テラーノベル
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出た。現時点で最強の座をほしいままにしている男が。
無光は正直驚いた。彼だけ桁違いに強いからだ。
無光は怪異とバレないよう力を抑えるように言われているが、その力をフル開放しても勝てないレベルで彼は強い。
銃弾を必中にできるだけでかなり強いのに、素の戦闘能力が高くて近接に持ち込んだところで負け濃厚で困る。
とはいえ、接敵したらまずは銃を奪うところから始めようと思っていた。無光は能力上遠距離から攻撃出来ないからだ。
無光の能力は体に閃光を纏わせる能力。
超異力は使った際閃光が出現するらしいが、その閃光を自由自在に操れると言えばいいだろうか。
無光はその閃光を基本手足に纏わせ、殴ったり蹴ったりで攻撃する。あくまで体限定なので、武器に纏わせて攻撃はできない。
一見弱そうに見えるが、汎用性の鬼だ。それに、閃光はかなり高威力。一発で小爆発を起こせる。コンクリ製の壁相手に撃った時は、軽く破片がパラパラと落ちて来た。
無光には怪異時代の記憶があまりないが、この能力を生かして怪異内の格闘技で戦っていたような気がする。体にはその格闘技が染みついている。咲に聞いてみたりしたが、どうやらこの格闘技はニンゲン界にはないらしい。
カポエラーだとか言うやつに少し似ていると話していて、動画も見せてくれたが、やっぱり局所的に違う部分がある。一番の違いは怪異たちは各々固有の能力を用いて格闘している点だが。
そもそも、この格闘技に名前は付いていない。というか、無光は名前を聞かずに”鈴”に教えて貰っただけだ。鈴に聞けばわかるのだろうが、あいつは多分今頃指名手配だろうし。
そんなことを考えているうちに、葉泣は銃を構えている。対象は当然無光。もうこんなに人が減っていたのか。
葉泣の銃弾は必中。何が何でもそれは確定らしい。
正直攻略法が見つからないが、避けれそうなら避けてみることにした。
仮に避けられなくとも、とにかく一発撃ってきたら近づく。銃を奪うことがまず第一だ。
葉泣ほど凄腕のスナイパーなら、無光が避けようとすることも考慮しているとは思う。そのうえで、この銃弾は必中だから無駄なあがきをと思っているかもしれない。
普通に考えて避けれるわけがない。しかし、少し思ったことはある。
必中とはいえ、身体のどこに当たるかは決められないのでは?
銃声が轟いた。この瞬間、無光は視線を右にずらす。それを見越してか、葉泣も右寄りに体を動かし、次の弾を装填する。
さて、無光の能力は汎用性の鬼と言ったが、実は閃光にはもう一つ役目がある。
体に閃光を纏わせる能力。それは、逆もまた然り。
すなわち、
閃光に体を移動させることも可能。
無光は左に閃光を出現させる。それとほぼ同時に、閃光に自身の体を移送、すなわちテレポートさせた。
閃光の時点で怪しいと思ったのか、葉泣はそこに銃弾を撃った。能力を使用して。
彼も中々の反応速度なのだが、野性的な反射はニンゲンもどきの無光の方が一枚上手である。彼の銃弾が無光の体に辿り着いたとき、そこには空気しかない。
よって、自動追従機能のある銃弾は次に無光が移動した反対側へ向かう。しかし当然ながら距離は離れているため、銃弾は仮に無光に当たったとて急所を外す。
これはもともと計画していたわけでもないので作戦ではない。何故かこうしたらいいのでは?と思い立っただけ。どうやら、怪異時代の無光はなかなかのプロ格闘家だったようだ。
横移動なので大して前に進めていないが、葉泣の元に段々と近づいてきている。まぁ銃を奪った所でイコール勝利ではないのがかなり厳しいが。
と言うのも、葉泣と無光は同じ部屋なので知っているのだが、彼は普通にナイフも携帯している。すなわち近接戦闘もできるということだ。
葉泣は数撃ちゃ当たる戦法で来たのか乱射しているが、どれも無光にかすりはしても大打撃を与えられてはいない。
なんなら、極論を言えば「いつかは必ず当たる銃弾」を撃っているわけだから、その”いつか”が今ではないだけ。
当たる箇所は多分彼の腕前次第だ。現に、さっき飛んできて若干当たった銃弾の着弾位置は髪の毛だ。
食堂で二人殺した時に心臓と頭を的確に撃ち抜いていたから、その場にいた全員は「葉泣の銃弾は確実に相手の急所に当たる」と勘違いしていたが、実際は「いつかは必ず相手のどこかに当たる銃弾(いつどこに当てるかは君次第!)」なんだと思う。
そのうえでヘッドショットを決め込んでいる葉泣の腕前は確かなものだと思う。それを能力のせいにされているのは可哀想だ。
やがて、無光は葉泣の真隣に位置する。葉泣は銃を撃ってくる……と思いきや、銃をしまい、その代わりにナイフを取り出した。
本番はここからだ。
急所を的確に撃ち抜くスナイパーは人体の構造を理解していないと出来ない。
近接でも同じ。葉泣は無光のみぞおちや心臓、頭などの位置を的確に理解しているだろう。
だが、無光に銃が通じなかったことからそこそこ実力がある奴だと思ってくれた……はずなので、最初から急所じゃなくて、まずは四肢を潰しに来る。
それは無光も同じ。
二人はほぼ同時に駆け出した。
無光は駆け引きが有効であると知ったので、一度閃光で背後に回ってから殴ることにした。
だが、無光がテレポートできるのは葉泣に知られている。背後に回るまでを読まれていたのか、身体を素早く半回転させた葉泣が突き刺したナイフが無光の脇腹付近に刺さった。
苦痛に呻いた無光を足蹴にして葉泣は突き飛ばした。無光は背中をついて倒れる。その無光の腹に葉泣は足を乗せ、動けないように固定する。
「所詮雑魚なんだよ。時間稼いで楽しかったか?」
「……」
もう終わりという単語がなんども頭をよぎったが、ここで格闘魂が開花した。
この第二選抜は倒れて10カウントしても動かなかったら負け。よくある格闘技だ。
こういう時、ギリギリで起き上がった方が相手の意表を突けるし観客も盛り上がる。
依然として葉泣はやっぱりテレポートに慣れていないようだ。
別に足で押し付けようと動けるんだよ。
8.5くらいで無光は閃光をあえて下に向かわせ、そこに転移する。葉泣も異変に気付いたが、下に向けてはナイフを使えないので銃を取り出した。
依然として目標は銃の奪取である。無光は銃を手づかみにして転移し一度距離をとる。
調子がいいうちに攻めるぞ。無光は背後に回ったとほぼ同時に、葉泣の正面に転移し、殴るような素振りを見せた。
流石に葉泣も驚いている。しかしこんなにまっすぐに挑みに来る馬鹿がいたとは好都合ととったか、身体をかがめてナイフを突き刺そうとする。
体をかがめるというのは動きが読みやすく、元の体勢に戻るのに時間を要する。
ここで、また距離をとった。葉泣は軽く翻弄されているが、銃を失った今近づくほかないと気づいたか全速力で走ってきた。
今が好機。無光は奪った銃を思いっきり葉泣の額に投げつけた。
*
頭に凄まじい衝撃が走った。思わずナイフを離し、利き手で傷口を抑える。
駄目だ、雑魚とばかり戦っていたから傷への反射行動が遅れている。このままじゃ”合格できなくて当主様に……”、いや今は異世界だぞ、あいつらはいない。落ち着け。
慌ててナイフを利き手に持ち替え、利き手じゃない方の手で傷口を抑えた。相手の男にだってダメージは入っているから、かなり動きが鈍くなっている……お互い。
葉泣は自身の額を拭う。血がべったりとついている。地面には銃。銃を投げつけられたんだろうか。中々な攻撃だ。
今まで葉泣は彼の思う雑魚としか戦えていなかった。誰も彼のレベルには追いつけず、彼が望む駆け引きやハイレベルな戦いを行えなかった。誰も彼の身体に傷一つつけられなかったと言う。
別に彼は戦闘狂ではないが、家系上戦闘ばかり習ってきた彼にとって、戦闘は日常的な娯楽に等しくなっていた。
自分の右に出るものはいない物事を好むのは当然。それが戦闘であっただけ。
目の前にいる白髪も正直雑魚と変わらないと思っていた。しかし彼は能力で葉泣を翻弄し、隙を狙って鋭い一撃を食らわせた。
葉泣のレベルに追いつける奴が現れたのだ。
嬉しくてたまらない。心臓の鼓動が早くなっている。もはや今まで雑魚とばかり思っていた無礼を詫びたいまで来た。
こんなことは初めてだ。だからこそ、こんな時どうすればいいか分からない。ただ、とりあえずは希望に駆け寄っていく。
男は葉泣が走ってくるのを見て驚き、半ば諦めたように視線を逸らす。刺された脇腹が痛むらしく、苦しそうに傷口を抑えている。それに対し、男の元にたどり着いた葉泣は人間としてのまともなコミュニケーションよりも自身の高鳴る感情を優先させてしまった。
「お前、名前は?」
「えっ?」
当たり前である。仮に男の位置が別の人に入れ替わっていても一言一句同じ反応をするだろう。
こんな突飛な聞き方をしたのには理由がある。なんせ、葉泣は戦闘ばかりさせてくる家で”英才教育”を受けていたため、コミュニケーション能力が著しく低下しているのだ。
だから、最初に前置きから入ることを知らず、本題から入ってしまった。
男は困惑している。これ以上ないくらい困惑している。
そして、少し躊躇しながらも、
「えっと……頭攻撃してごめん」
と言った。
意味することと言えば、「俺が頭攻撃したせいで頭おかしくなっちゃったんだねごめんね」だ。流石に意図は伝わった。
「悪い。人と話すことに慣れなくてな」
「あー……うん……俺も」
「じゃあ名前聞いてもいいか?」
「いや違……態度変わりすぎ!!」
と叫んだあと、男は軽くうめき声をあげる。
「腹に攻撃を受けてるなら叫ばない方がいいぞ」
「いやいやいやいや……」
「出血させすぎてしまったか?」
「あ、あのな?お前は今まで一言も話さなかったし、話したとて雑魚雑魚言ってるだけだったよな?」
「ああ、あの時は君の事を他と同じ雑魚としか思っていなかったからだ。今となって、それは違うと判った」
「君って……えぇ……」
「ところで名前は?」
「何なんだよそれ……」
「君の事を雑魚とは呼びたくない」
「……仇桜無光。呼ぶなら無光でいいけど……」
「無光?よろしく」
そう言って、葉泣は新たなるライバル・無光に手を差し伸べた。
無光はその手を受け取ろうとはしていない。葉泣の方が客観視できておらずおかしいのだが、それに本人は気づいていないようだ。
「武器は持ってないぞ?ほら」
そう言って葉泣は両手を開いて見せた。ポケットには武器があるものの、それを今出そうとは思っていない。
まぁ当然論点はそこではなく、唐突にしゃべりだした上に優しくなった葉泣が頭おかしいだろって話をしたいのだが。
「そういうことじゃないって!急に態度変えすぎなんだよ」
「理由はさっき説明しただろ?」
「いやちょっと……受け入れる時間が欲しいと言うか……何と言えばいいんだこれは……」
「そうか?まぁいいか。で、戦えそうか?」
「え……もう一回戦えと?」
「そうだが」
「いや相当負傷してんだぞこっちは……」
「……じゃあ明日手合わせ願おう」
「なんだこいつ……」
思わず心の声が漏れてしまった無光は、話が途切れると同時に緊張が切れたように倒れた。
葉泣も起こそうとはしない。彼がそう望んでいるから。
ここに、コミュ症同士の最強コンビが爆誕した。
*
「よ、無光」
「!?」
普通に起こしに来た葉泣に無光は酷く驚いた。
声には出なかったが、仮に声が出ていたら叫び散らかしていただろう。
頭に包帯姿の葉泣が朝から出迎えてくる謎状況に混乱しているばかりの無光だが、すぐに今日のイベントを思い出してはっとした。
今日はチーム構成の発表の日だった。
「同じチームになれるといいな」
「えっ……まぁ……そうだな」
昨日、ナイフで刺されてから起死回生の一手でなんとか最強に傷を負わせることに成功した無光は、なぜか葉泣に友達判定されている。
昨日の彼は興奮状態だったからあんな変なテンションになっていたのだろうと結論付けていたが、元からこんなテンションだったらしい。
とにかく、昨日の一戦から無光は葉泣に認められた。格闘家として結構嬉しかったりもする。だが、これを機に無光への接触が増え、怪異とバレる様なことがあってはならないが。
食堂に行って食事をとってからチーム発表の流れだ。今まで誘われることすらなかったのに、葉泣から一緒に行こうと言われ、無光は食堂事件を脳裏に浮かべつつ恐怖に打ち勝てずokした。
「食堂、一緒に行かないか?」
「えっ……」
「駄目か?」
「いや、いいけど……。また人殺すなよ?」
「君が言うなら殺さない」
「おい怖ぇって……」
*
「えなんかあの二人仲良くなってる?!」
病室から見える範囲でかなりの死闘を繰り広げていた無光と葉泣だったが、その二人が並んで食事をとっている姿を見て思わず咲は叫んだ。
咲の隣には親友・瓜香と同じオタクとして仲良くなった桃蘭(桃琳)が居る。
「えへへぇ……男男(だんだん)の友情ってやつですかぁ……?」
「それを言うなら男女の友情、でしょ……」
男子は仲が悪いのか(それともキャラが立ちすぎているのか)、それぞれ別のテーブルに腰掛けている。葉泣と無光は隣に座っているが、見た感じ葉泣の方が話していて、無光は相槌を打つばかりだ。
「葉泣って案外おしゃべりなの?」
「さぁ、私は知らないわ。喋ったとて罵倒に悪口に皮肉に……。名前すら憶えて貰えていない始末よ」
「気難しい方なんですねぇ、えへへ……私みたいなのは一生見向きもされなさそうです……まぁどの方にもなんですけどねぇ……」
「そんなことないわよ!選抜三位でしょ、自信持ちなさい」
「あっ、ありゃしゃす……」
「うん。……まぁそれはそれとして、なんで仲良くなってんだろ。ちゃんと見てりゃ分かったかもだけど、私二人について行けなくて途中で寝てた」
「わっ……私もですぅ……」
「何か二人が話しているのは見えたけど、話の内容までは流石にね。強者にしか分からない何かがあるのかもしれないわよ?」
「マジか。でも私らは、まず葉泣に雑魚呼ばわりされないことからかー、ほんとムカつくわ、あいつ」
「あんまり陰口とかやめた方がいいわよ」
「……まぁ、そうだね」
心なしか葉泣に睨まれた気がする。睨み返そうと思ったが、葉泣はもう席を立っていたので、やりどころのない視線を下に向かわせるばかりだった。
*
「チームは1つ4人の2チームや。じゃ、早速発表するで。まずはAチームから」
ホワイトボードに名前が書きこまれる。葉泣、瓜香、無光、そして……咲。
咲は歓声でもあげて喜びたかったが、声が聞こえなくならないよう私語禁止だったのを思い出し、万歳の姿勢で止まった。若干恥ずかしい。
「Bチームは残りのメンバーやな」
B:桃蘭、見楽、氷空、吟 と書かれた。シスターと陰謀論者の仲が険悪らしく、犬みたいに歯茎を丸出しにしてお互いに唸っている。
「チームとしての初任務は二日後や。今から初任務の討伐目標を発表するから、Aは放送室、Bはそのまま会議室で」
解散となったのを確認し、咲は瓜香に抱き着いた。
「やったー!瓜香と同じチームになれるなんて」
「ええ、凄い事ね。私も嬉しいわ」
「無光、初任務が楽しみだな。それまでにたくさん稽古しよう」
「あぁ……うん……」
「なんでこんなクソシスターと同じチームなの~?」
「それは私のセリフです!こんな不届き者と一緒に戦うなど言語道断です!」
「わっ……私が足引っ張んないように頑張りますぅ……」
「一人しりとり……ねずみみねずみみみねずみ……」
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