「はぁ…はぁ…はぁ…。」
やっぱり僕も年か…ここに来るまでに半月以上もかかってしまった。
いくら魔王がいなくなって魔物の数が激減していたとしても、老体には厳しかったかな…。
重い腰と足をなんとか丘の上まで運んでいく。
荷物の重さも相まって、自身の年の不甲斐なさが現実を見せていた。
「はぁ…とう…ちゃく…。」
バタン
上に着いた瞬間、僕はそのまま倒れ込んでしまった。
ああ…そうか…もうこんな時間なのか…
もう少しも動けやしない、そう思っていてもなんとか自分の体を顔が上になるように動かしていく。
「………星、見えないなぁ。」
ここはあの日、聖女と星を見に行った丘の上だ。
魔王は倒されたため、空は全く曇っていないようだが…星は一つも見えない。
「せっかくここまで来たのに、無駄足かな…」
あの日のような綺麗な星は全く見えないが、もう動く力も残っていないため、僕はただ空を見つめるだけだった。
あれから何時間経ったかな…
体は依然としていうことを聞かない。
喉も渇いて、意識が朦朧としている。
でも、なんとしてでも…あの日の星を僕は…
ポタ…ポタ…ポタ…
「…はは、僕は運がいいな。」
偶然にも、雨がその丘に降り注ぐ。
運良く生き延びることができた…が、長くは続かないだろう。
頼む…これが最後の願いなんだ。
「……………っ!」
…どれくらい寝ていた?
意識を失っていたようだ。
辺りはまだ暗いままだが、もしかしたら1日中寝ていたという可能性もある。
気づけば雨は止んでいるが、空は変わらず星の一つもない。
だめだ…この老体には少し無理がある…
はやく…はやく………
…聖女も同じ気持ちで僕らを待っていたのだろうか?
そんなことがふと頭の中に浮かぶ。
そうか…これはその罰なんだろうな。
大切な人を守れなかったことへの罰だ。
「はは…ごめん…君ともう一度……」
夢を見た。
あの日の夢だ。
でも少しだけ違うところがある。
丘の周りには艶やかな紫色の花がたくさん生えていたんだ。
2人で寝そべって空を見て… あの日と同じ星を見る。
『…これは走馬灯ってやつなのかな…でもあの日と少し違う…。』
『………。』
『久しぶりだね、まるで幽霊でも見てるみたいな顔してるじゃないか。』
『………。』
『ああ、もしかしてこれは夢じゃなくて本当に君の元に来てしまったのかな?』
『………。』
『…いや、やっぱり夢なんだろうな。死後の世界なんて存在しない、逸話や神が語られるようにね。』
『………。』
『でも…たとえこれが夢だとしても…最後に君たちとこの場所に来れたことを、ほんとうに嬉しく思うよ。』
僕はそっと彼女の手を握る。
彼女はどこか寂しそうな、そんな顔をしていた。
丘の上に1つの星が流れていく。
それに続くように更に何個もの星がついていった。
『…流れ星か、確か願いを叶えるという話だっけ。』
僕は心の中で静かに伝える。
たとえ、ここが夢だとしても、表しようのない現実だとしても…
また君と会うことができて嬉しいよ。
…本当にありがとう。
『…次は4人で来ようね。』
そう言って彼女をみると、あの日と同じように涙を流していた。
そして少しだけ僕に微笑んで…口を動かす。
『ーーーー。』
その時、彼女の声は聞こえなかったけど…何を言っているのかはすぐに理解できた。
『…はは、もちろんだよ。』
そう微笑んで、僕はもう一度空を見る。
いつまでも続いてほしいと願うこの時間の中で、君と手を繋いでいた。
近いようで遠くにいる君を…
もう2度と失いたくない君を想いながら、僕は願いを星にこめる。
この夢がどうかずっと終わりませんようにーー
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