平日午後6時。
部活や委員会に入っている人ががやがやと門をくぐり抜けて帰っていく姿が多数見られる時間。
夕日が学校を照らして、影が大きく出来ている裏口では、毎イベントが起きる。
「付き合ってください!」
そんな熱意が籠った声が、今日も生徒会室の窓下から聞こえてくる。
告白しているのはあのイケメンと言われている自分より先輩の人だった
一方、告白されているのはなんと自分がよく知っている男。
別に男同士が付き合う事に大して何か思っていることなどないし、寧ろ尊重だってしている気はある。
「こんな私のことを好きになってくれてありがとうございます。だけどごめんなさい」
凛とした雰囲気に、綺麗な顔立ちからはあまり想像出来ないような低くて心地いい声が聞こえた。
そんな声と共に、先輩には優しくて残酷な言葉が響く。
丁重なお断りほど傷口に塩だ。
彼はよく告白されるが、たとえ可愛い女の子でも、彼好みの年上高身長イケメンが告白しても断ってしまう。
年上って具体的には何歳離れてたらいいんだ?1歳でもカウントされるのかな。
そんな意味もない事を考えながら窓の外を覗く。
なんでかなぁ、中々の寂しがり屋だと自分で言うほど人に愛されたいタイプなのに、そんな気持ちを埋めてくれそうな人達に沢山告白されるのに、そんな事ないと言うほど彼は告白を断る、なんで?分からん。
四季凪は気まずそうに学校内に戻ろうとした時、その先輩は四季凪の右腕を無理くり引っ張る形で止めさせた。
「待って!一つだけ聞かせて欲しい事があるんだ」
「…まだ何か?」
「四季凪君は結構モテてて、告白される事が多いのは知ってるけど、いつも断ってるよね、もしかして好きな人がいるの?」
うーわ、人のプライバシー情報を躊躇無く聞くその姿勢、気持ち悪いけど嫌いじゃないっすよ先輩。
そんな質問に数秒黙り、また丁重に優しく彼は話しかけていた。
「ええ、好きな人達が居るんです」
その言葉と微笑むような顔を見て、先輩はぐっと苦虫を噛み潰したような表情をして四季凪の腕から手を離し、走り去るように消えていった。
なんだかなぁ、嫌な人では無いけど態度が危うい。四季凪もあれは断って良かったと思うよ。
なんてひとりで考えながら、窓口に上半身を出して、声を出した。
「四季凪君、早く生徒会室来なさいあんた遅刻よ!!」
「っ…風楽?!なん、覗き見してたんですか?!やだえっち!」
なんて声を荒らげるもんだから、わははと笑いながら早く来るように急かした。
「さてと、湿布とか用意しないとダメかなぁ、結構強く引っ張られてたし」
「俺持ってるよ」
「保健室から持ってこよかぁ?」
「ナ゚ーッ?!」
そう独り言を呟けば左右から聞き馴染んだき声が聞こえ、後ろへと後ずさった。
奇声のような悲鳴をあげれば、一人は笑い、一人はうるさ、と耳を塞いでいる。誰がうるさいだよ。
「おっ前ら、来てるならノックくらいしなさい!!!」
「いやー、奏斗全然気付かんのやもんなぁ?セラおー」
「ずっと居たのに全然こっち見ないし」
「それはなんかごめん」
「どうせまたアキラが腕痛めたとかやろ?もう何回目よこれ」
「6回目」
「セラフくん、数えているのは少し怖いかもしれない」
「バディなんだからしょうがないでしょ、それに大事な人が傷付いてんのは腹立つ」
なんて言葉を口にしたセラフに、少し感動した。
彼は前々から、少し人とは仲良くしたくない雰囲気があるというか、近寄り難い人間だった。
だけど四季凪と行動していれば穏やかな人なんだと分かったし、僕や雲雀と一緒で、四季凪に特別な感情を抱いているのだと分かった。
だから三人で話し合った事も複数回あるし、その類で仲良くなり、互いに四季凪が何かあれば助けようと話をした。
だからこそ、セラフが一番四季凪を心配する事は分かるし、僕達だってそれは同じ気持ちだ。
「でも、今回の断りは四季凪個人の気持ちじゃないよ」
「あぇ、そんなんあんの?」
「さっきの先輩、今回のターゲットだから」
「成程ね、そういうこともあるんだお前らは、大変だね」
「別に俺は四季凪がいればそれで、」
「セラお〜!お前は可愛いねぇ!!」
「雲雀うるさい」
キャッキャと騒いでいる二人を放置して、生徒会室の扉を開けた。
目の前には目をぱちぱちと瞬きさせている四季凪アキラが驚いたようにこちらを見ていた。
「うわ、」
「お、タイミングばっちり?」
「お出迎えありがとう、何してんの向こうは」
「ただのじゃれあい、手当するから腕見せな、痛いんでしょ」
「あれバレちゃいました?、なんでかな、風楽にはすぐにバレるんですよね」
おかしい、隠せているはずなのにと顔を皺を寄せている。
確かにこいつは隠すのが上手い、いつもは全然嘘をつけないくせに、重要な場面だったり自分の身体的な傷を負ってしまった時とか、大体しっかり見てないと分からない。
諜報員ってそんな所まで隠し通すのなんなの?隠されちゃったら傷の手当を言い訳に会えないでしょ。
なんて考えても、こいつは何も分かってないんだろうな。
「ほら、それ脱いでソファ座って、あんた綺麗な肌してんだから傷付いちゃダメよ!!」
「お母さんか?私にはこんな母親がいた事ないですぅ」
「せめてお父さんにしろよ!!」
「ごめんなさいお父さん」
「許さないけど許してやろう」
「どっちだよ」
「奏斗もアキラも早くー」
「アキラ、大丈夫だった?」
「大丈夫ですよ、支障はきたしてませんから、お前はお前の任務を遂行してくれ」
「分かってる、でも君が傷ついたら動けなくなるから、気を付けてよ」
「うん、ごめん」
そう素直に謝りながら会話をする二人は、やっぱり裏の人間なんだなとしみじみ思う。
普通の高校生が会話をする目をしてないんだよな、殺意が籠ってる。
うちの奴らと一緒だ。
着ていたジャケットを脱がせシャツをめくると、右腕の白い肌に赤い手形がうっすらと出来ていた。
「うわいったそ〜!!強く引っ張りすぎでしょあの先輩、やばすぎ」
「アキラこれ触ったら痛い?」
「そうでもないけど、叩かれたりしたら流石に痛いかもしれない」
「いや叩かんけど、湿布貼っとこ」
「貼って〜」
「動かんでねー」
なんてわきゃわきゃと平穏な会話をしている雲雀と四季凪の後ろで殺意の籠った目をしているセラフの背中を宥めるようにさすった。
「セラフ、お前目が怖い」
「普通だけど、何」
「それを普通って言うのはちょっと無理があるな〜!!明日からは僕らでアキラの事囲おうよ、誰にも見られないようにさ」
「確かに賛成、ありがとう奏斗」
「お易い御用、僕らもアキラが傷付いてるのを見るのは嫌だからね」
そんな話をしていれば、四季凪が此方を見ていることに気がついた。
なんだか申し訳なさそうな瞳でセラフを見つめている。
「セラフ、迷惑かけてごめん」
「迷惑とかじゃない、別に謝らなくていいから」
「本当に?」
「うん、うん」
あわあわと四季凪に近寄るセラフに笑いが止まらなかった。
さっきまであんなに怖かったのに、迷惑をかけてしまったと悲しそうに言ったアキラにはセラフも勝てないんだなと思った、そりゃあんな顔されたら勝てないか、そうだよな。
「風楽」
名前を呼ばれた、彼の口から自分の名前を呼ばれるのは心底嬉しい、だけどそうじゃない。
「違うでしょ、呼び方」
「別に風楽は風楽だろ」
「違うってば、雲雀みたいに言ってよ、そう約束したでしょ」
「はいはい、奏斗」
「はいなんでしょう」
「あの時、助けようとしてくれてありがとう」
なんて言うものだから、漫画のワンシーンみたいにぽかんと何も言えなかった。
確かに、何かあれば助けに行こうとは思っていたけれど、それを見透かした挙句、まさかずっと見てたのがバレてたなんて
やっぱり四季凪アキラって男は面白くて侮れない。
でも、そんなことはどうでもいい
「アキラが無事ならそれでいいよ」
そう言えばくすくすと笑う
笑ってればいいよ、そうやってさ
僕らが居る時は、あんな痛めつけられることなんてないし、笑顔の仮面を付けて接することも無い。
アキラらしく居てよ、それが今の僕の願いだよ。
なんて言ったら、お前はどんな顔をするのかな
僕らが想いを伝えたら、どんな反応をしてくれるのかな
ずっとこっちを見ててよ
そんなことを見透かすように、此方を向いて笑った。
紫陽花色の瞳が、見てくれている。
「ずっとお前達しか見てないよ」
ほら、そうやって僕らを喜ばせてくれるんだから、罪な男だよね。
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語彙力の天才がある