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入学式。それぞれクラスごとに分かれて並ぶらしく、自分の名前を確認して席に着くと隣には朝の男子生徒がいた。
「あ!同じクラスだったんだな!僕、中島敦。よろしく!お前は?」
「…僕は芥川龍之介」
人と話すのが苦手なのか、それだけ言うとふい、とそっぽを向かれてしまった。……折角友達ができると思ったのに。
しかし、芥川龍之介というのか。「やつがれ」なんていう1人称も初めて聞いたし、なかなかに個性がある生徒のようだ。
「あーー早く終わらないかなー。校長先生の話なんか、眠くなっちゃうよ」
「静かにしろ。…もうじきに終わる頃だろう」
芥川は存外真面目な生徒らしい。その後も何度か話し掛けたが、嫌そうな顔をしながらも律儀に応えてくれた。
長かった入学式もあと少しで終わる、そんな時。
「ゴホッゴホッ!!ッ、ゲホッ、カヒュッ、」
隣から、掠れた呼吸と、咳き込む音が聞こえた。
────どうしよう、こういう時はどうすればいいんだ!?
皆の注目が芥川に集まっている。芥川は辛そうに床に蹲って咳をしている。
どうにかしたいけど、どうにもできなくて。周りを見渡した時、聞き覚えのある声がした。
「芥川君!大丈夫かい?ほら、体勢を変えなさい。それじゃあ呼吸がしにくいでしょう」
「ゲホッ、!ぁ、すみませぬ、太宰さ、ゴホッゴホッ!!」
「ほらほら、無理に話さないの」
「はぁ~い皆~。この子は保健室に連れていくから心配しないでね~」
黄色い悲鳴が体育館に響く。歓声に紛れて、「ねえ、生徒会の太宰先輩よ!!」「かっこいい~♡」という声が敦の耳に入ってきた。
太宰治。敦の中学の先輩で、度々助けてくれる、頼りになる人である。……何かと問題を起こすのを好む人であるが、何だかんだ尊敬している人でもある。そして何よりめちゃくちゃモテる。それは高校でも変わっていないようだ。
太宰は冷静に芥川の過呼吸に対応し、そっと背中をさすっていた。芥川も敦と同じく新入生である。にも関わらず、なぜ名前が分かったのだろうか。もしかして知り合いなのかもしれない。
気付いたときには芥川の呼吸も正常に戻ってきて、芥川は太宰に支えられながら保健室へと向かっていた。
色々聞きたいことはあったが、それを聞くのはもう少し後にしておこう。
敦は、そっと静かに自分の席に戻り、再び話し始めた先生の話を聞くことにした。しかし、芥川のことが心配で、結局内容があまり頭に入ってこなかった。
入学式が終わり、生徒達が自分のクラスに移動し始めたが、敦は担任の先生に許可を貰い、保健室によってから教室に行くことにした。自分でも何故今日始めて会った人がこんなに気になるのか、よくわからない。
保健室のドアを開けると、何やら話している声がした。
ドアに頬をぴったりと付けて耳を澄ます。この声は、芥川と────太宰さん。
敦は耳が良い方だが、ドアが厚くて途切れ途切れにしか聞こえない。何を話しているのだろうか。
「ーーーなんだから、ーーー。ね、芥川君」
「ーーー!ーーです、太宰さん」
やっぱり二人は知り合いだったのか。仲良さそうだし。しかも名前で呼んで……。彼奴……僕のこと名前で呼ばないのに。
何だかモヤモヤする。何だろう、これ。僕らしくない。
そういえば、僕は芥川の様子を見に来たんだった。早く入らないと。
「えと…芥川……、大丈夫?」
「嗚呼、敦君!芥川君の様子を見に来てくれたのかい?良い友達を持ったじゃあないか、芥川君」
保健室のドアを開けると、おどおどしている敦を太宰が笑顔で迎えた。対して、芥川はそっぽを向いている。
太宰は少しだけ芥川と話して、そのあと自分の教室に戻っていった。
「太宰さんと、知り合いだったんだな」
気まずい沈黙に耐えかねて、絞り出したのがこれ。芥川は無言で頷く。自分でも何が言いたいのかわからない。さっきから、気が急いて気が急いて、空回ってばかりいる気がする。何だか今日はおかしい。
芥川は不思議そうな顔をして、枕を背にして座っている。もう呼吸も落ち着いているらしい。
ふと、青白い手が目に入ったので握ると、思った以上にひんやりしていて思わず上擦った声が出た。
「うわっ!冷た!!!」
「…何だ急に」
「寒そうだったから…。ここまで冷たいとは思ってなかったけど……。カイロ要るか?」
「必要ない。それよりも、HRはいいのか?」
「……わ、忘れてたっ!!!!」
ばたばたと保健室を出ていく敦の後ろ姿を見送る芥川の口は、いつもより緩んでいた。