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ツアーがひと段落ついて、ようやく休みが取れた日。夜の街を歩いた帰り道、若井滉斗のマンションに寄ったのは、なんとなくの流れだった。
「今日はさ、もうちょっと一緒にいたい気分なんだよね」
そう言った元貴の言葉に、若井は一瞬目を丸くしたけれど、すぐに微笑んで「うん、いいよ」と答えた。
部屋に入って、ソファに並んで座る。
映画を流していたけれど、内容なんて頭に入ってこなかった。
「ねぇ、滉斗」
「ん?」
「……俺のこと、どう思ってる?」
静かな問いだった。
若井はしばらく黙ったまま元貴を見て、そしてゆっくり口を開いた。
「好きだよ」
「……メンバーとして、じゃなくて?」
「うん。ちゃんと、ひとりの人として。元貴のこと、大事にしたいって、ずっと思ってる」
大森の心臓がドクンと跳ねた。
それは想像よりもずっと、真っ直ぐであたたかい言葉だった。
「俺、ずっと怖かった。もし距離が変わっちゃったら、音楽まで壊れそうで」
「壊したくないからこそ、大事にしたいんだよ。関係を」
若井の声は、少し掠れていた。
ゆっくりと手が伸びてきて、元貴の手に重なる。
指先が触れた瞬間、彼はまるで触れることすら夢みたいだというように、そっと握った。
「寒くない? 毛布持ってくる」
「ううん、滉斗がいればあったかい」
自然と、肩を寄せた。
そして、身体が近づいて、顔も……近づいて、唇がそっと触れた。
一瞬だけのキス。
けれど、たしかな温度がそこにあった。
「……ごめん、我慢できなかった」
「やだ、謝らないで……もっと、してほしい」
ぽつりと漏れた元貴の本音に、若井は目を見開き、そして静かに微笑んだ。
「……ちゃんと、大事にするよ」
その言葉通りに、若井の手はとても丁寧で、優しく元貴を抱いた。
何度もキスを落としながら、髪を撫で、胸の鼓動を確かめるように触れた。
「可愛い……声、我慢しなくていいから」
「……っ、滉斗、そんな言い方……」
「だって、全部愛おしいから。見せて、もっと……元貴の全部」
その夜、二人の距離は確かに変わった。
でも、それは壊れることなんかじゃなくて、もっと強く、もっと深くつながるものだった。
音楽みたいに。
リズムを重ね、メロディが響いていくように。
キャンドルの灯りが揺れる部屋の中で、
二人は何度も名前を呼び合って、確かめ合った。
その灯りは、朝になっても消えなかった。