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【月&L】

「──あれが欲しいです」

ニアが指さしたのは、射的屋台の棚の最上段。

そこには、煌々とライトを浴びて鎮座する「メトロポリマン」の限定フィギュア。

白黒のボディに紫のマント、完璧なプロポーション。

見るからに“取らせる気がない”絶妙なバランスで、台座の端に置かれていた。

「夜神くん、欲しいそうです」

Lが人差し指で、隣の少年──ニアを示す。

ニアは黙ったまま、射的台をじっと見つめている。

「……なんだよ、L、取れないのか?」

月が片眉を上げて、皮肉っぽく言った。

Lはわずかに首を傾げ、静かに応える。

「物理的には可能ですが、あの位置と重心は非常に厄介です。しかも、メトロポリマンは……重い」

「つまり、Lには難しいってことだな」

チラリと挑発的に月が目線を送った。

「言い訳かな?」

その瞬間、Lの目が鋭く光った。

「いいだろう夜神月。あなたがそこまで言うなら受けて立ちます」


──ふたりの間に、火花のような空気が走る。


狙うは、たったひとつのフィギュア。

けれどそこにかかっているのは、自分こそが“優れている”という証明だった。

ニアはそんなふたりを見上げて、目を細めて呟く。

「メトロポリマンが、今夜一番の被害者ですね」

誰もが聞き逃したその声だけが、風にまぎれて小さく響いた──

月が銃を構え、空気がピンと張り詰めた。

射的台の上、重心ギリギリの場所に置かれた「メトロポリマン」──まるで試しているかのように微動だにしない。

(こういうのは角を狙うんだ……)

狙いを定めて、

「……ここだ」

指が、引き金を絞る。


──パン!


弾が台座を撃ち、メトロポリマンの足元がカタリと揺れる。

──が、それきりだった。

「……!」

月の眉がわずかに動いた。

「揺れはしたが……持ちこたえたか」

Lが、その様子をじっと見ていた。

指先で唇を押さえ、そっと銃を手に取る。

「見事でした。夜神くん。でも──その“惜しさ”は敗北の香りがします」

「言ってくれるじゃないか」

Lは銃口を、月とまったく同じ支柱に向けて構えた──

だが、彼の狙いは“ほんの少しだけ”ずれていた。

その角度に、月の目がすぐさま鋭く反応する。

「……そこじゃ倒れない。お前も外すつもりか?」

Lは視線を逸らさず、ぽつりと返した。

「“正解な場所”が必ずしも“勝利を生む場所”ではありません」

「つまり、“失敗しても格好つけたい”ってことか?」

「いいえ。“正しさ”と“勝ち筋”を混同することの危険性を、あなたに教えてあげようと思いまして」

「……言うようになったな。じゃあ、見せてみろよ──Lの“勝ち筋”とやらを」

「こういうのは……“感覚”です」


──パン!


鋭い一撃が、わずかに斜めに角を狙う。

軽やかだが重みのある一発。

狙いは、台座の裏側、わずかに“支柱から反射が返る角度”だった。

コンッ──と甲高い音を立て、フィギュアの背後の支えが揺れる。

そして次の瞬間──


ガタンッ!


メトロポリマンが傾き、ついに前のめりに倒れた。

「……!」

月がわずかに目を見開く。

Lは、銃をゆっくりと置いて、何事もなかったかのように言った。

「誤差とは、神のいたずらか、天才の勘か──さて、どちらでしょうね」

月は、しばしフィギュアを見つめたまま沈黙していたが、やがて肩をすくめて、笑った。

「どちらにせよ……“僕の負け”には変わらないってことか」

「はい。敗北を認めていただけて、光栄です」

ニアにメトロポリマンを渡すと嬉しそうに微笑み早速中身を開けようとしていた。

そんなニアを連れて、人の邪魔にならない端によると、Lと二人で木陰に持たれながら話をした。

月は、手元に残った空の射的銃の感触をまだ忘れられずにいる。

一方のLは、目の前の屋台で買ったチョコバナナを口に運びながら、僕の隣に戻ってきた。

「……なあ、L」

「なんでしょう、夜神くん」

ふと、“あの時の勝負”を思い出した。

「お前は僕に“勝ちたかった”のか?それとも……“僕に勝たせたくなかった”のか?」

しばらく沈黙した後、Lは答えた。

「どちらも当てはまっています。しかし、“あなたにだけは、真っ直ぐに向かい合いたかった”。それが一番、近いと思います」

月は少し眉をひそめたまま、Lの横顔を見つめた。

「……昔は、敵だったのにな」

「そうですね。あなたを“捕まえること”が、私の全てだった。でも──あなたが全てを自分で捨ててしまった時、私の目的も……消えました」

「……僕が勝ったら、何か変わってたのかな」

「変わっていたでしょうね。それはもう、大きく」

夜風が涼しく吹き抜け、二人の間に少しだけ静寂が降りた。

──けれど、月はそのまま前を向くとひとこと言った。

「……次は勝つよ、L」

チョコバナナを食べ終えたLが、串を手の中で軽く転がす。

「そうですね。期待しています、夜神くん。“あなたが私に勝つ未来”も、少し──見てみたくなりました」

ふたりは、何も言わずに目を合わせる。

そこにあるのは、憎しみでも優しさでもない。

ただ、“理解”と、“対等な緊張”だけだった。

「……そうやって、簡単に気を許すなよ」

「いえ。許したわけではありませんよ。ただ、“あなたと歩く今”が、嫌いではないのです」

──勝敗の意味も、正義の形も、何もかもが曖昧になっていく中で、それでも隣にいる相手を信じるという感情だけが、やけに確かにあった。

「むしろ、私は感謝しているんです。あのノートを拾ったのがあなたで良かったと」

Lはそう言って、少しだけ目を伏せた。

串の先に残るチョコの欠片が、夜風に溶けそうに揺れていた。

「……感謝?」

月は静かに聞き返す。その声には、わずかに疑念と戸惑いが混じっていた。

Lは続けた。

「もし、あのノートを“別の人間”が拾っていたら──世界はもっと乱雑に、もっと醜く壊されていたと思います」

「………………」

「あなたは、“自分が正義だ”と信じて、殺した。間違っていたとは思います。でも、そこには“思考”があった。“意志”があった」

Lの声は穏やかで、どこまでもまっすぐだった。

「私が戦ったのは、“狂人”ではなく、“理性を持った殺人鬼”でした。そして──“まだ人であろうとしていた人間”でもあった」

月はその言葉に、少しだけ目を見開いた。

そして静かに口を開く。

「……それって、慰めのつもり?」

「いえ……私にとっての“真実”です」

「……お前、やっぱり、変だよ。敵だった人間に、そんな風に言えるなんて」

そう呟いた月の言葉に、Lはわずかに目を伏せ──けれど、すぐに淡々とした声で返した。

「……そうですね。ただの“敵”なら、そんな風には言わなかったかもしれません」

月が静かに息を止めた。

Lはほんの少し、目を細めて続ける。

「──夜神くんは……私の、初めての“友達”ですから」

その一言に、夜の空気がふと変わった気がした。

月は、瞬間、冗談かと思ったのか苦笑を浮かべかけた──だが、Lの表情は、いつになく真剣だった。

「……本気で、言ってる?」

「ええ。本気です」

「……皮肉だな。僕は、君を倒すためにどれだけの時間を費やしたか分からないのに」

「私もです。でも、その時間がなければ──“友達”なんて言葉、きっと知らないままでした」

Lは、少しだけ視線を空に向けた。

「だから。感謝しているんです。……あなたと出会えたことに」

月は言葉を失ったまま、ただ夜空を見上げた。

「それいうなら、僕の方だ──」





「──ありがとう、僕に明日ミライをくれて」





頭の奥に、過去の罪や重さがいくつも浮かんでは消えていく。

でも今、Lと並んで見ているこの空だけは、どこまでも澄んでいた。

「……未来を選んだのは、あなた自身ですよ。私はただ、“あなたが戻れる場所”を残しておいただけです」

「それでも──Lがいなかったら、きっと僕は……どこにも戻れなかった」

ふたりの目が、今、ようやく正面から重なった。

かつては“敵として”、

今は、“友として”。

この一言に、何年もかけてようやく届いた想いが、静かに宿っていた。

「……なあ、L」

「なんでしょう、夜神くん」

「もう、手錠は要らないよな?」

軽くジョークで言ってみた。

ひとつだけ、軽くうなずいた。

「ええ。もう“疑い”ではなく、“信頼”で繋がっていますから」

夜風が、ふたりの浴衣を揺らした。

「ありがとう。今度は僕がLを──助けるよ」

未来はまだ分からない。

けれど、その隣に“誰かがいる”という事実だけが、確かだった。

「──ところでその仮面ライダーの面は何?」

Lは自分の頭に乗ったままの仮面を、手のひらでそっと外した。そして、月の顔をまっすぐに見つめたまま、手の中の『正義』を月へと向ける。

「……夜神くん」

「ん?」

Lは静かに、一歩近づく。

ポスッと顔に仮面が当てられた。



「──今度は、あなたが“正義”です」



月は驚いたように目を瞬かせたが──

次の瞬間には、ふっと笑って仮面を受け取っていた。

「……じゃあ、今度こそ僕は“悪”じゃなくていいんだな?」

Lは、小さくうなずいた。

「正義は力や理屈じゃなく──“何を選ぶか”ですから。あなたは今、かつてよりもずっと正しい正義を選んでいる」

「へえ……それ、Lが言うと重たいよ」

「でも、本音です。……あなたなら、任せられる」

月は、仮面を胸元で握りしめ、遠くの空を見た。

「……なんかさ。昔の僕が見たら、びっくりするだろうな。“Lから正義を譲られる”なんて」

「“譲る”のではなく、“返した”んです」

Lのその言葉に、月の目が揺れた。

「……ありがとう」

「いいえ。ずっと、あなたのものでしたから」

ふたりの間に、今度こそ“手錠”の代わりになるものが、生まれた気がした。

「Lが友達で……良かった」

その言葉に、Lはわずかに目を見開いた。

けれど、すぐに、いつもの淡々とした口調で──しかし、どこか柔らかな声音で、返した。

「はい。……私も、夜神くんが友達で良かった」

ふたりの影が、屋台の灯にゆらりと重なる。

もう“追う者”と“追われる者”ではない。

“正義の味方”でも、“裁く者”でもない。

ただ、祭りの終わりを一緒に歩く、“友達”として。

仮面越しに笑う月の横顔を見ながら、Lもまた、心のどこかで微笑んでいた。


デスノート[夏祭り編] -あの夏、僕らは笑っていた-

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