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寸でのところで刺激を止められ、理人は堪らず一臣を見上げた。視線がぶつかると、彼は「してやったり」とばかりに、にやりと残酷な笑みを浮かべた。
「何? イきたかったのか?」
「チッ、クソ……っ」
「アンタ、すっげー敏感だな。こんなんなら薬なんて必要なかったかもな……気に入ったよ」
耳元に熱い息を吹きかけ、低く掠れた声で囁きながら、一臣は尖りだした胸の飾りを押したり、潰したりして、執拗に弄び始めた。
耳と胸、二点を同時に攻め立てられると、理人の腰はどうしようもなく甘く疼いてしまう。
「ん、ぁ……ふ、んん……っ」
いつしか抵抗の力が弱まり、快楽に従順な姿勢を見せ始めた理人を見て、一臣はさらに意地悪く笑った。
「なぁ、どうしたい? ……瀬名には黙っておいてやるよ」
首筋に湿った舌を這わせながらそう問われ、理人は驚愕に目を見開いた。
「な、何を……っ」
「ハハ、俺が気づいてねぇとでも思ったのか? あいつ、お前のことばっかり見てんじゃん。つか、アンタもだけどさ。バレバレだっての」
職場では可能な限り接触を避け、今はまともに話しすらしていない。それなのに一臣に関係を察知されていた事実に、理人は戦慄した。
「なんか知らんけど、上手くいってないみたいだしな? あんな奴はやめて、俺にしとけよ……優しくしてやるぜ?」
悪魔の誘惑のように、甘い囁きが鼓膜を震わせる。瀬名を諦めて、一臣に乗り換える。理性の端では否定しながらも、媚薬に焼かれた思考は混濁していく。
「それに、瀬名と付き合う前はアンタ、相当な『ヤリチン』だったんだろ? じゃあ一回くらい、俺にもヤらせろよ」
「……っ」
どこで調べたのか、一臣は理人の過去さえも握っていた。その上で、逃げ場を塞ぐように関係を迫ってくる。
「気持ちがいいこと、嫌いじゃないんだろ? だったら、いっそ流されちまえよ。嫌なことも、辛いことも全部忘れてさ」
甘美な毒のような言葉に、理人の頭はくらりと揺れた。
「なぁ、どうする?」
するりと股間を撫でられ、強引に割られた足の間では、理人が腰を揺らすのに合わせて一臣の膝が竿の根元を押し上げるように刺激してくる。
瀬名を裏切ることはできないと頭では分かっているのに、渇望する身体は与えられる快楽に貪欲に反応を返してしまう。
「はっ、あ……っ!」
「言えよ、『気持ちよくなりたい』って」
「ふざけんな……誰が、んぅ……っ!」
「言わないと、ずっとこのままだぜ?」
グリッと先端を指先で押しつぶされ、理人は堪らず甘い吐息を漏らした。
「くそ……っ、は、あ……っ」
「ほら、強がってないで言えよ。俺のが欲しいって。さっきから物欲しそうに腰を揺らしてるじゃねぇか」
否定しきれない自分が、何よりも恐ろしかった。一度身体が覚えた快感は、裏切りへの恐怖を塗りつぶし、中途半端に放置された熱を解放してほしいと、縋るような視線を一臣に向けてしまう。
自分の浅ましさに絶望しながらも、理人が白旗を上げようと口を開きかけた、その瞬間――。
ガタン! と、オフィスの入り口の方で派手な衝撃音が轟いた。
「――何、してるんですか。こんな時間に……二人きりで……」
地を這うような、聞いたこともない低い声。理人はハッとして顔を向けた。そこには、いつの間にか現れた瀬名が立ち尽くしていた。
「な……せ、瀬名っ」
「随分と楽しそうなことをしているじゃないですか、理人さん」
顔には冷徹な笑みを張り付かせているが、その眼光と声色は氷のように冷たく、理人は全身の血の気が引いていくのを感じた。
こんな凄惨な場面を見られて、言い訳など通用するはずがない。
「ち、ちがっ、これは――」
「ったく、見れば分かるだろ? 今、すっげー盛り上がってるところなんだから邪魔すんなよ」
一臣の不遜な言葉に、理人が「何を!」と叫ぼうとした刹那、強引に顎を掴み上げられ、深く口付けられた。歯の裏や粘膜を蹂躙され、理人は驚愕で声も出ない。逃げようともがくが、ネクタイで縛られた両手はデスクに縫い留められたままだ。
一臣の背後に立つ瀬名が怖くて、目を逸らそうとしても許されない。逃げれば逃げるほど、一臣の熱い舌に絡め取られ、執拗に弄ばれる。
「ん、ふ……ん、んんっ」
今、瀬名がどんな表情で自分を見ているのか。その恐怖に耐えかね、理人は固く目を瞑った。
「桐島君……君って、いつもそうやって強引に人のモノに手を出してきたんでしょ。ガキかな?」
「あぁ?」
冷ややかな物言いに、一臣がピクリと反応する。
「社長の甥っ子だか何だか知らないけどさ。社会人にもなって、他人のモノに手を出すとか、有り得ない……」
鼻で笑うような瀬名の嘲笑に、一臣がようやく理人の上から身を引いた。何が起きているのか混乱し、理人は現実を直視できずに震えることしかできない。
瀬名に嫌われ、見捨てられた。そう確信した時、理人の世界は真っ暗になった。
「他の物だったら、ある程度は許してやってもいいけど……理人さんだけは、絶対に無理だ」
「!?」
突然、理人の身体が強い力で抱きしめられた。驚いて薄く目を開けると、至近距離に瀬名の顔があった。
「……この人は、理人さんは僕のモノだ。誰にも渡さない」
「――ッ」
その真っ直ぐな独占欲の宣言に、理人の息が止まった。あんなに酷い拒絶を繰り返した自分を、まだ「自分のモノ」だと言ってくれるのか。
理人の胸には、鋭い痛みと、どうしようもない愛しさが同時に押し寄せた。