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カラン、と氷が音を立ててなる。
周りは今日もお酒を飲んで大切な人と盛り上がってる。それに比べて、、、。
「はぁ、。」
いまだに埋まらない隣の席。スマホには「少し遅くなる」との簡潔なメッセージ。
スマホのメッセージ履歴には「遅くなる」「うん」としか書いていない。それ以外の会話はなし。
いるからだろう。数か月前までは鳴る通知が途切れることはなかったのだけど。
恋人になったあの日の俺らが今に俺たちを見たらどう思うだろう。失望?絶望?信じない?
数か月前の会話を見て寂しく微笑みだけといえば少しは信じてくれるだろうか。
__チリン、ドアが音を立てて開く。
そこには少し息を切らした恋人の姿。
「遅くなった」
「ん、」
「もう、飲んでる?」
「遅かったから」
「そっか」
会話が続かない。いや、お互い続かせる気がないのか。
周りの人たちの楽しそうな笑い声よりいっそう大きく聞こえる。
「でもほとんど飲み終わってるじゃん?なんか頼む?」
「…ブランデーフリップ」
「じゃあ、俺もそれ。お兄さん、ブランデーフリップ二つ」
「はいよ。」
カクテルを待ってる間、いるまはおもむろにスマホを取り出す。話す気ゼロだな。
少し前に頼んだライラという酒がもう残ってないグラスの氷を飲む。
ん、冷たい。俺たちの関係もそう。
「お待たせ。」
「ありがとうございます」
バーテンダーさんがブランデーフリップが入ってるグラスを二つ置く。
「ん、甘」
「お前それ昔は好きだったよな」
口開いたと思ったらそれかよ。
「昔の話、」
「そうか」
いるまはネクタイを緩ませ、届いた酒を飲む。今日も残業だったのかな?”お疲れ”さえ言えない自分に腹が立ってくる。
「お前、なんで今日は誘ってくれたの?」
「別に、お前こそ乗るのは久しぶりじゃん」
少しトゲをつきながらわざとゆっくり飲む。これで、少しは、、、って考える俺キライ。
いるまは飲むの早いし。それだけ俺といたくねぇのかよ。
「お前、飲むの早いな」
「別に喉乾いてただけ」
いるまはスマホから顔を上げずに答える。
「お前は遅いじゃん」
「別にふつーだし」
少し時間がたった。その間も会話は一つもなく。そろそろ帰ろうとしている周りの人たちの声しか響いていなかった。ついに俺のグラスも残り一口。いるまのグラスは空だし、他のカクテル頼んだ形跡もない。
「…お前、飲み終わったなら帰れば?」
「は?なんで?」
「だってつまらなそうだし」
「は?んなわけ_」
「だって、ずっとスマホ見てるじゃん!最近冷たいし、もう飽きたの?飽きたなら、飽きたって言って!」
間が空く。否定しないってのはそういうことだ。俺は最後の一口を勢いよく飲んで立ち上がろうとしたその時、
「待てよ、なつ」
横からいるまの手が伸びてくる。触れてもらえたのも、名前も呼んでもらったのも久しぶり。
「なに?別れ話?もういいから離して」
「違う。」
「え?」
「なんだよ、お前。最後の一口飲み終わるの異様に遅かったの俺といたかっただけ?」
「なっ、」
「ん、図星な。で、これ」
いるまはそういいながら自分のスマホを俺に見えるように傾ける。
「温泉宿のチケット?」
「そう。そろそろ付き合って5年目の記念日だし、どこか行こうかなって。そのために仕事頑張ってた。」
「は?嘘だろ」
「ほんと。俺がなつに飽きるだなんて一生起きないから」
頬がほんのり赤くなる。これはきっと酒のせい。うん、そうだ。
「そういうのは早く言えよ、」
「うん、ごめん」
「飽きられたと思って、寂しかった…っ」
押し殺してた本音を涙と共に、いるまに告げる。いるまは優しく、俺のことを抱き寄せ、頭をなでてくれる。
「ごめんな。次からはちゃんと言う。」
「うん、そうしろ。」
「んじゃ、帰るか、なつ。」
「うん、いるま、」
「なに?」
「大好き」
「俺も」
バーを出たときの気持ちは、入るときとは全く違った。
幸せで、いっぱいな気持ち。これでいいし。これがいい。
「このバー、また行こうな」
「ああ、もちろん」
~end~
「ブランデー・クラスタ」↝「時間よ、止まれ」
「カンパリソーダ」↝「ドライな関係」
「プランデーフリップ」↝「あなたを思う、切なさ」
「ライラ」↝「今、君を思う」