春、冬の終りが近付く中、レイブ二回目の冬篭りの間に手に入れた物は数千年越しの人類の進化だけでは無かった。
二百日、二百夜の夜物語る仲間たちとの語らいに答えながら、少しづつではあるがレイブ自身の思いも明らかになって行ったのがこの冬である。
この日の夜、ペトラが聞いた。
レイブの家族の事についてである。
『ふーん、じゃあレイブお兄ちゃんは家族と過ごした記憶が無いんだ…… 皆元気だったんでしょ? 人間にしては珍しくない?』
ペトラの疑問に答えたのはバストロだ。
「ああ、人間は一般的に家族と一緒に暮らすんだがな、ハタンガでは例外があるんだそうだ」
『例外…… レイブお兄ちゃんがその例外なの?』
「ああ」
首肯(しゅこう)と共にシンプルな返事のバストロの横からレイブが補足する。
「ハタンガではね、毎年新しく生まれた子供を大きな鳥に見て貰うんだよ、で、ときたま鳥が言うんだ、『この子は家族や里人とは隔絶して育てよ』ってね、それで物心付く前に長老の家にやられるんだよ、僕もその一人だったって訳さ」
ペトラはキョトンとした表情をより一層深い物に変えて聞く。
『その一人ぃ? って事は他にもいるのぉ? 家族から引き離されて育てられちゃう子供がぁ?』
「うん、いるよ、僕が知っているのは三人、四つ上のイシビベノブ、二つ上で仲良しなシパイ、それと僕のイッコ下、可愛らしい女の子のガトだね♪ 僕等は揃って呼ばれていたんだぁ、ゴライアスの子ってね! あーあぁ、皆、死んじゃったのかなぁ? も一度会いたいな…… 寂しいよ……」
唇を尖らせて俯いてしまったレイブであったが、全体的なイメージからは然程悲壮感は感じられては居なかった。
命の価値が軽い時代、村や里が一夜にして滅んでしまうこの時代では、人の死に対する考え方は、当然の事だが希薄なのだ。
生き残った者は、明日の生き様それだけに頓着し、身罷った命、言うなれば既に過去となってしまった者達を顧みる余裕は無い、それがこの時代なのだ…… 例外が有るとすれば時間を持て余しがちな冬篭りの終り位の物だろう。
絶賛冬篭りの終りに差し掛かっていたバストロはレイブに聞く。
「イシビベノブにシパイ、それとガトちゃんか…… 今まで聞いた事は無かったがレイブ、お前にとっては兄妹同然の存在だろう? 安否が気になるんじゃないのか?」
酷く神妙な面持ちを浮かべて聞いたバストロ、恐らく石化災害の犠牲になった自身の家族、取り分け大好きだった姉と置き換えているのではないだろうか? 私、観察者にはそう思えた。
最近馬鹿か狂信者にしか見えなかった自分の師匠が、真面目そのものの表情を浮かべていたからか、それとも、話している内に二年前の安穏とした平和な日々を思い出してしまったのかは定かでは無いが、レイブは俯いて弱々しい声を出す。
「うん…… 気になるよ…… 僕は師匠に会えたから助かったけどぉ…… 皆は…… グスッ! ううん、何でも無いっ! 過去より未来っ、だもんね! 全然大丈夫、だよっ…… っ、クッッッ、グスゥッ…… ゴメン、ゴメンね、泣いちゃったぁ、へへへ、変なのぉ♪ あはは♪」
バストロと邂逅した時以来、一滴の涙も見せた事が無かったレイブの頬を、乾く間も無い程の湿りが覆う。







