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男の人は持っていた傘をさしてくれた。
まだ名前も、どんな人かも分からない…
でも、なぜか、安心できる。
「…。」
「名前は?」
先に口を開いたのは男の人だった。
「蒼葉…瑠唯」
「瑠唯」
「あなたは…」
「髙木俊介」
「髙木さん」
「俊介でいい」
「…俊さん」
「ま、なんでもいいや」
俊さんと並んで歩くこと数十分。
住宅街が広がるなか1つ目立ったボロアパート。
「ボロいとかは言うなよ」
フッと鼻で笑う俊さんに僕も笑顔になった。
部屋に入ると芳香剤のいい香りが漂っていた。
部屋の電気をつけて、俊さんは温かいお茶を入れてくれた。
「聞きたいこといっぱいあるんだけど聞いてもいい?」
「はい」
テーブルの上にマグカップが置かれる。
「まず何歳?」
「19です」
「大学生?」
「今は何もやってないです」
「家出?」
「はい…居候、させて下さい!!」
「…俺そんな優しい男じゃねえよ?」
「えっ」
「家事全部頼んだわ」
家事やれば、置いてくれるってこと?ここにいていいってこと?!
「はいっ!!」
僕には分かった。
出会って少ししか経ってないけど、いい人、優しい人だって。
「あの俊さんはー」
言いかけて僕の声は止まった。
正面に座る俊さんの口には煙草が加えられていた。
ーカチャッ
ライターの火がつき、煙が漂う。
「ん?」
俊さんは僕を見つめた。
話さないと、続きを、聞きたいこと、俊さんは何歳なのか聞きたかった…でも
「…ケホッゴホッ…ハアッハアッ」
脳裏に焼き付く記憶…
『瑠唯』
指に挟まった煙草。真っ赤な唇。嫌な思い出。
「ゴホッゲホッ」
ハアッハアッ苦しい…
「おいっ!瑠唯!」
ーハッ!!
気がつけば俊さんは椅子から立ち上がり、僕の肩を掴んでいた
「大丈夫か?煙草の匂い苦手だったか?」
「大丈ー」
さっき言われた言葉…「大丈夫じゃねえ時は大丈夫って言うな」
「煙草、苦手です、」
「そっか、ごめん、家では気をつけるわ」
俊さんは僕に背を向け、部屋を出ようとした。
「待って!」
僕は椅子から立ち上がって、俊さんの背中に飛び乗る。
「ちょっ、なんだよ」
「ぼ、僕のこと、これで、嫌いになりましたか?」
「は?バカか。まだ出会ったばっかだし好きも嫌いもねえよ。つか、こんなんで嫌いにならねえし」
「良かった…」
僕は俊さんの背中から降りる。
「…」
「知れてよかったわ。煙草無理なの。気付かずにお前呼吸困難になったら困るし…」
優しい
温かい俊さんをみて、涙が一筋流れた。