テラーノベル
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阿部と目黒は、たくさんの人を癒した。
死を受け入れられない人。
何年も現世を彷徨っていた人。
仕事に疲れてしまった死神。
コーヒーを淹れて。
隣に座って。
何度でも話を聞いた。
二人の店には少しずつ笑顔が増えていった。
けれど。
誰かを癒せるようになったからといって。
二人の傷まで、なくなったわけではなかった。
___________
ある日の夜。
眠っていた目黒が、突然目を覚ました。
「……あべちゃん!」
「めめ?」
隣で眠っていた阿部も目を覚ます。
目黒は息を乱しながら、阿部を探すように手を伸ばした。
「あべちゃん……。」
「いるよ。」
すぐに阿部がその手を握る。
「ここにいる。」
「……夢、見た。」
「うん。」
「あの日の……。」
それだけで。
阿部には分かった。
道路へ飛び出した自分。
離れていった手。
振り返って。
最後に言った。
――ごめんね。
「あべちゃんが……また……。」
目黒は最後まで言えなかった。
阿部を強く抱き締める。
「大丈夫。」
阿部は目黒の背中を撫でた。
「俺、ここにいるよ。」
「……うん。」
「めめの隣にいる。」
それでも。
目黒の涙は止まらなかった。
阿部も。
いつの間にか泣いていた。
「ごめんね……。」
「謝らないで。」
「でも。」
「あべちゃんは何も悪くない。」
何年経っても。
あの日だけは。
二人の中から消えてくれなかった。
___________
逆の日もあった。
仕事から帰った阿部が。
玄関で動けなくなる。
「あべちゃん?」
目黒が振り返る。
阿部の手が震えていた。
「……今日。」
「うん。」
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kaede🍁
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「めめと同じくらいの人を迎えに行った。」
「……。」
目黒は何も言わず、阿部のところへ行く。
「あの日思い出しちゃった。」
阿部の目から涙が落ちる。
「めめが来た時。」
黒いドレス。
大きな鎌。
そして。
目の前にいた、最愛の人。
「俺……めめの命、刈ったんだよね。」
「……うん。」
「嫌だった。」
阿部の声が震える。
「本当に嫌だった……。」
「分かってる。」
目黒が阿部を抱き締める。
「ごめん……。」
「それ、俺が言う方だから。」
「あんな再会したくなかった。」
「うん。」
「普通に……。」
阿部は目黒の胸元で泣いた。
「普通にまた会いたかった。」
「俺も。」
二人は。
何度も同じ傷で泣いた。
どちらかが苦しくなれば。
もう一人が抱き締めた。
そして。
二人とも苦しくなった日は。
一緒に泣いた。
傷は消えなかった。
でも。
一人で抱える必要はなくなった。
___________
そんな二人を周りの死神たちは、ずっと見ていた。
ある日。
「阿部さん、目黒さん。今日は店、休んでください。」
突然そう言われた。
「なんで?」
「いいから。」
「何かあるの?」
「あります。」
半ば強引に連れて行かれ。
大きな扉の前に立たされる。
「開けてください。」
阿部と目黒が顔を見合わせる。
「何だろ。」
「分かんない。」
二人で扉を開けた。
その瞬間。
「……え?」
阿部が立ち止まった。
そこにあったのは。
式場に似せた、美しい場所だった。
真っ白な花。
長く続く道。
たくさんの椅子。
そこには。
今まで二人が一緒に働いてきた死神たちがいた。
コーヒー店へ毎日のように来る人。
阿部から研修を受けた人。
二人に救われて死神になった人。
「……何これ。」
阿部が呆然とする。
一人の死神が笑った。
「二人のために作りました。」
「俺たちの?」
「はい。」
「阿部さんと目黒さん、たくさんの人を幸せにしてきたじゃないですか。」
別の死神も笑う。
「だから今日は、二人が幸せになる番です。」
阿部の目に。
一瞬で涙が溜まった。
「あべちゃん。」
隣から呼ばれる。
「……何?」
振り返る。
目黒が。
阿部の前に立っていた。
その手には。
小さな箱があった。
「……めめ?」
目黒も。
もう泣いていた。
「俺さ。」
「うん。」
「ずっと、これ言いたかった。」
生きていた頃。
何度も考えた。
指輪を選んで。
場所を決めて。
阿部が一番喜ぶ言葉を考えて。
いつか。
ちゃんと伝えようと思っていた。
でも。
その「いつか」は来なかった。
「あの日の前から。」
目黒の声が震える。
「俺、あべちゃんと結婚したかった。」
阿部の目から涙が落ちる。
「……うん。」
「ずっと一緒に暮らしたかった。」
「うん……。」
「一緒に年取って。」
「うん。」
「おじいちゃんとおばあちゃんになっても、同じ家に帰りたかった。」
叶わなかった未来。
二人にはもう。
年を取ることもない。
それでも。
「今はもう、あの頃思ってた結婚とは違うかもしれない。」
目黒は阿部を見つめる。
「でも。」
箱を開ける。
そこには。
二人のための指輪があった。
「今度こそ。」
目黒は。
数年前に言えなかった言葉を口にした。
「あべちゃん。」
「俺と家族になってください。」
阿部は。
口元を押さえた。
涙が止まらなかった。
「……遅いよ。」
「ごめん。」
「何年待たせるの。」
「ごめん。」
「俺……。」
阿部は泣きながら笑った。
「生きてる時に、聞きたかった。」
「……うん。」
目黒の涙も落ちる。
「俺も言いたかった。」
二人の間に。
叶わなかった時間がある。
だから。
嬉しいだけではなかった。
悔しくて。
悲しくて。
それでも。
どうしようもないくらい幸せだった。
阿部は涙を拭って。
目黒の前に左手を差し出した。
「……よろしくお願いします。」
目黒の顔が崩れる。
「あべちゃん……。」
「泣きすぎ。」
「そっちも。」
二人で泣きながら笑った。
目黒が。
阿部の指に指輪を通す。
数年越しだった。
本当なら。
もっと早くここにあるはずだったもの。
阿部は自分の指輪を取ると。
今度は目黒の左手を握った。
「めめも。」
「うん。」
ゆっくり。
薬指に通す。
そして。
二人は抱き締め合った。
周りから大きな拍手が響いた。
___________
死神になった二人に。
「死が二人を分かつまで」という言葉は、もう似合わなかった。
一度。
本当に死によって引き離されたから。
だから今度は。
もっと単純な約束でいい。
「あべちゃん。」
「何?」
「ずっと一緒にいようね。」
阿部は泣きながら笑った。
「うん。」
「今度こそね。」
そして二人は。
一度失ってしまった未来の続きを。
もう一度、自分たちの手で選んだ。
生きていた頃には間に合わなかったプロポーズは。
数年という長い時間を越えて。
ようやく。
最愛の人の左手へ、届けることができた。
コメント
1件
うわあ…読んでて涙が出ました。阿部さんと目黒さん、お互いの傷を抱えながらも、一人じゃなくて二人で泣ける関係って本当に尊いです。そしてあのプロポーズ…「生きてる時に聞きたかった」って阿部さんが言うところ、胸がぎゅっとなりました。叶わなかった時間があるからこそ、今の幸せが染みるんだなあ。死神たちのサプライズも温かくて、周りに愛されてるのが伝わってきました。素敵な話をありがとうございます。