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スマートフォンを両手で持ちながら、布団の中でガッツポーズをとる。
彼が迎えてくれた夜は、いつもより体が熱くなる気がする。
スマホゲーム、『ホテル・ド・パルフェ ~プラネットたちと過ごす夜~』は、20代を中心に今爆発的人気を集めている、いわゆる乙女ゲームだ。
主人公である少女は、ある日を境に、夜、眠りに落ちると、このホテル『ド・パルフェ』に迷い込んでしまうようになる。
そこには9人の美麗なプラネットたちが迎えてくれて、彼らとのめくるめく夜が待っているというわけだ。
『今宵の相手をお選びください。』
ホテルのAIが声を上げる。
すると9人の彼が現れ、その一人にスポットが当たった。
●アース(地球)
メインキャラクター。
サラサラの黒髪。大きな瞳。
一見ぶっきらぼうだが、本当は不器用な優しさを持っている。
一度殻を破るとものすごく積極的にぐいぐい攻めてくる。
●マーズ(火星)
アースとはライバル的存在で、いつも何かでいがみ合っている。
赤髪短髪で、気が強いオラオラ系。
嫉妬深く、ある程度仲良くなると、主人公を束縛しようとする。
●ヴィナス(金星)
金髪にパーマがかかっている王子様的な容姿。
飴色の瞳に相応しく、甘い言葉に甘いボイスが女心をくすぐる。
万物万人に愛を紡ぎ、主人公にも優しくするが、近づくうちに、主人公だけには毒を吐くようになっていく。
実は闇キャラで、彼とハッピーエンドになるのは至難の業。
●ジュピター(木星)
長い緑色の髪の毛を後ろに結んでいる。
背が高く、身体も筋肉質で、主人公のことなんて軽々と持ち上げることができる。
争いごとが嫌いで、何か言われても平和に解決をと試みるのだが、主人公のことだけは妥協が出来なくて………?
●ウラヌス(天王星)
金色の髪に褐色の肌。
プラネットの中では一番の乱暴者ではぐれ者。
ただスペースデブリ(宇宙のごみ)から主人公を守ってから、彼女にだけは心を開くようになり…。
●ネプチューン
緑色の髪の毛は、まるで栄養をいっぱい吸って大きくなった海底のわかめのように、キラキラと輝いている。
プラネットの中では一番気さくで話しやすい。でもそのエメラルド色の瞳には、忘れない人が映っていて……。彼の凍り付いた心を主人公は溶かしきれるのか…。
●プルート(冥王星)
紫色の癖毛が特徴。プラネットの中では一番年上で兄貴肌。
様々な経験を乗り越えてきているので、一言一言に重みがある。
主人公を教え導いてくれる存在。
しかし、彼が失ったもののは大きすぎて、近づけば近づくほど、主人公は抗えない闇に絶望していくのだった。
そして……
●マーキュリー(水星)
ターコイズ色の髪の毛は爽やかに切り上げ、紺青色の瞳が美しい。
勉学や読書に励むときにだけかける眼鏡がよく似合っている努力家。
知識こそがこの宇宙を救うと考えており、その習得のためには命を投げ出すことも厭わない。
彼の多大なる夢に、主人公は翻弄され、彼を止めようとするのだが………。
画面を横にスクロールさせながら相手を選んでいた眞美はどうしようかと悩んでいた。
いつものようにマーキュリーに愛されるのもいいけど、今日だけマーズで遊ぶってのも悪くないし、それよりもジュピターに思いっきり抱かれたいような気もするし、アースの仮面と服を剥いであげたい気もするし。
ブザーが鳴る。しまった。迷いすぎて時間切れになってしまった。
ルーレットが回り出す。
制限時間内に決められないと、今宵の相手はランダムに決まってしまう。
眞美はそれを静かに見守った。
『今宵のお相手は………』
AIが当たり前だが機械的な声で言う。
『サタンです』
「げえええ!!」
思わず叫ぶ。
画面に彼の姿が映る。
●サタン(土星)
プラネットの中で唯一闇魔法の使い手。
幼いころ、双子の弟からかけられた呪いで悪に染まってしまった。
人当たりは良く、懐っこいが、仲良くなればなるほど、黒い部分がかいま見られるようになる。
主人公は彼と、彼の弟であり万物の神でもあるゼウスを、仲介し、サタンの凍った心を溶かすことができるのか。
「いや、溶かす気とかないから」
眞美はそのキャラが一番嫌いだった。
軽いくせに。
簡単に笑顔を振りまき、簡単に自分の不甲斐なさに泣く、弱い男。
それなのに抱えている闇や、ときによって赤く光る眼は、乙女ゲーの枠をはみ出しすぎだとも思うが、全てを解決した後、彼と迎える“夜”は、悶えるほど刺激的らしい。
「ま、ないけど」
眞美はあきらめるとスマホを枕元に置いて目を閉じた。
もちろん月額500円の有料会員になったなら、いつでも好きな相手を選ぶことができるのだが。
眞美は目を閉じた。
さすがに、課金したら終わりだと思っている。
(30過ぎた女が、乙女ゲーに金をかけるなんて、さすがに…)
傍らに置いたスマートフォンの光が消える。
「痛すぎる」
眞美は少々自虐的に笑うと、目を瞑り、数分も経たないうちに夢の世界へと落ちていった。