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喉が渇いて、頭が痛くて、土曜の朝は最悪の目覚めだった。
あ―これは完全に二日酔い。
そんなに強くないのに、昨夜は自棄酒とばかりに飲みすぎた。
かなり身体がだるいけど、喉の渇きに耐え切れずにしぶしぶ起き上がり部屋を出て一階に降りる。
キッチンに入り冷蔵庫から私用のミネラルウォーターを取り出していると、お母さんが現れた。
私の様子をじろっと見ると、それは嫌そうに顔をしかめる。
「本当にだらしないわねえ……誰に似たのかしら?」
溜息交じりに言われたけれど、しょっちゅう言われている台詞なのでもう慣れてしまっていて、今更何も感じない。
それにお母さんが言うほど極度にだらしないとも思ってないし。
土曜の朝。二日酔いの黒ずんだ隈の出来た顔で、パジャマのままフラフラしてる人なんて沢山いると思う。
むしろ、土曜は平日の仕事と遊びで疲れてダラダラしている人の方が多いんじゃないかな?
ミネラルウオーターのペットボトルの蓋を外して口に運び、ゴクゴクと喉に流し込む。
冷たい水が身体に染み渡って、ああ気持ちいい。
ムカムカしていた胃も少しはましになった気がする。
でもまだ眠いしダルイからもう少し寝ようかな。
そう思って二階に上がろうとすると、お母さんの小言で阻止された。
「まさかまだ寝る気?」
「え……ちょっと具合悪いから休もうと思って」
「具合悪いって二日酔いでしょ? そんなの身体を動かせば直るわよ」
お母さんはどうしても私の睡眠を邪魔したいのかやけに突っかかって来る。
「本当に情けない。昨日だって大樹君に迷惑かけて、恥ずかしいと思わないの?」
「……大樹?」
その名前を聞いた途端、頭の中に昨夜の出来事が思い浮かんだ。
大樹は真剣な目をして私を見つめて……。
『花乃が好きだった』
『俺諦めないから。覚悟して』
それだけじゃなく、『花乃を奪われたくない』とか『誰にも渡さない』とか、信じられない位に過激な発言をしていた。
……正直信じられない。
あの大樹が私を好きだなんて。しかもあんな……熱烈な発言をするなんて。
昨夜のことを思い出してぼんやりとしていると、お母さんの小言の続きが聞こえて来た。
「大樹君にちゃんとお礼言うのよ? あんたがフラフラしてるからわざわざ送って来てくれたんだからね」
「送ってくれたって……隣なんだしただの通り道だし」
ボソッと呟くと、それを聞き逃さなかったお母さんに早口にまくし立てられる。
「どうしてそんなに大樹君に対して横暴な態度ばっかり取るの? 大樹君は優しくて礼儀正しくていつも気持ちよい挨拶をしれくれる凄くいい子よ。花乃はそんな大樹君に対して……」
いつもだけどお母さんの小言は終わりがない。
何かのストレス解消?って思ってしまうくらいだ。
「分かった、ちゃんとお礼言うから」
不満はあるけど、二日酔いで絶不調の今日、喧嘩する気力は無い。
二階の自分の部屋へ退散するべくキッチンを出る。
「口だけじゃなくってちゃんとするのよ!」
背中にキンキンした声が追いかけて来る。
うちのお母さんはもう二十五歳になる娘に対して口煩すぎる。
精神的に疲れ果てて少し前に起きたばかりのベッドに倒れこんだ。
ふかふかした布団に突っ伏しているとまた眠気が襲って来る。
……今日はもうダラダラと身体を休める日にしようかな。
休みの日に何もしないのってなんとなく無駄な時間を送ってしまう気がして躊躇うんだけど、今日は特別だ。
何しろ昨日こっぴどく失恋したばかりだし、完全に恋愛対象外だった大樹にまさかの告白までされて、心がとっても乱れて疲れている。
うん、そうしよう。今日は休み。
素早く割り切って私はぬくぬくと布団に包まる。
ああ……気持ちがいい。癒される。
あっという間に瞼が重くなって来る。
このまま頭も心も休めよう。
そうしてあとほんの少しで夢の世界へ突入しようとしていたところで、
「花乃!」
ドンドンと扉を叩く音と、お母さんの甲高い声が聞こえて来て、私はぱちりと目を開きそれから大きな溜息を吐いた。
今度は何だって言うの?
うんざりしながらドアの向こうに声をかける。
「何~?」
同時にガチャリと音を立て、遠慮無しにドアが開く。
面倒な気持ちになりながら寝転がったままドアの方に目を向けた私は、次の瞬間、ぎょっとして飛び起きた。
「な、何してるの?!」
お母さんの後ろにはどうしてかは分からないけど、大樹が居た!
「おはよ、花乃」
大樹は私の慌て様に少し困った表情をしてから微笑んだ。
「おはよーじゃなくて何でここに居る訳?」
仮に重要な用が有ったとしたって普通はまず電話して来ない?
それが無理でもせめて玄関のインターフォンを鳴らさない?
なんで全て飛び越えていきなり個人の部屋に現れるの?
有りえない!
「花乃に電話したんだけど出ないから心配になって来てみたんだ。そしたら……」
「私が上がるように言ったのよ。昔はこうやってお互いの部屋に行き来してたでしょ?」
大機の言葉を遮ってお母さんが言う。
でも行き来していたのはもう二十年近く昔の話です。
幼馴染とはいえ、成人した独身女性の部屋に。しかも寝起きだと分かってるのに連れて来るこの無神経さ、我が母ながらすさまじい。
唖然としていると、お母さんは上機嫌で「じゃあ、ゆっくりしてね」なんて言いながら大樹を残して一階に下りて行った。
残されたのは、私と大樹。
当然ふたりきり。
非情に気まずい状況の中、大樹がおずおずとした様子で言った。
「花乃、急にごめん。俺部屋の外で待ってるから落ち着いたら呼んで」
大樹はそう言ってパタンと扉を閉める。
部屋は私一人になり、とりあえずホッと息をつく。