃちょのことを気に入っている18号からの鋭い目つきに突き刺される。
「いや、あの…これはね?」
弁解する余地もあるはずはないのだが、何とか切り抜けようとする度に目一杯叱りつけられる。俺だっていい大人なんだけどな。
間に合うかな。まだ間に合うのならこれからもう一度恋愛を始めたい。ちゃんと手を繋いで二人でスタートラインを歩き出したい。
俺の願いを知らないりぃちょは、隣に座り未だに俺の手で遊びながらふわふわと幸せそうに笑っていた。
コメント
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表現豊かで、文章とは思えない程想像がしやすく読みやすかったです...フォロー失礼します🙇🏻♀️💓