テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
アーサーの回想シーン
「あいつの目、ずっと俺だけを見てた」
薄暗い部屋の中。手首に巻かれた布の感触を、アーサーは無言で見つめながら、過去の記憶を掘り返していた。
――あいつ、アル。
今でこそこんな狂ったことしてきてるけど、昔は……いや、昔から、ちょっと変だったのかもしれない。
あれは、確か中学の頃だった。
「アーサー、それ食べないならもらっていい?」
「あ?いらねぇなら捨てろよ」
「ううん、捨てるのもったいないから。……アーサーが残したやつなら、美味しく食べられる」
「……は?」
今思えば、あの時からアルはどこかおかしかった。
でも、表向きは“優しくて、気が利くいいやつ”だったから、周りは誰も気づかなかった。
放課後、俺が寝てるふりしてた教室で。
「……アーサーって、ほんと無防備だよね。
そんなに無防備だと、誰かに攫われちゃうかも……」
誰もいない教室で、耳元にそっと囁かれた声。
あの時は冗談だと思って、寝たふりを続けた。
でも背筋に走ったぞわっとする感覚だけは、今でも鮮明に覚えてる。
そう――あいつの目。
笑ってるくせに、感情が読めないあの目が、昔からずっと気になってた。
やけに距離が近かった。
やけに俺の言葉に一喜一憂してた。
やけに、他のやつと話すとムスッとしてた。
けど、俺はそれを見ないふりした。
都合の悪いものは、見なけりゃ済むって思ってた。
……今になって、それが全部自分に返ってきてる。
「バカみてぇだな、俺」
布に縛られた手首を引っ張っても、外れる気配はない。
アルのやつ、無駄にそういうとこだけ手が込んでる。
思い出の中のアルは、まだ“普通”だった。
けど、あの目だけは――あの頃から、ずっと俺しか見てなかった。
重たい。
気持ち悪い。
でも、だからこそ――どこか、胸がざわつく。
(……なんで、ちょっとだけ、嬉しかったんだよ。俺)
自嘲するように、アーサーは目を閉じた。
でもまぶたの裏には、あの日のアルが焼き付いて離れなかった。
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!