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「ほら、次の授業が始まるから戻ろう。勉強頑張ってね」
「うん!」
スッキリしたおかげで4時間目は普通に頑張れた。
メルちゃんはちょっと疲れた様な顔をしてたけど、たぶん気のせいだと思う。授業が終わるころには妄想ノートを見てニヤニヤしてたし。
カラーン……、カラーン……、カラーン……。
「はぁー、やっと給食だねー」
普通とか特別とか色々あって余計に長く感じた。
勉強も集中しすぎてもうぐったりだ。お腹すいた……。
「そうだね。あ、今日は私たちの班が配膳当番だね」
「あー、そうだったねー。行こうか」
「ほーい」
……はぁ、お腹が空いてる日に限って配膳当番なんて、ついてないな……。
わたし達はクラスの給食を受け取りに配膳室に向かう。
他のクラスの配膳係が並び、順番に受けっとってるのが見える。
配膳係の唯一の利点は、いち早く給食の匂いを嗅げることだと思う。
「すー、はー……んっ!?」
「あ、この匂い……」「アリアちゃん、ストッ―――」
「カレー!!」
「「「「 !? 」」」」
この匂いは間違いなくデザートカレーの匂いだ!
久しぶりの至高の料理登場にテンションは一気にマックスになる。
今日のモヤモヤは完全に吹き飛んだ。デザートカレー万歳!
「そわそわ、そわそわ……」
「アリアちゃん、落ち着こう」
「うん! そわそわ……」
前で違うクラスの人が自分のクラス分を受け取り、わたしの横を通り過ぎて去っていく。
……ああ、いい匂いだよ……。
今日の総菜は何かな?
確か、前回はカツとハンバーグの究極の二択だった。
……目の前で二人の天使が引き裂かれたのは悲しかったけど、友達が分けてくれたおかげでハッピーエンドを迎えることが出来たんだよね。
今日はなにかな? いつも通りなら一種類のはずだけど……。
「はーい、次のクラス、どうぞー」
「はいっ!」
「おや、アリアちゃんかい。ほい、今日は大好物のカレーだよ。こぼさないようにね」
「はいっ!」
わたしは鍋を受け取り、台車に乗せる。
ちらっとふたを開けると、出来立てのいい匂いがしてヨダレが出て来た。
「じゅるじゅる……」
「アリアちゃん、流石につまみ食いは不味いよ。それは全員分なんだから」
「うん、じゅるじゅる……」
注意されたわたしは泣く泣くふたを閉める。
カレーが見れないなら……総菜を。
カレーの匂いを堪能しつつ、今日の相棒となる総菜ケースに目を向ける。
「……あれはまさか……エビフライ!」
エビフライ。
それは、カツやハンバーグとは違う意味での頂点の一角。
カツとハンバーグが肉系の頂点なら、エビフライは海産系の頂点になる。
両者が決勝でぶつかれば、引き分けで両者優勝になると思う。
そんな逸品がエビフライという存在。
単体では普通のフライでも、カレーと合わさると至高の一品になる、そんな存在。
「ふふふふ……」
完成図を予想すると思わず笑みがこぼれる。
……最近いいことが余りなかったのは、きっとこの時の為だったに違いない。
そうだ! さっちゃんと一緒に食べられればもっと幸せに!
「ふふふふ……」
「……また自分の世界に……。給食を食べれば落ち着くかな?」
わたし達は配膳おばちゃんから給食を受け取って教室に戻る。
「ふふふふ……」
「ほら、準備するよ。アリアちゃんも手伝って」
「ふふふ……うん? あれ?」
目の前でカレーが減っていき、エビフライたちが次々と去っていく。
「アリアちゃん、サラダお願いね」
「……うん……」
そうだった。今のわたしは単なる配膳係。
大好物と天使を見送ることしか出来ない存在。
「……」
目の前で天使と楽園があわさり、天国のごとき光景が広がっている。
わたしはそのおぼんにサラダを乗っけるだけ。そして天国が去り、次の天国がやってくる。そしてまたサラダを乗っけて天国を見送る。
「……わたしは無力だね。大切なものを見送るしか出来ないなんて」
「ソウダネー」
「どうしたらいいと思う?」
「サラダを乗っけてればいいんじゃないかな」
「そっか……」
わたしは助言を受け、粛々とサラダ係に徹する。
もう天国は見ないことにした。見るのは空いてるサラダスペースだけ。その方が精神的に楽な気がする。
「ふぅ……終わったーーー……」
「私達も取ろう」
「そうだね……ん?」
総菜ケースを見ると、エビフライが一本多く入っている。
わたしたちの人数とエビフライの人数が合ってない。今日はお休みの人はいないし、全員に配り終わってる。と、いうことは……。
「「「「「「 じゃんけん、ぽん! 」」」」」」」
わたしたち配膳係の気持ちはみんな一緒だ。みんな欲しいに決まってる。
配膳係の特権の一つ。
万が一、人数分以上に多く入っていた時は、配膳係りが優先してもらえる。
「勝ったーーー!!」
わたしは奇跡の勝利を手にした。
6人じゃんけんなのに一発で決まった。エビフライ2本にかけてチョキを出したのがよかったのかもしれない。エビフライがわたしを選んだとしか思えない。
「ふふふふ、えっび、えっび♪」
「おめでとう」
「うん、ありがとうー♪」
わたしの楽園カレーには、2体の天使が手をつないでダンスをしている。
カツ天使とハンバーグ天使の奇跡再び。今は2体のエビ天使が踊ってる。
「ああ、美味しいよー……。一本食べても、もう一本あるー……」
うちの領地は海と山が近いので、海産物もいいモノが多い。
このエビフライも、養殖に比べると明らかに大きく、ぷりぷりしてとても甘い。
山菜は苦手だけど、好きな人に言わせると山菜も美味しいらしい。
……この領地に生まれてよかったー。
他の領地の事はよくわかないけど、うちの領主様は「食」にも力を入れてると聞いたことがある。飢えないように、そして美味しいものを食べられるようにって。
……あの超絶美人の女神様。あの人がうちの領主様なんだよねー。なんか、本当に「女神」って気がしてきたよ。
「ふう、ごちそうさまでした……あっ……」
「ん? どうしたの」
エビフライ2本に浮かれ、さっちゃんの事を忘れていた。
一緒に食べようと思ったのに……。
さっちゃんの事を忘れさせるとは……エビフライカレー、恐るべし、だね……。