テラーノベル
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コメント
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新しい物語デス☔️ 実は君僕奥様は魔女編よりも先に描き始めたのですが、途中で挫折した作品。 なんとか復活😅ストックがあまりないので週末限定での投稿になるかな??? 紫の巨塔がちょっと行き詰まってるので焦ってます🤣💦
◆あらすじ◆
雨の日だけ現れる男と、山の麓で静かに暮らすひとりの青年。誰かに踏み込まれることを避けてきたはずの心は、どこか不器用で誠実なその男に、ゆっくりとほどかれていく。言葉を持たないまま近づく距離、触れ合うことでしか確かめられない想い。やがて一線を越え、確かに重なったはずの関係。しかしその温もりの奥には、拭えない違和感が残っていた。向けられる視線の先にある“誰か”の影と、自分に重ねられる記憶。満たされるほどに空いていく心の隙間の中で、名前のない関係が静かに揺らぎはじめる――。
序章 小雨のドアベル
ドアベルが鳴るより早く、ガラス越しに見えた影でわかった。
また雨だ。そして、またあの男だ。
店の扉が開いた瞬間、カラコロと鳴った鈴の音は少しだけ俺を高揚させた。
途端に湿った空気と一緒に、大きな体が入り込んでくる。筋肉の輪郭が浮く濡れたシャツ、無造作な髪から滴る水滴。
アウトドア雨男……俺が勝手にそう呼んでいる。
何故だか胸の奥が、少し跳ねた気がした。
「……やっぱり降られた?」
タオルを差し出すと、彼は短く「ん」とだけ答えて受け取った。その無愛想さに似合わず、指先が触れた瞬間だけ、やけに慎重になるのを俺は知っている。
奥の席では、さっきまで別の客と笑っていた。その名残のせいか、彼の視線が一瞬だけ固くなる。
「今日は、混んでますね」
「うん。雨の日は不思議とお客さん多くてね」
何気なく言っただけなのに、彼は少しだけ眉を寄せた。意味はわからない。でも、空気が変わる。いつもより近くに立った雨男が、体温のわかる距離まで来る。
低い声を耳元に寄せて、少し不機嫌そうに呟いた。
「……お前、無防備すぎ」
「え?」
振り向いた瞬間、目が合った。近すぎて、雨音しか聞こえない。ただのどこにでもいる店主と、ただの雨宿りの男との間に、何かあるわけでもないのに。
ドキドキと苦しく打つ心臓の理由も、彼とのその距離の理由も、俺はまだ知らない。
それでも、はっきりしていることがひとつだけある。
彼と初めてここで言葉を交わした日も、やっぱり雨だった。
あの日の雨は、今日よりもずっと強くて――