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「葉泣、朝早いタイプなのか」
「雑魚共に顔を合わせたくなかったから、仕方なくだ」
「仕方なくも何も、今日はチームで戦うんだろ、だから待ち合わせして行こうって話だったじゃねーか」
「聞いてなかった」
「イヤホン外してただろお前……」
「君の声しか聴いてなかった」
「……まぁ確かに俺は一言もしゃべらなかったけどさ……。じゃあお前、もしかして集合場所も知らねーの?」
「よくわからんが現地集合じゃないのか?」
「なんか違うんだとさ」
「じゃあ現地集合するか」
「?」
「さっさと終わらせよう、無光」
「??」
葉泣は無光の腕を強引に引っ張って、無理やり今回の討伐対象の元へ連れて行こうとする。
無光はこんなんでも一応チームなんだし、目立ちたくもないからなるべく咲らと一緒に行きたかったわけだが……。
実際葉泣は強いし、なんとかなる気もしてきた。
それに、態度が急に変わった葉泣に慣れない気持ちはあるものの、心は開いてくれているらしいし、初めて無光の事を怪異だと知らずニンゲンだと思っている友人ができたというのもあって、悪くないように感じている。
あり得ないくらい強い葉泣の強さの秘訣も知りたいと言えば知りたい。……いまだに話すのは怖いが。
一番は明らかに断れなさそうな雰囲気だと言うこと。仮に嫌われたら面倒くさいことになりそうだ。残されている咲らのことは心配だが、彼女らも(葉泣は雑魚認定していたとはいえ)実力者だ。きっとなんとかなるだろう。
チャットでも「葉泣のノリがうざい」と「葉泣のノリが怖い」を毎時間送っていたし、多分無光のせいにはならないはず……。
咲らは明らかに葉泣を嫌っているし、咲は特に顕著だ。葉泣許せないーになると思う。多分。
一応チャットを送っておいた。同期のスーツを着ている男によればこういうチャットは詫び置き?と言うらしい。ニンゲンならではの造語が多くて覚えるのに大変だ。
無光らは討伐対象らの根城がある深い山奥へ向かって行った。
*
「鬼かー、どんなんだろ?」
「絵本でよく見る様な感じだったわよね」
そう、今回の討伐対象は鬼。
瓜香の言っている通り、肌が赤×2、青、黄色、虎柄のいわゆる鬼のパンツ、とがった角が1or2本生えている、スタンダードな鬼。
上記した通り四体居る。かなり厄介そうだ。
彼らは山奥に住んでいる。鬼ヶ島だろと言いたくなるが、いくら異世界とはいえ海なし県に海を産み出すことはできなかったようだ。
鬼ヶ島と言えば桃太郎。絵本によるが、鬼は四体居てそのうちデカい赤鬼がリーダー。三体はそれぞれ犬の噛む攻撃、猿の飛びつき、雉のついばむ攻撃によって撃沈し、リーダーは桃太郎の勇敢な刀攻撃によって倒された……というのが通例である。
今回もその通例に則っている。赤鬼は小さい方と大きい方に分かれていて、大きい方は2本の角、棍棒も図体もデカくてリーダー格。小さい方は一本の角。他の青鬼と黄鬼と変わらないように見える。
つまりは、リーダーとその取り巻きという構図になっているのだ。
戦闘力が圧倒的な葉泣がリーダーの脳天をぶち抜いてくれると思う。その話はしていたのだが、多分彼はいつも通り話を聞いていないと思われるのでどうなるかは分からない。
咲は小さい三体のうち一体をやる流れになりそうだが、一つ問題点がある。
咲の武器・モーニングスターは棍棒の類だが、鬼が使ってくるいわゆる鬼の金棒も無論棍棒である。
金棒の方が強いに決まっているのだが……。
咲は果たして勝てるのだろうか。
そもそも、咲は超異力がない。なぜか。
正直勝てる気がしない。
しかし、今回は最強と名高いメンバーたちがいる。咲に協力してくれる可能性が低そうなやつもいるが。
ふと、スマホの着信音がした。珍しく無光から着信が来ている……『葉泣に現場に連れてかれたから先行ってる』。
咲は叫んだ。そして、報連相をあり得ないくらい早く行うと、すぐさま現場へ駆けて行った。
*
「……これは……」
「”はきむこ”がやったんだろうなー」
「どんな略し方よ、それ……」
鬼の金棒が四本と、黒い液体にまみれた鬼の頭部が散乱していた。
周りには銃弾とボコボコ穴の開いた地面。
……すでに討伐対象が討伐されていたことは明白だ。
おそらく、咲らよりも先に到着した葉泣無光は、さくっと鬼退治したんだろう。
道中、険しい山道を進んできた。その道中の方が時間を食っている説もある。
奴らならやりかねないとは思っていたが、まさかこんなに仕事が早いとは。
ともあれ、討伐対象がいないなら帰っていいわけだし、さっさと帰ろうと思う。
瓜香も小さく頷いた。無駄に戦わずに助かったが、肩透かしを食らった。
しかし、こんな単純に終わるわけなどなかった。
「あれ、出れない?」
「出れないって……何なの?」
「いや、出れないんだって。なんか、見えない壁があるみたいな」
そう、咲らが山の中でも多少開けた箇所から出て行こうとした時、なぜか見えない壁に苛まれて動けなかったのだ。
四方八方を壁に囲まれているような感覚がする。
やがて、その壁は現実に存在するようになった。というのも、
咲らの周辺が高い高い岩壁で囲まれていた。
「うっそ……!なにこれ?!」
「囲まれてるの……?!もう怪異は討伐してるはずじゃ……」
その時だった。全ての終わりが来たのは。
目視で確認できる範囲で軽く数十体はいる、頭が異様に大きい子供のような実体。
全員総じてギィーだとか奇声を発し、目があらぬ方向を向いていて、その大きい頭の中でもありえないくらい大きい口が特徴。
その口で咲らを噛みちぎろうとしている。ことは分かるのだが、それを避けるすべが見当たらない。
重そうな頭を物ともせず、怪異としか言いようのない速度で咲らを襲ってくる。
元から重い武器を担いでいた瓜香がダウンする。足の一部を噛みちぎられたらしい。何体かその肉に群がっている。食べるために襲っているらしい。
「瓜香ぁー!!」
「う……どうなってるの、こいつら……」
しかし、そんな戯れも許さないのか、それともおなかがすいているのか、標的を咲に変える。
何体かの巨大頭怪異が咲に向かってくる。応戦しようとしても、怪異だと言い聞かせても、人型という形状にためらいが生じる。たとえどれほど怪異であろうと、人間とかけ離れていようと。
歯並びの悪い、血の付いた恐怖の象徴とも言えそうな歯が咲を襲った。この時、咲はなぜかあの話を思い出した。
超異力は魂に起因する。
魂につき一つの力を得る。怪異によって。
怪異の力を借りているともいえる。
咲の超異力は魂を操ることのできるというものだ。
それは、あくまで文字通りじゃなくて、”もっとすごいことも”できるんだと思う。
咲の脳裏に浮かびあがったのは、おそらく走馬灯なんだろうが、全く記憶のないものだった。
*
桜の散っている広場に佇んでいる。
地面には新品のカーペット。桜の花びらが舞い散っている。
いくつかの酒瓶と入っている甘酒。弁当についた花びらを軽く振り払う。
真っ黒い壁を上へ上へ視線を這わせていった先には、快晴が広がっていた。
……違う。絶対に咲じゃない。
背景には神社がある。全く知らない。
しかし、それはそうとこの記憶が咲の物ではないという確証が地味にない。
つまりは、「花見している私は私ではないが、私かもしれない」という何とも言えない状況に陥っている。
この状況に誰か名前を。というか、答えをくれ。
そういえば、今現実はどうなっている。頭がでかい奴らに襲われて、瓜香はどうなった。咲よりも早く負傷していたが。
もし瓜香の頭が大きくなっていたら。怖くて仕方のない想像しかできない。
「この程度ものともしない”女神”だっただろ、”私”。あの桜みたいにどしっと構えてりゃいいのにさ」
声に出せない「誰?」が頭をめぐっていた。
テレパシー的な感覚。咲の頭に響くその声は豪快に笑う。
「おいおい、記憶もないのか。さっき見せた記憶がお前なんだよ。……いいか馬鹿野郎、よく聞け。私は”木肌華夜”。本当のお前だ」
何を言っているの。本当の私?ふざけるなよ。私は私以外にいるわけがないでしょ。
「少しずつ解説しようか。佐鳥とかいう女に言われていたように、お前の能力は魂を操る能力だが、正確には違う。本当のお前の能力は、”魂を持つ能力”。私・木肌華夜という魂が、お前の中には存在する」
魂を持つ?嘘、じゃあ二重人格みたいになっているの。
「それは違う。私はお前が怪異になった時の姿、お前は私が人間になった時の姿。怪異形態と人間形態が存在する、というだけ。つまりは、私とお前はイコールで結べる関係にあるんだ。お前はおそらくお前自身の思考で、感情で動いていたと信じているだろうが、本当は全て私だ」
どういう……こと?
「枝野咲は存在しない。お前は、木肌華夜が人間になった時の姿でしかない」
え?何、存在しないって。存在してるじゃん。私は今ここに。
「だから、肉体的には存在していても精神的には木肌華夜なんだよ。……ある日、怪異の住処・エデンホールの底で過ごしていた私は、穴の外に興味を持った。そして、人間が住んでいると知った私は、神社に祈りをささげることで地上へ出ることに成功した。その時、偶然目の前に居たのがーー」
「ーー枝野咲だった」
……
「枝野咲は私の魂に乗っ取られたあの日、実質的に死んだと言える。意思という意思は存在しなくなり、私・木肌華夜の魂で動くようになった。お前が好きなアニメ、友人、食べ物、趣味……全て、私だ。枝野咲の要素が残っているのは、その肉体程度だ」
……
「私も私自身と話すなんて言う無駄なことはしたくない。もうすでに、私はピンチに陥っている。そうだろ?だから、もう黙っていてくれ。お前は存在しない。実在しない。全て私なんだ」
……
「よし、いい子だ。……さて」
「後は奴らをなんとかしてやろう」
*
彼女には酷なことを言ってしまったと思う。
だが、全ては彼女のためだ。
巨大な頭を携えた怪異は、続々と咲、いや華夜らに群がる。
まるでパンを与えられた蟻のようで、気色が悪い。
ついでに、瓜香も気を失っており、奴らの巣に運ばれようとしている。
流石に不味いか。華夜は真の姿を解放する。
伸びた髪を二つにまとめ、真っ白い絹のヴェールが羽衣を装飾する。
まさに天女。いや、彼女の正体は女神である。
エデンホールの奥底で盛大に咲く大桜のふもとでほほ笑む女神、木肌華夜姫は、地上で女神としての力をふりまけることに喜んでか、盛大に笑ってから怪異の群れに右手を振りかざす。
手のひらからほろほろと零れ落ちる桜の花びらは、やがて怪異に着地する。
怪異は花びらに気付くと、まるで自身の運命を受け入れたかのように、攻撃を辞める。
瓜香も、花びらに当たって目を覚ました。そして、噛まれた右足は着々と回復する。
どこか懐疑的な、しかし尊ぶような目線を華夜に送る。今まで人間だと思っていた人が女神様と判明しては、当然の反応だ。
怪異たちは花びらに抗わず、花びらが輝いたかと思えば光に包まれ、やがて消失した。
「な、何が……起こって……」
困惑する瓜香に、華夜は「人間になる能力」を使用し、元の姿……咲の姿に戻る。
「……なんかね、私の超異力って魂を操る能力だったでしょ?それで、怪異の女神様の能力を使えてたみたい。なんかすごいわこれ、瓜香に花びら当てたら回復するし、怪異に当てたら消せるし」
「……そう。そうなのね。貴方は……」
「ーーもう私の手の届かないところに行っちゃったのね」
*
咲と話していたことは嘘が多い。
枝野咲は実在しないと言ったが、本当は実在”した”。
肉体は華夜に奪われている。だから実質死んでいる。……でも。
彼女の魂は生きている。
華夜の能力は「女神の力を扱う能力」と「人間になれる能力」。
地上に出た華夜は人間になれる能力を使用した結果、目の前にいた咲を器として、華夜の魂すなわち精神を埋め込んだ。
本来なら、ここで咲の魂はなくなるはずだった。しかし、ここで彼女の能力・魂を持つ能力が発動。結果として、咲の魂は今も残っている。
咲の魂はエデンホールの奥底の神社に封印されている。なぜなら、華夜は咲の魂が何者かに汚されることを嫌ったからだ。
しかし、なぜか咲の魂は神社から離れている。誰かに盗られたと考えるのが賢明だろう。華夜は今それを探している。
それとは別に、華夜には目標がある。それは……
『あれ、誰貴女……もしかして、お迎えってやつ?そっか。貴方、怪異のはずなのに悪意だとか敵意だとかを感じない。見た目からして……女神様?って言うの?』
『え、お迎えじゃないの?嘘……じゃあどうやって入ってきたのさ。……何故か分からないけどエデンホールから出たらここに繋がってた?どゆこと?って、それは貴方のセリフか』
『あー……私?私は枝野咲だよ。店員として頑張ってたんだけど、新人のくせにでしゃばった結果、怪異に殺されかけたの。チームで戦うんだけど、そのチームも私以外全滅。私も戦える状態じゃないから、今こうやって保健室のベッドに縛られてる。……もう長くないって言われててさ。だからお迎えかなって。……元気そうじゃないか?何言ってんの。この目を見ても言える?それ。片目片足がないでしょ?それに、”中身”。肺は片方ないし、心臓と胃に穴が開いてる』
『ええと……なんだか哀れに思えてきたって?いやいや、モーニングスターとかいうふざけた武器で突っ込んだ私が悪いんだよ。……え、人間になれる能力を使いに来たの、あんた。……私に?それいいの?こんな我楽多な体に。……魂を交換すれば体は回復できる……悪くないかも』
『所詮私はもうすぐ死ぬ運命。私の体を使って人間になるのは承認する。ただし、その代わり、私の夢を叶えてくれない?モーニングスターを使って巨悪を打ち倒す夢。怪異の中にも親玉みたいなやつがいるでしょ、そいつの頭をモーニングスターでたたき割りたいの』
『それから、これが一番大切なんだけど、私に桜を見せてくれない?……変なこと言ってるのは承知。でもどうしても見たい。ほら、中庭に桜の木があるんだけど、その桜が咲くまでに死ぬって言われてるの、私。だからせめて桜を見せて。とびっきり美しい桜を』
咲、知ってる?エデンホールの最下層には、一年中咲いてる大きい桜があるんだ。
華夜はそれを咲に見せるのが目標だ。もちろん、咲の魂で。
そして、いずれは体を咲に戻す。今は咲の魂が行方不明で出来ないけれど、いつか。
華夜は人間になる能力により記憶が失われている。だから、全盛期の桜の女神としての力は全くもってない。
それも少しずつ取り戻していきたい。全ては咲のために。
先程会話していたのは咲の魂だ。そう、咲の魂はどこかから発信している。
咲の魂もまた人間になる能力のせいで記憶を失っている。なので、知らないやつが体を乗っ取っている状態になっているので、怒りに怒っている。
咲の魂を鎮めるのは困難だった。全て真実を伝えるのは時間が足りない。
咲に強く当たらないといけないのが辛い。でも、ずっと咲のことを想っている。
あんな酷い境遇な奴がいていいはずがない。
咲、待ってろよ。必ず取り戻す。
そして、お前にとびっきり花めいた桜を。