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嘘

「嘘」のメインビジュアル

2

第2話

♥

1,180

2023年12月28日

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【竜蘭】


(約6000文字)


○注意書きは1話参照です。

○急展開です。

○途中で終わります。



数ヶ月後、天竺の集会を行っているアジトの近く。

三途と九井が2人雑談をしながら歩いていた。

「この後どうするよ?流石に2人じゃ暇だな」

「そうだな。誰か誘えるやついねぇの?」

「この辺だと…灰谷くらいじゃねぇ?」

「そういえば最近蘭見ねぇな…竜胆とは昨日会ったけど」

「確かに…って、あれ蘭じゃね?」

「あ?…ほんとだ、おーい!蘭!!」

名前を呼ばれて振り返る蘭だが、こちらに向かってくる気配は一切なかった。

それどころか、向かっていた方向に進み直そうとすらしている。

「は?!いやいや待てって!!蘭!!」

止まろうとしない蘭に走って近付いた。

ここまでしてようやく蘭が目を合わせてくれた。

「蘭、久しぶりじゃねぇか!最近2人でいんの見ねぇけど竜胆と何かあったのか…って、心配いらねぇか。お前らバカみてぇに仲良いもんな。」

いつもならばここで幸せそうに笑いながら

「まーねー♡俺愛されてるから♡」なんて言うのだが、今日の蘭はずっと俯いて無言で、ただ話を聞くだけ、というようだった。

「ここじゃアレだし、どっか喫茶店入ろうぜ」

「そーだな。蘭、時間あるか?」

「…うん」

しばらく雑談を繰り返していたが、一向に蘭は声を出さない。

会わないうちに随分と変わったように思う。

いつも結んでいた髪はおろしたまま、少し傷んでおり、色もだいぶ落ちている。

服にもいくつかシワがあるし、前ほど服装に気を使っていないように見える。

よくよく蘭の顔を見てみれば、虚ろな目の下には酷い隈ができており、それに加えて心做しか目元が赤く腫れているような気さえした。

なんだかかなり痩せたようにも思う。

それを見兼ねた九井が心配そうに蘭に話しかける。

「蘭、もしかして体調悪いか?もしそうなら無理してここ居なくていいぞ?」

「…大丈夫。ごめん」

どうしたものかと考えていると、突然聞き覚えのある声がした。

「わーさっすが獅音センパイッスね!!」

「だろ〜?やっぱ竜胆は分かってんな!」

「もちろんッスよ〜!」

灰谷竜胆に斑目獅音。声をかけようとした途端、竜胆の方がこちらに気付き、近寄ってきた。

「あれ、三途とココじゃん。どーしたの?」

「九井と2人でぶらついてたら蘭見かけたから3人で雑談してた。お前らこそどうしたんだよ。」

「ふーん。俺らは迷子の大将探しの休憩」

「イザナが?鶴蝶はどうしたんだよ」

「まー細かいことはいいじゃん?」

「適当だな…獅音もこっち来いよ」

「まー水飲んだら帰るけどな」

「何しに来たんだよ!」

「用事できちゃったからさー」

「珍しいな」

「竜胆はこれからどうすんだ?」

「まだ決めてない」

「じゃ、俺帰るわ。またなー」

「はやっ。じゃあなー」

「また集会ん時なー」

「ていうかさァ…」

「?」

「ビクッ…」

「何。オンナの次はオトコ?そんなに欲求不満なワケ?」

「は?何の話?」

「なァ、蘭。聞いてんの?」

「おい竜胆。蘭にそんな口聞いて大丈夫かよ…」

「おい!こっち見ろよ!」

「はい…すみま、せ…」

「蘭?!」

「チッ…ンでよりによって蘭がいんだよ…マジ最悪。つーか蘭帰れよ。」

「は?!なんでそうなんだよ!いくら蘭と喧嘩してるからって…」

「喧嘩なんかしてない。」

「じゃあなんで…」

「コイツが悪いんだよ。なァ、蘭?」

「は、い…。全、部俺が悪い、です…」

「おい蘭!お前どうしちまったんだよ…?」

「いいから早く帰れよ。邪魔なんだよお前。」

「は、い…。ごめ、なさい…」

「竜胆!!テメェ何様だよ?!蘭がいたって別にいいだろ!?」

「はァ?蘭なんていたって邪魔なだけ。目障りなんだよ。」

「おい竜胆!!お前それでも弟かよ!?」

「だから何?もうあんなの兄貴でもなんでもねぇよ」

「蘭、1回外出よう、な?」

「…」

「はっ、何。ココは蘭の味方すんの?」

「竜胆お前1回黙れ!!」

「あ、おい蘭!!家帰ったら家事全部やっとけよ!!」

「…はい」

「蘭、早く行くぞ!」

「…」



「蘭、大丈夫か?竜胆どうしちまったんだよ…」

「…」

「お前もだけど…なんかあったんだろ?俺でよければ話してみろよ」

「…」

「なんで竜胆とは話すのに俺達とは話さねぇんだ?」

「ソイツに何言っても無駄だよ?」

「竜胆?!なんで…」

「九井、コイツもうダメだわ。完全に変わっちまってる。」

「どういうことだよ!」

「なんでもいいでしょ。早く帰れよ。蘭。」

「竜胆テメェ…!!蘭が何したって言うんだよ!」

「うるさいなぁ…ココたちに関係ないじゃん。」

「そうだけど…」

「…ごめんね。俺が悪いから」

「蘭…?!」

「…蘭、後で連絡するから」

「…ん。ごめん」

「ばいばーい♡」



あの日から、灰谷蘭は完全に壊れてしまった。

自分の意見も、意思も、何もかも捨てる。竜胆に言われたことをそのまま成し遂げて、そしたら竜胆の視界に入らないようにする。

竜胆が全て正しい。そう思えるように薬の過剰摂取によって自らを洗脳した。

しかし蘭は、もう限界をとっくに超えていて、生きることの価値を、自分の存在意義を見失ってしまっていた。

先程三途達と会った時、蘭が向かっていたのは竜胆との思い出深い海。

そこで全てを終わらせてしまおうと思っていた。

そこに三途達と鉢合わせて喫茶店へ。だからといって機会を逃したわけではない。

だって、自分がいつ死んだって誰も気に留めもしないのだから。

沈んだ気持ちのまま三途達の話を聞いていれば、よく聞き慣れた声が、恐ろしくて堪らない声が蘭の耳に入ってくる。

竜胆だ。すぐにわかった。

今すぐどこかへ消えてしまいたい。そう思ったって無理な話。

なんでそんなこと言われなければならないのか。

そんなに嫌いならいっそ殺してくれ。

邪魔なのは分かってるから。

死にたい。死にたい。

あぁ。もう無理だ。

今にも泣き出してしまいそうなほど、膝から崩れ落ちてしまいそうなほど蘭は追い込まれている。

それでも我慢して我慢して我慢して。

竜胆が悪者にならないように。竜胆が嫌われないように。

許されることならば、ただもう一度だけ竜胆に愛されたい。

それだけでいいから。



帰宅した蘭は竜胆に言われた通り家事を1式済ませ、自室に戻った。

さて、思い残したことはもう何も無い。きっと行き着く先は地獄だろう。

だが、蘭にとって今の状況よりも辛いことなんてなかった。

せめて最期くらい、竜胆に看取られて死にたかったと、涙を流して首にロープをかけた。

「竜胆。愛してる。ごめんね」

悲しんでくれることなど無い相手に、ただ同じ言葉をかけてもらいたかったと、涙をこぼしながら蘭はそう呟いた。

どうか少しでも、自分がいなくなったことで竜胆が幸せになれますようにと、自分が死ぬ時でさえそんなことを願った。

「蘭!!!」

生まれて来なければよかったよ。

でも、竜胆の兄ちゃんで幸せだった。

生まれてきてくれて、俺の弟になってくれてありがとう。

この言葉は全て、机の上に置かれた遺書に綴ってあった言葉である。





蘭の自殺行為は未遂で終わった。

三途が首を吊る寸前に現れて、迅速に対応してくれたおかげである。

しかし、蘭はあれから目を覚まさない。

もうかれこれ5日経つが、青みがかった紫は固く閉ざされたまま。

そしてそれを同じ紫が、ただじっと隣で見守っていた。

「…おい竜胆、そろそろお前寝ろよ」

「…うん。」

「聞いてねぇだろそれ。お前まで体ぶっ壊しちまうぞ」

「…うん」

「はぁ…ったく。ほれ、水でも飲め。」

「…ありがと」


あの日、蘭が竜胆に言われるまま帰った後、三途達はこのような状況に陥ってしまった経緯を聞いた。

竜胆曰く、蘭が浮気をした証拠と呼ばれる写真を見せられ、それを見るなり合成では無いのかと口にした九井は、すぐさまその手のものに詳しい知人に調べさせた。

結果、その写真は合成であることが判明し、では何故蘭は『自分が悪い』と言ったのかと考え込んだ。

そして三途は、蘭に連絡しても一向に返事が返ってこないことに疑問と不安を抱き、喫茶店に九井と竜胆を残して蘭の家まで向かった。

ここで三途の機転が利かなければ、今頃蘭は穏やかとは言えないがこんなところですやすやと眠ってはいないだろう。

もっとも、眠っているとはいえ睡眠とは別物だから決して良いとは言えないが。

三途が家に着いた頃には物音1つせず、何度も家に来ていたため部屋取りを覚えていたので迷うことなくすぐさま蘭の部屋へ足を運んだ。

ドアの前まで着いた時、微かだが蘭らしき声が聞こえた。

「竜胆、愛してる。ごめんね」

何度も蘭の口から聞いたその言葉は、まるで最期を語るかのような物言いだった。

ドアを開けるなり蘭は手で掴んでいたロープを離して首を吊る形になった。

「蘭!!!」

思い出しただけでもゾッとする。


もしあの時、自分がもう少し遅く蘭の部屋に着いていたら。

もし、九井と共に竜胆の話を聞いて説教を垂れていたら。

今頃蘭は、手の届かないところまで行ってしまっていたかもしれない。

本当に良かった。しかし、いつ目を覚ましてくれるのだろうと。

三途だけでなく、九井も、先に帰ってしまった獅音、あの時いなかったイザナも鶴蝶も、もちろん竜胆も、皆そう思っていた。

蘭の冤罪が判明し、三途が蘭の状況を電話で九井に伝えた時、竜胆は本気で焦っていたし、涙で顔がぐちゃぐちゃになっていた。

どうして。なんであんなことを言ってしまったのだろうと。

そこまで追い詰めてしまっていたのかと。

背中を摩ってくれている九井も涙で頬が濡れているのがよくわかった。

そういえば、蘭はあの日涙を少し浮かべた程度で、あれ以外に自分に涙を見せることなんて1度もなかった。

蘭が腕を切っていることを知っていたのに、結局心配の言葉なんてかけずに責めてしまった。

混乱した状態の蘭の言葉をそのまま受け取り確認することもせず、本当の事なんて分かっていないのにあんな罵詈雑言を浴びせてしまった。

しまいには、日に日に自分の言葉に従順になっていく蘭に疑問をもち、最初こそ心配して戸惑い気味に暴言を吐いて状況を確かめようとしていたが、だんだんと普段見せない蘭の姿に醜い優越感を感じ、調子にのって思ってもいない言葉を吐きまくった。

あの時蘭はどんな気持ちだったのだろう。

どんなに辛かったのだろう。

竜胆のことは鬱陶しいほどに心配するのに、自分の”辛い”や”哀しい”などの弱い感情は絶対に見せず、すべて心にしまい込んで隠す蘭だ。

きっと竜胆が想像するより遥かに辛い思いをして、隠し続けたのだろう。

思い返せば最低なことばかりで、自分は蘭の気持ちを微塵も考えていなかったのだと後悔する。

いつだって優しく笑いかけて寄り添ってくれていた蘭に、自分は暴言を吐いて冷たくあしらってばかりだった。

そんな竜胆に何一つ文句を言わず、ただ言う通りにして笑っていた蘭の気持ちを1度たりとも考えたことがなかった。

本当は誰よりも心が弱いと知っていたのに。

辛い時ほど笑って誤魔化す人だと分かっていたのに。

唯一の理解者であったはずなのにも関わらず、蘭が出していたSOSを無視して苦しめ続けていたのは自分だった。

最終的に自分の勝手なわがままと理不尽で、最愛の兄を、蘭を、自殺行為に走るまで追い詰めてしまった。

これでもし、蘭が死んでしまったら。

この先どうやって生きていけばいい?

自分も死ねばいいのだろうか?

そんなことを考えずにはいられなかった。

蘭が無事で良かったと心から思う。

しかし、一体いつ目を覚ましてくれるのだろう。

固く閉ざされた美しい瞳が再び自分を捕らえてくれるのはいつだろう。

また自分に笑いかけてくれることはあるだろうか。

優しく言葉をかけてくれることはあるだろうか。

いや、そんなことは望まないから、ただ生きていてくれるだけで、笑っていてくれるだけでもいい。

もう二度と、辛い思いをさせたくない。

こんなこと、二度とあってはならない。

あんなことをするほどに追い詰めてしまったのだ。

それなのに自分は未だ謝罪のひとつもできず、ただ眠り続ける蘭を見守ることしかできない。

だからせめて、蘭が目を覚ました時真っ先に謝れるよう寝ずに待っていようと、そう考えていた。



遺書に書かれた竜胆への言葉の数々。

恨み言が書かれているはずなのに、そんなものはただの一つでさえ無くて、全てにおいて愛情に満ちた言葉や体調を気遣う言葉だった。

『愛してる』

『幸せになって欲しい』

『生まれてきてくれてありがとう』

『弟になってくれてありがとう』

『そばにいてくれてありがとう』

『好きになってくれてありがとう』

そんな暖かすぎる言葉とは打って変わって、蘭自身の思いや願いは酷く悲しいものばかりだった。

『生まれて来なければよかった』

『二度と生まれ変わりたくなんかない』

『毎日死にたいって思ってた』

『こんな兄ちゃんでごめんね』

『迷惑ばっかかけてごめんね』

『役立たずでごめんね』

『好きになってごめんね』

『俺が死ねば竜胆はきっと幸せになれるよね』

『ただ一つだけ願いが叶うなら、死ぬ前にもう一回だけ、竜胆に愛してるって言ってもらいたかった。』

温かすぎる言葉と、酷く悲しすぎる言葉が綴られたこの紙は所々に濡れて乾いた跡が残っており、蘭が書きながら涙を流していたことがよく分かった。

その涙を竜胆に見せていたなら、竜胆は自らの過ちに気付いて謝ったというのに。

蘭のプライドと優しさが、蘭自身を苦しめる原因となってしまっていたのだろう。

そしてそれはまた、今の竜胆を苦しめる歯車でもあったと言える。

「…俺、兄ちゃんに何をしてあげられたのかな。もっと、兄ちゃんの隣で一緒にいたいの。でも兄ちゃんは、もう俺のこと嫌いだよね。…ねぇ、兄ちゃん。愛してるって、今言ったってもう何も意味ないのかな。俺、ずっとずっと兄ちゃんのこと愛してるよ。本当に。俺には兄ちゃんだけなの。あんなこと言ってごめん。どうせ嘘だって、今更都合いいだけって思うかもしれないけど、信じて。あんなこと思ってないの。ねぇ、早く目覚まして。お願い。兄ちゃんがいないと何も面白くないよ。兄ちゃん。ねぇ、兄ちゃん」

何を言ったってその目が開かれることはなく、隣で涙を零すことしかできなかった。

よく目を凝らしてみれば、蘭の目の下は酷い隈ができており、それを見るなり竜胆の心が酷く締め付けられた。

買い物に行く時など少しだけ顔を合わせていたが、全く気付かなかった。

自分が蘭の顔を見ようともしなかったのもあるだろうが、それだけならきっと気付けていた。

恐らくファンデーションなどを塗って隠していたのだろう。

自分の無力さを強く憎んだ。





【あとがき】


いつ頃投稿すればいいのかちょっと悩みつつ夕方に投稿することになりました〜!

今回の短いのでもう1話投稿しちゃいますね…

そうすれば年内に全て投稿できるので!!

特に書くこともないのでばいばい!

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