※全体的に重めです
俺は、クロナだ。
真っ暗な空の中、久しぶりに木の上で、死ぬこともなく、のんびりとした時間を過ごしていた。
俺の悪魔か吸血鬼かの羽は、今この時だけは使われることもない。飛んだところで、疲れるだけだからな。
あまりにも、暇な時間を過ごす。
吸血鬼の血を飲んでから、ここまでのんびりとした時間は、本当に久し振りだ。
枝の上で体を大きく揺らしたおかげで体勢を崩し、そのまま下へと落ちてしまう
それにしても、夜は本当に暇だな…争いが激しい悪魔も人間も、その他生物も、魔物を警戒して出てこなくなる。
ここら辺に魔物は少ないから、本当に…本当に、暇だ。
でも、夜襲なんて面白くないことはしたくない…と歩いていれば、いつの間にか自分の家へと帰ってきていた。
とりあえず、武器でも磨いとくか…
そう思いながらドアを開けると、家の奥から物音が聞こえてきた
軽く警戒しながら、決して広くは無い家を進むと、何者かが収納棚の中を漁っている。
少しずつ距離を詰めてみるか…
かなり近づいても、相手は全く気づいていない様子だった。
…ここまで近付いたからわかる。こいつは、人間だ。人間の血の匂いがする。
試しに頭を掴んでやると、相手は面白いくらいビビッた。
…まだ子供か?こいつ
子供は「どうしよう」と何度も呟き、手足をぶんぶん振り回す。
結構痛かったから、とりあえず二の腕を折り、落ち着かせようとした。
声がうるせぇ………
そこから、少し時間は経ったが…まだ、落ち着く気配は無い。周囲を忙しなく見回し、今すぐにでも逃げ出そうって感じだ。
とりあえず、足を縛っておくことにし、なぜここに来たのか、なぜここの物を漁ったのか、暇潰しに聞くことにした。
…もし喋らないなら、即座に刺す、とも伝えてある
「…お、おれは。飯…が…無くて」
言葉は辿々しいが、まぁ、許容範囲だろう
「…おれは…村、消えたの。悪魔が。…悪魔が、来て…
おれ、隠れんぼ、してた。いつも通り、みんなと。
だから、悪魔には、気付かれなくて…き、気づいた時には、みん……な…」
その時の光景を思い出したのか、子供は泣き、言葉が出なくなった。
仕方なく、短刀を喉に突きつけてやる。
「ッ……そ、その後…おれ、色々、見たくなくて…そこから、逃げた。怖い、夢、おもった
…そこから、ちょっと走って…お腹、すいた。
でも、親、みんな。居ない。ご飯、無い。だから…」
『どっかの家から食い物を盗もうとしたら、そこは人外の家だった…と』
子供は、こくこくと頷く。そんな面白いことがあったんなら、見に行けば良かったな…
『ふーん…なぁ。お前の村って、どこら辺なんだ?』
「え、えっと…」
『景色を言うだけでも構わんぞ』
「……滝が見えて…山。山がいっぱいある。ここからは、あまり遠くはなくて…」
『あー、多分ルークん家の方向か?…ん?俺、夕方辺りにそっち方面行ったぞ?廃村っぽいのはあったが…』
「…お昼の…12時、くらいだから。おれが……逃げたのは…」
子供は、自分の手を握り締めた。子供の拳から、血が滴り落ちたのが見える
暇潰しの質問は続く
『えー、マジで?お前、いつ頃俺ん家に来てたのよ』
「…わかんない。時計、無いから。
ただ、周りが、まだ明るかった、のは、覚えてる」
素直に、すげぇな…と思った。
俺が居ない間も含むとはいえ、昼の間は、俺に気づかれないよう、息を潜めていたわけだ。
…気配を掴むのには、自信があったのに。相当、隠密が得意なのだろう
『普通に育てば、戦闘の才能も育っただろうに』
目の前の子供が困惑したように俺を見ている。
その視線に気づき、続けて声をかけた
『んにゃ、今のはひとり言だ…気にしなくていい……そういやお前、この家にどうやって入ったんだ?戸締まりはしていたはず…』
「えっと…窓から…」
『…あー、窓は基本的に閉めねぇしなぁ…』
どっかの爆弾魔が、窓を割って入ってくるせいで
『…ま、大体わかった。
お前は運が悪かっただけだ。来世で良い感じになると良いな』
その言葉を聞いたとたん、子供の顔が青褪めた。
『まぁ、できることなら、お前が成長してから仕留めたかったが。
…普通に考えて、孤児が 健全に生きられるわけねぇしな?』
“孤児”は、一瞬だけ見開いた目で俺を見て…俯き、「…おれは、どうすれば良かった…?」と呟く。
『さぁな?…これ以上の地獄を見たいなら、生きることをオススメするが』
今度は困惑した顔で、孤児は俺を見た。俺が、孤児を生かす気など無い…とでも、勘違いしたような反応だ
『…勘違いしているようだが。…俺は、お前を生かす気も、殺す気も無い。ガキに興味なぞ無い。
…だが、孤児で生き残るなんて不可能。だから、さっさと死ぬのをオススメしてるってワケだ』
「し、死ぬって…」
『…まず、孤児が生きたところで、何かしらの組織に巻き込まれるか、自分より強い者に痛めつけられるか。
…運に見放されたら、終わりなんだぞ?わかるか?』
「…それでも、良い方向に行くことだって…」
『まぁ、あるかもしれんが…天文学的な確率だろうな?だが、そんな選択肢もある』
孤児は、暫く黙り込んだ。
そもそも、俺が暇じゃなければ、俺と出会った時点で孤児は死んでいただろう。
孤児は覚悟を決めたような顔で、口を開いた
「‥おれ、まだ、嫌な夢、思う。
でも、生きる したい。
怖い、けど……良くなる、信じて…生きる」
『そうか。じゃ…せいぜい頑張れ。出口はあっちだ』
俺は扉を指差し、勇気ある愚かな孤児は、扉へ歩み出した
…フラついてるのは空腹からか、腕の痛みからか
孤児は扉を開け、俺にお辞儀をして出ていった。
「…おれは…神、信じる。少しでも、慈悲、信じて…」
……慈悲ねぇ
『生き残りたいなら、木の実でも食うんだな』
ただの気分で孤児の背中に言い放ち、扉を締める。
木の実はそこら辺に実っているから、自分で採れるだろう
眠くなった俺は、そのまま、ベッドで気絶するように眠った。
よく寝た俺は、ドアを開け また暇潰しに散歩してみる。辺りは…太陽の位置から見て、多分昼だろう。
少し森を歩いた瞬間、ツンとした血生臭い匂いを感じた。
俺は、臭いに向かって歩く
…そこに居たのは、昨晩に会った孤児の亡骸だった。
体は原型を留めていなかったが、唯一残った服装から判断できる
この殺し方は……まぁ、悪趣味な悪魔にでも狩られたのだろう。
そう思いながら孤児の隣に腰を降ろした。悪魔は何処かに行ってしまったのか、ここには来なかったが。
『………ま、何の問題も解決してなかったしな…』
この世界の神は、俺達に興味など無い
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過去に書いた暇潰しの産物をリメイクしました。 しばらくは過去の産物をリメイクして、ここに投げつけます