「ミーティングなどはこの部屋で行います。運転手さんたちもここにいることがありますから、追々紹介は出来ると思います」
「桑名さん、若いわねぇ。私たち40代と50代の集まりなのに、一気に平均年齢が下がったわ。よろしく」
髪をタイトにまとめ上げた北田さんが、田中さんのあとに言ったので
「皆さん、いろいろとご指導お願いします」
私は、ピシッと頭を下げた。
ちなみに、前川さんは少し毛先にカールのある髪を、私と同じくひとつに束ねている。
「じゃあ、まずは室内を案内します」
田中さんが案内してくれるようなので、私は彼女に続いて部屋を出る。
他の3人もそれぞれの業務に戻るのだろう、私の後ろから出て来た。
「あら?新人家政婦が来たの?」
上から降って来た高音に視線を上げると
「あなた、私を知っているわよね?」
その高音は私に向けられたようだった。
「はい、遥香様」
もちろん知っているわ。
「そりゃあ、遥香にはたくさんのファンがいるほどの有名人だもの。あなた、若いわね……もしかして遥香のファンで近づきたくて来たんじゃない?お仕事に来てくれなきゃ困るわよ?田中さん、大丈夫なの?」
二人とも螺旋階段の途中で止まったまま、降りてくる気配はない。
最初の高音の主は、中園遥香。
お嬢様系インフルエンサーとして、そこそこの人気があるようだ。
今、彼女が着ているキャミソールワンピースとカーディガンのセットも、先日、1分未満の短い動画で彼女が紹介しているのを見た。
何万円もする部屋着って……私には全く分からないけど、そういうものを紹介したい人と見たい人の需要と供給といったところなのだろうか。
そして、遥香様の後ろからやって来たのは、中園香奈。
遥香様の母親で、この中園家の奥様だ。
ここへ配属される前に会社から説明を受けたので知っている。
「奥様、このあとご挨拶に伺う予定でした」
そう言った田中さんは、私を自分の隣に立たせ
「本日より住み込みで中園様のご自宅にて業務にあたります、桑名です。奥様のおっしゃる通り、若い桑名ですが、家事代行サービスにおいてすでに4年の経験があります。その後、弊社の研修も優秀な成績でクリアしていますので、ご安心ください」
と紹介したあと、私をチラッと見た。
「桑名真奈美、22歳です。中園様のお宅での勤務、誠心誠意をもって取り組んで参ります」
「22?大学へ行っていないの?まあ、大学を出て家政婦になんてならないわね。学費をゴミにするだけだもの」
遥香様の言葉は、他の家政婦にどのように受け止められているのか分からない。
おそらく、高卒なのは私だけなんだけど……
「優秀って、何が出来るの、真奈美?」
真奈美……遥香様は私をそう呼ぶことにしたらしい。
「清掃から料理など、どの業務も出来ます。特に得意なのは裁縫、縫製で、洋服のお直しやリメイクが出来ます!」
少し前のめりにアピールした私を、面白いものを見る目で見た遥香様は、ゆっくりと腕を組んでから口を開いた。
「真奈美を私の担当にするわ。今日、今から、私に仕えなさい」
「えっ……」
困惑の音を漏らした田中さんの気持ちは分かる。
そういう分担をするつもりでなかったのだろうから。
でも私は、田中さんが何かを言う前にガバッ…と腰を折った。
「承知いたしました、遥香様。よろしくお願いいたしますっ!」
やった……勤務開始早々に、私は頭を下げたまま大きく口角をあげた。
コメント
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やったって事は真奈美ちゃん何か意図が有ってこの家に入れるようにしたのかしらね。
やった…?ってことは、真奈美ちゃん、何か目的があるんかな?
一癖も二癖も、どのくらいの癖があるのであろう中薗家の女性おニ方… 遥香様がご自分の担当にするって、私に仕えなさいって、うわぁᔪ( ˃̵ȏ˂̵ )すんごい高音で言い切ったよね💦田中さん困惑してるよ💦真奈美ちゃん分担とかの問題じゃなさそうな雰囲気よ? もう誰が見たって聞いたって、これから先が思いやられるとしか思えないよ…大丈夫?