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mogyumogyuGemi
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mogyumogyuGemi
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古流斬
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『この度、尊厳死法が可決されました。
皆さまにおかれましては、 いつでもどこでも“自由”に死を選択できるようになります。
「アポトーシス」と口にするだけでプログラミングされた自殺遺伝子に作用し、細胞が勝手に死滅していきます。
苦痛などはありません。眠るように瞬間的に死ぬことができます。
“自由”に死が選択できるということ以外は日常生活はなんら変わりはありません。
皆さまの“自由”な意志を尊重いたします。
それでは今日も元気に生きましょう。』
朝・昼・晩と決まった時間にTVから流れてくるこのAI音声にうんざりと言わんばかりに亮太は深いため息をついた。
2030年、政府は突如『尊厳死法』というものを施行した。
なんら変わらない日常だが、いつでもどこでも死ねる権利が全国民に与えられたというのだ。
最初はそんな馬鹿なことがあるはずないと国民は思っていたが、 施行直後に冗談で「アポトーシス」と唱えたネット配信者がライブ配信中に死亡するという事件が多発した。
すぐさまニュースとなり、全国民は他人事ではないとすぐに理解した。
ネット配信事件後、 政府は全国の水道水に特殊な酵素を散布し、全国民の遺伝子をゲノム編集を可能にして自殺遺伝子なるものを植えつけたとの正式に発表した。
もちろん許可なく遺伝子組み換えなど人権侵害だというデモが行われたが、 その遺伝子は「アポトーシス」と唱える以外には活性化することはなく、日常生活には何も支障はきたさない。
ただ、容易に死が選択できるようになるというだけなので、あくまで自由意志を尊重できるものだという説明のみが繰り返し行われた。
「いつでもどこでもお気軽にねぇ。」
コーヒーを啜りながら、亮太は節目がちにつぶやいた。
確かに自分はずっと死にたいと思って居た人間だった。
幼い頃から人との距離感がわからず、どこか浮いた存在で、イジメられもしないが、友達と呼べる存在も作れずなんとなく学生時代を過ごした。
大人になってからもそれは変わらないまま、人間関係に馴染めず、気まずくなってはすぐ辞めて職場を転々とする日々を送っていた。 20代の頃はそれでもなんとかなっていたが、30歳を迎えると馬鹿みたいに職歴の連なった履歴書を持って面接に行っても、同じように辞めるのではと落とされてしまい就職自体も厳しくなってしまっていた。
何かを生み出す訳でも無い生産性のない自分は社会にとって必要のない人間なのだろう、そう思うと早くに死んだほうがいっそ人の役に立てるのではないだろうか、なんてぼんやり考えることが増えていた。
そんな矢先にいきなり尊敬死法が施行され、いつでも簡単にと言われると、求めていたはずの救いが、急にチンケなものになってしまった。
「とりあえず今日は単発バイトにでも行くか。」
亮太はポケットに重々しく鍵を詰め込んだ。
「おはよーございます。」
後ろから少し鼻にかかった甲高い声が聞こえてきたので、後ろを振り返った。
たまに単発バイト先で一緒になる、紗希ちゃんが手を振りながらそこに居た。
「おぅ。おはよー。今日もシフト入れたんだ?」
朗らかな笑みを浮かべてこっちに近づいてくる小柄の愛嬌のある紗希ちゃんは俺にとっての癒しだ。自然とつられてこちらも笑顔になれる。
「えへへ。今日も亮太さんに逢えるかなぁなんて思って入れてみました。当たりですね。」
紗希ちゃんはなんの気なしに可愛いことをいう。
「またまたぁ。あんまりおじさんからかわないでよ。」
といいつつもにやけてしまう自分がいた。
我ながら面白くない返しだなぁと思いながらも、 相手は6つも下の女の子だ下手に本気にするとこっちが痛い目をみてしまうと、俺は心を引き締めるようにエプロンの紐を結んだ。
「本当に思ってるのにー。それに亮太さんは全然おじさんじゃないですよ。」
紗希ちゃんは髪を縛りながら、小首を傾げる。その仕草が小動物のようでなんだか愛らしくみえるから不思議だ。
「へいへい。まぁ冗談そんくらいにしといて、今日も一日ゆるく頑張りますか。」
単発だけど時々入っているこのバイト先は、店主が68歳の爺さんで、1人で趣味程度にしかやってない蕎麦屋だ。いつまで続けるかわからないから、時々バイトを雇っては店を開けている。だから長期で人を雇う気はないらしい。
俺はそのゆるさといい加減さが、一つのことを長く続けられないどうしようもない俺には合っていて、アプリで募集が出たときはなるべく入るようにしていた。
ピークも過ぎてざっくりと洗ったどんぶりを食洗機に並べていると、 天井から吊るされるように固定してあるTVから昼を告げる時報とともに災害時のような特殊速報の音が聞こえくる。
『お昼のニュースです。
尊厳死法が施行されて2週間が経ちました。
この法施行後、死亡率は増加傾向にあり
死亡者の遺族団体によるデモ抗議が続いています。また、人口の大幅な減少を心配する声も聞かれ、これは生産資材が減少し、政府の人為的な口減らしなのではとの批判の声も相次いでおります。
これに対し政府は依然として、自由意志によるものとし、反対派のデモには、何ら国民生活は変わっていないはず。何も強制はしていない。元来、死は等しく平等に与えられている権利であり、それらの機会が容易になり、より死を等しい条件にしただけとの説明を繰り返しています。』
カウンター席のテーブルを拭いていた紗希ちゃんが、手を止めて険しい表情でTVを見つめているのに気がついた。
あまり見たことない紗希ちゃんに戸惑いながらも、俺は食洗機のフタを締めながら聞いた。
「どうした。なんかあった?」
紗希ちゃんは我に返ったかのように俺に振り向くと無理矢理口角を上げて言った。
「んー、なんでもない。って言いたいとこだけど亮太さんはこの法案、どう思いますか?」
「この法案?あぁ尊厳死法ねぇ。正直なところあんまり俺自身は変わらないというか。
まぁぶっちゃけ死にたいなんてみんな一度は思うんだろうけど。まだ言う気になれないって言うか、半分本気にしてない感じかなぁ。」
「本当に死ぬわけないってこと?」
紗希ちゃんは幼い子どものような口調で俺に
疑問をぶつけてくる。
「いや、信じてないって訳でもないから言わないようにはしてるけど。ニュースでも流れてるし、ネットとかでも死んだライブ放送とか見たから実際死んじゃうんだろうけど。なんていうか、災害の時みたいにさ、実際に人は死んでるのに身近じゃない人だから他人事の様に思えるっていうか。今俺に起きてることって感覚があんまりないんだよなぁ。」
首の後ろの髪の毛をさすりながら俺は紗希ちゃんの顔色を伺うように見た。
紗希ちゃんは口をほんの少し尖らせて、俺ではなくカウンターのメニュー表の当たりを見ていた。
「ふーん。私は大嫌いこの法案。
だって本当に簡単になっちゃったじゃん。死ぬの。私もネット配信見たけど、一見死んだようには見えないくらい眠るように力が抜けてバターンって転がっていって。それで終わり。
あんなに怖かったものが、なんでもないよー眠るようにーなんて、じゃあ何のためにみんな必死に生きようとしてるのかわかんないじゃん。」
紗希ちゃんは頬を膨らませながら、腕を組んで怒っているぞというアピールをする。怒っているはずなのに、小さな女の子みたいでまったく怖さを感じないのが可愛いらしくて俺はつい微笑んでしまった。
「なんで笑うのー!酷い!」
「いや、ごめん。違う違う。紗希ちゃんの言う通りなんだけどさ、あんまりにも可愛いく怒るもんだから。」
「でも本当に嫌い。この法案。私も言わないようにしてるけど。簡単過ぎて余計に考えちゃう。もし言ったら終わっちゃうし、当たり前にくるはずの明日がもう明日じゃなくなっちゃうんだなぁって。考えたくないのにすごくずっと死ねちゃうんだ。って。」
「まぁ、そうだよなぁ。簡単になったはずなのに、結局俺は言えてないしなぁ。」
紗希ちゃんが俺の顔を心配そうに覗きこむ。
「言えてないって何ですか。言わなくていーの。」
ほっぺたを膨らませながら、背伸びして俺の頬をつねろうとしてくる。
俺も背伸びしながら避けるからその手は届きそうで届かない。
「いや。別に深い意味はないって。でも俺も30歳になって色々身の丈を知ってさぁ。限界きちゃったらとかやっぱり考えるじゃんか。なんか、同じ形の積み木永遠に積み重ねてるみたいな。崩れもしないけど、なんの面白みもなくて。じゃあ今終わらせても変わらないじゃないかとかさ。」
「もー時々亮太さんは暗いなぁ。
あっそれならジェンガは同じ形だけど、どこまでやっても楽しいよ。積み方次第では崩れちゃうけど。」
紗希ちゃんはそう言って笑ったけど、目の奥底は何か別のことを思い出しながら言ってる顔をしてた。
「紗希の言うとおりだなぁ。でも亮太は積み重ねるのが苦手だからなぁ。」
遠くから居ないと思ってた店主の三禄さんの声が聞こえてきた。酒焼けして出しづらそうに間延びした低い声だ。
「なんだ三禄さん聞いてたのか。あ、午前の締め作業はあらかた終わったよ。今日はもうこれで上がっていいよね。
それに、積み重ねが苦手なのは俺だけじゃないだろ。じゃあお先に」
三禄さんに布巾を渡して、苦手な人生論という深い空気から逃げるようにエプロンの紐を解いて休憩室に入り込んだ。
休憩室は長年の揚げもの油が染み込んだ木目にほこりがくっついて光が当たると白っぽくて、カーペットには何かこぼした染みがついていて、でも別に汚さは感じない程度に綺麗に掃除がされていて、それが今の俺にはなんだか居心地が悪かった。
コメント
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ふみさん、尊厳死法第1話読んだよ〜! 「アポトーシス」って唱えるだけで♡♡♡る世界、めっちゃ恐ろしい設定なのに亮太さんの日常の淡々とした空気感がリアルで、逆に怖さが深まった😭 紗希ちゃんとの会話も良かった…「簡単になりすぎて余計に考えちゃう」って言葉、すごく刺さったよ。死にたいと思いながらも言えない亮太さんの気持ち、わかる気がする。 続きが気になりすぎる!!亮太さん、紗希ちゃん、この先どうなっちゃうんだろう…💦