「…鳴海、いつまで引きこもっとるんだ」
真っ暗な部屋で、掛け布団を引っ被りながらゲームをする鳴海に声をかける長谷川。
「あ?いつものことじゃないか」
…に対し、どこ吹く風な鳴海。
あれからしばらく経って鳴海のヒートは無事終わり、外に出ても何ら問題は無い。が、頑なに部屋から出ようとしない鳴海に、長谷川は呆れを感じていた。
恐らく、宗四郎と会わないようにしているのだろう。
有明りんかい基地にて、週2で怪獣8号もとい日比野カフカに稽古を付けている保科。当然顔を合わせることもあるし、保科が来たという情報は回ってくるものである。
これまでの鳴海なら、保科が来たと聞きつければ部下を引き連れ応戦しに行っていた。子供じみた言葉で宗四郎を煽り、煽り返されては撃沈している。
けれど、今は保科が来たと聞けば即座に部屋に戻り、この有様だ。
「はぁ…」
「…宗四郎のことだが」
こりゃだめだと諦めて本題に入る。
「っ」
…わずかに息を呑む気配がした。
「もちろん宗四郎に悪意も他意もない」
他意も、に力を込めて伝える。
「おまえが薬を飲まなかったことに原因がある」
「…なんだ、結局説教じゃないか」
途端に不貞腐れた顔になってじとりと睨みつけられた。
「仕方ないだろう」
「…保科は何か言っていたのか?」
「鳴海のせいじゃない、申し訳ない、と」
「フン、あいつらしいな」
「今度会ったら謝罪を入れておけよ」
「ハァ!?なんでボクが」
「宗四郎はおまえのヒートに巻き込まれたんだぞ」
「ッ…」
悔しげに、けれど苦しげに俯く鳴海。
「分かっ、てる…」
「…俺はもう帰るが、他のαに注意しろよ」
「あぁ、」
まだ少し不安に思いながらも、部屋を後にする長谷川であった。
一方立川基地では。
「あ゙ー…足らん…」
自分のデスクに向かいながら深夜まで事務作業をこなしていた保科。しかし限界を迎え、今や天を仰いでいる状態だ。
鳴海のヒートから約2週間ほど経っていた。が、保科は言い知れぬ物足りなさを感じていた。
もっと触れたい。感じたい。あの匂いを閉じ込めて、僕だけのもんにしたい。
体いっぱいに、鳴海のフェロモンを欲している。欲しくて欲しくて堪らない。あの香りをもう一度嗅ぎたくて、脳がおかしくなってしまいそうだった。
…これは恋愛感情やない。αとしての、Ωを求める本能や。勘違いしたらアカン。
自分に言い聞かせるようにして目を瞑る。
瞼の裏に浮かぶのは、蕩けた鳴海の顔ばかりだ。去り際に聞こえた(気がする)、鳴海の自分を呼ぶ声が耳にへばり付いて離れない。これは重症だと自覚しながら、深く息を吐く。
「お、保科」
聞きなれた声に呼びかけられた。
声の主は、第3部隊隊長であり尊敬する上司、亜白ミナだった。
「!、亜白隊長、お疲れ様です」
「またこんな遅くまで仕事して…君も日比野も大概だな」
呆れながらそう言われる。
「いやぁ、返す言葉もないですわ…笑」
ははは、と笑って誤魔化してみせた。
「ところで保科、最近鳴海とはどうなんだ」
突然聞かれた質問の意図が分からず、
「どう、とは?」
と聞き返した。
「鳴海のヒートに当てられたと聞いたが」
知っとったんですか。掠れた声で問えば、静かに頷く亜白隊長。
「…まぁ、なんか、その件で避けられとるようで」
「そうか…」
「絡まれるんも無くなったんで、楽ではありますけどね」
「その割には寂しそうな顔をしているな?笑」
滅多に笑わない彼女が、ほんの少し微笑みながら指摘してくる。
「っ、や、気のせいですよ」
「ほな僕はそろそろ上がらせてもらおかな」
なんだか居心地が悪くなって、椅子から腰を上げる。
「保科」
亜白に呼び止められた。
「はい?」
振り返ると、真剣な表情をした亜白と目が合った。
「何が起こるか分からない仕事だ。自分の気持ちに嘘を吐いて、後悔するなよ」
「…そうですね、ご忠告ありがとうございます」
一礼してその場を去る。亜白の言葉を胸の内で繰り返すが、心の中のモヤモヤは晴れないままだった。
コメント
7件
やばい、最高です。ほんとに来んないい作品作ってくれてありがとうございます。ほんとにやばいしか出てきません。
今まで追えてなかったのもったいなかったな。 滅茶苦茶次回気になります!!!!!! 毎回毎回ボクとは比べ物になんないくらい神作
ぐちゃぐちゃに壊セェーーー!!!