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発見したボイジャー1号をトラクタービームで引き寄せて、プラネット号の格納庫へ丁重に格納した。
「アリア、2号も回収するから進路をお願い」
『畏まりました、これより予測位置へ移動を開始します』
再び動き始めたプラネット号の操作をアリアに任せて、私はフェルを連れて格納庫へ移動した。回収したボイジャー1号を間近で見てみたいと言う思いもあったし、危険がないか確認しておきたいからね。
ボイジャー1号はギャラクシー号の側に丁重に安置されていた。一応シールドを張って危険物が付着していないか幾つかの器具が自動で調査してる。アームが延びて何かしてる光景は、何と言うか心が踊る。
「これがボイジャー1号ですか」
「そうだよ。今から何十年も前に打ち上げられた、地球人類の夢だよ」
外宇宙の探索、それは人類の夢でありロマンだ。宇宙は最後のフロンティア、それを調べようと考えるのは決して悪いことじゃない。むしろその好奇心や探求心が人類の発展を促してきた。これからの交流が活発になれば、宇宙開発も加速する筈。私個人としては、地球人にも宇宙へ飛び出して欲しいからね。
少なくとも資源の問題は宇宙開発が本格化すれば大分改善できる。宇宙は資源の宝庫、運用や活用手段を確立できれば、地球に更なる発展を促せる。先ずは太陽系内の開発だ。
「そんなに永い期間宇宙をさ迷っていたんですね」
「うん。私達から見れば初歩も初歩の技術だけど、いろんな想いを託されたのは間違いないと思う」
連れ帰ることに意味はある筈だ。少なくとも私のように宇宙が好きな人たちは喜んでくれると思う。ボイジャーだって、孤独より地球で眠りたい筈だから。
しばらくフェルと二人でボイジャー1号を眺めていると、ブレスレットが点滅してアリアが声をかけてきた。
『ティナ、目的地に到着しました。スキャンの結果、目標の位置を確認』
「トラクタービーム照射、回収して。作業は任せても良いかな?」
『畏まりました。これより回収を行います』
私たちは格納庫で待機したまま、ボイジャー2号が回収されるのを見物した。トラクタービームで引き寄せて、巨大なアームでしっかりと掴んで回収する。力加減も完璧だから、傷付ける心配もない。
数分程度で作業は終わって、1号の隣に2号が安置された。これ、何気に胸がときめく光景だよね。宇宙を旅していた探査機が並んで再会するなんて先ずあり得ないし。
「これが2号機ですか?」
「うん、私が初めて地球に来た日に見掛けたのは2号だったみたいだね」
見覚えがあるフォルムに、あちこちにある傷跡。流石に無傷とはいかなくて損傷も少なくないけど、無事に回収できた。これでハリソンさんからの依頼は達成できたね。
「これで依頼は達成ですね。直ぐに戻りますか?」
「ううん、ちょっと綺麗にしてあげよう。アリア、地球時間で明日の朝戻るって伝えてくれないかな?」
『畏まりました、ティナ。掃除ならばこちらで引き受けますが?』
「ううん、私がやる。長旅を労ってあげたいし。フェルは部屋で休んでて良いよ?」
「ティナがやるなら私もやりますよ?仲間はずれは寂しいですから」
「ありがとう、フェル」
笑顔で答えてくれたフェルには感謝しかない。
さて、取り敢えず綺麗にするための洗剤とかを用意したけど……これ使ってみようかなぁ。
「ティナ、そのスプレーは?」
「“マキシマム漂白ターボΖ~ブラックホールも真っ白に~”だって。お母さんが愛用してる洗剤だよ」
名前からして効き目抜群な感じがする。
「うっ、謳い文句にすごい自信を感じますね」
フェルが困ったように笑ってる。うん、分からないでもない。
「取り敢えずアンテナから綺麗にしていこうかな」
真っ白だったアンテナは、永い時間星間物質晒されてきたからか所々黒ずんでる。それに、小さな穴もある。こればかりは勝手に塞ぐわけにもいかないし、先ずは汚れを落とそう。用法用量がよく分からないから、端っこの方にスプレーをちょっとだけ吹き付けて、布で軽く拭いた。魔法なんかで楽出きるけど、直接綺麗にしてあげたかったから……あっ、あれ?あれれ?
「えーっと、ティナ?」
うん、フェルがスッゴく困った顔をして指差してる。今私が拭いた場所だ。
……綺麗にはなったよ。うん。何故か透明になっちゃったけど。まるでなにもないみたいな透明度、アードの洗剤、その驚きの高性能っぷりっ!
……よし、現実逃避は止めよう。
「あー……うん、このまま持って帰ろっか」
「それが良いと思いますよ?」
取り敢えず帰ったら|土下座《いつもの》だね、うん。
……はぁ。
格納庫を後にした私たちはブリッジへ上がらずに展望室へ来ていた。大きな防護ガラスで作られた部屋からは一面に広がる星の海、数多の恒星の輝きが余すこと無く鑑賞できる。
個人的にお気に入りの場所だ。暇な時はここで星を眺めながらのんびり過ごしてる。まあ、ハイパーレーンの中じゃ意味はないけど。逆に目が痛くなるし。
用意されたソファーにフェルと並んで座り、のんびりと宇宙を眺めていると。
「ティナ、合衆国へ帰るのは明後日になりませんか……?」
おずおずと聞いてきたフェルに首をかしげながら私は答えた。
「別に構わないけど、どうかしたの?」
「その、地球で行きたい場所があるんです」
「地球で?」
私が質問を返すと、フェルはコクりと頷いた。地球で行きたい場所がある?
確かにフェルは熱心に地球のことを調べてるし、興味がある場所を見つけたのかな?
「じゃあ、早速ジョンさんに相談しないとね」
「待ってください。多分、許可は貰えないと思います。貰えるにしても、ずっと後です」
ずっと後?フェルが合衆国の機密エリアなんかに興味を持つとは思えないし……まさか。
「もしかして、そこは合衆国以外の国なのかな?」
「はい……」
確定だ。合衆国以外でしかも許可が出るのは難しい。つまり政治的な理由。となれば、合衆国とあんまり仲が良くない国だ。
それはつまり、ハリソンさん達に迷惑を掛けてしまう事になりかねない。いやまあ、異星人の私達が地球の都合を気にしてる段階で異常なのは自覚してるけどさ。
「認識阻害の魔法や人払いの魔法を使います!誰も私達がその場所へ行ったことに気付かないようにしますっ!どうしても……ティナと一緒に行きたいんです」
不安げなフェル。ワガママを言わない、むしろ私のワガママに振り回されても文句一つ言わないフェルの、始めてのお願い。
……よし。
「分かった、何かあっても私がハリソンさん達に謝るから明日はフェルに付き合うよ」
「ありがとう、ティナ!」
フェルはよっぽど嬉しかったのか、涙ぐんで私を抱きしめた。うん、フェルだって全てを失ったばっかりなんだ。ちゃんとケアしてあげなきゃね。
もちろん、友達としてさ。