久しぶりにゆっくり眠った、と実感する。
それ以外は何も変わらない朝で、服もちゃんと着ているし部屋も乱れてはちない。
でも身体を起こして違和感を感じて昨日のは夢じゃなかった、と思い返す。
「···最低」
もちろん自分が、だ。
若井を煽ったことも、受け入れたことも···そして気持ちよさに全てどうでも良くなってしまったことも。
シャワーでも浴びようとドアを開けて驚いてしまった。
そこには帰ったと思っていた若井がいたから。
「おはよ。良く寝てたね···顔色いい」
いつも通りにっこりと笑って細くなる瞳は愛嬌があって柔らかで···昨日の夜の鋭さなんて全くなくて。
「な···んで」
「朝ごはん買ってきたから一緒に食べよ。あ、先シャワーしておいでよ」
答えになっていないし昨日のことは無かったことにしていいってことだろうか?
そう思いながら着替えをもって若井の隣を通る瞬間、若井が耳元に顔を寄せる。
「昨日は可愛かったよ」
「なっ···!」
彼が言いそうもない意外な言葉に驚いて逃げるようにしてシャワーを浴びる。
そのあとは食事の時も仕事に向かうタクシーの中でも仕事中も全く変わりなく僕に接してくれる。
「涼ちゃんおはよ、って2人一緒に来たの?」
「いや、そこで会っただけ」
僕が慌てるより早く若井が嘘をつく。
けどいつも元貴の隣に座るのになんでもないように僕の隣に座った。
「珍しいね、涼ちゃんの隣」
「うん、なんとなくね」
若井が考えてることがわからない···。
けど昨日みたいなことはもうやめないと。
けどぐっすり眠れたおかげで今日はいつもより調子がいい。
そんな僕をみて元貴も少し安心してくれてそうだった。
打ち合わせ中、若井はずっと真剣に元貴を見つめている。
彼の仕草や言葉を漏らさないように。
「今日なんか俺のこと見すぎじゃない?」
「うん、前に座るとよく見えていいね」
帰る前に若井に声をかけた元貴は嬉しそうだった。
僕は2人にお疲れ様と告げてそこを離れる。
若井は本当は元貴のことが好きだったのかな、それか昨日の僕を見て愛想を尽かしたのか。
どちらにせよこれでいい、昨日は若井の優しさだったってことにしてこれで諦めもつくから。
辛い、寂しい。
この黒い気持ちはいつか消えてくれるんだろうか。
帰ってベッドに倒れ込んで気付けば泣いて。
元貴、元貴って声に出して呼ぶ。
けどそれにもちろん返事はない。
少し泣きつかれて、けどこんなことしてても仕方なくてシャワーを浴びてリビングに出て心底驚いた。
「なんで···っ、なにしてるの?!」
「ごめんね、お風呂入ってたんだ?勝手に上がらせてもらった」
鍵はかかってたはずだ。
だってオートロックだもん。
なのになんで、 若井がいるの?
「合鍵昨日借りてたから」
その時僕は初めて若井のことが少し怖いと思ったかもしれない。
表情はいつもと変わらない優しい笑顔なのに、なんだか目が笑ってないみたいに思えたから。
「どうしたの、こんな夜に」
「りょうちゃんがまた眠れなかったら困るなって」
タオルを奪って僕の髪を拭いてくれる。
昼間見たときとなんだか雰囲気が違う···この違和感はなに?
前髪?昼間は下ろしてたのに分けている。
眼鏡?黒い縁の眼鏡。
わかんない、けど確かな違和感。
「ほら、髪乾かしてあげるね」
ぐるぐる考えながら大人しくしている。
「できた···りょうちゃん髪伸びたね···可愛い」
僕の頭を撫でるその仕草も、前髪をかき上げる仕草も···。
まるで元貴 みたい···?
僕の目線に気づいた若井は微笑む。
「ふふ、気づいた?リップはどう?元貴に借りたの」
そうだ、このリップ今日元貴がつけてた色···!
そう思った瞬間、僕の唇にその唇が重なった。
「今日もたくさん寝られるようにね···いっぱい気持ちよくしてあげる」
「もう、いいから···僕、大丈夫だから···っ」
僕は逃げようとしたけどあっと言う間に捕らえられて。
ベッドに連れて行かれて押し倒される。
「やぁ···っ」
キスとキスの間に声をあげたけど深いキスと胸の気持ちいいところをいじめる手と足の間に割り込まれた太ももで下半身を刺激されて···昨日のことを覚えている身体が反応して情ないほど弱い声しかでなかった。
「りょーちゃん、ほら、気持ちいいでしょ?素直になりなよ」
若井なのに、若井じゃないみたいな言い方。
暗闇でも見えるのはその黒縁眼鏡。
強く吸われる首や胸元はきっと赤くなっているのに、それも押さえつけられた手首の痛みも気持ちよさに変換されてく。
「んっ···、んんぅ···く···」
「声我慢しないで···僕、りょーちゃんの声好きだよ」
「やだ、やめて···っ」
だめだ。
脳内で若井が元貴に変換されてきて怖いくらい感じてしまう。
だめなのに。
僕を強く抱いてくれる人に縋ってしまう。
いつしか暗闇で響くのは2人の喘ぎ声だけだった。
コメント
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わ、私もゾクゾクしながら読みました👀❣️ 正しいやり方ではないかもですが、♥️くんになろうとするぐらい💙の💛ちゃんへの想いが強いんだろなと思い、切なくなりました🥹💦 でも、私、はるかぜさんの💛ちゃんへの重愛キャラ達、好きなんです🤭♥️💙💛笑
途中からゾッとして、そしてその後には凄く切なくなって、なんか、泣きそうになっちゃいました… 若井さんは、そういうつもりで元貴くんを見つめて、全部を彼の真似をして、それでも何とか涼ちゃんの目に映ろうと、映りたいと願ってしまったんだなぁ、と😭 あかん、書いててほんとに泣きそう、若様、怖いのに可哀想、なにこの感情、知らない!笑 そしてりょさん、ちゃんと元貴を透かして見ちゃって、アカンよ、アカン!

んえぇっ!?急展開すぎる。二重人格かってくらい、若井さんの豹変ぶりが唐突で怖い! まさか大森さんになりきろうとしてるとか?だとしたらもう⋯ホラーじゃん マジカヨ!?:(´◦ω◦`):ガクブル