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モノクロナツキ
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「新さん、何か俺に隠してる事ない?」
リビングのテーブルで、野中さん、向かいに俺と洸が座ってる。お茶出した方がええんかなとか思ったけど、今は明らかにそんな雰囲気じゃないな。
「……特には」
野中さんが何かを隠すように、わずかに視線を泳がせる。なんなん、お兄ちゃんはてっきり、洸と野中さんのラブストーリーがここから始まるんかと期待してたんやけど! もう、冷や汗出てきてたまらんわ!
「俺、新さんがこの家に初めて入ってきた時、すぐわかったで? あの時の子や、って」
こわ、なんなん、はっきり詳細を言わんとじわじわ追い詰める感じ! 俺まで一緒になって追い詰められてる気分になるわ。
野中さんはチラッと洸を見て、観念したかのように息をひとつ吐いた。
「……初めは友達になりたいなって、思っただけやったんです」
「……やっぱり? あれは新さんやったんやな」
洸も相変わらず、感情のない表情のまま野中さんを見つめてる。さすがに耐えかねて、俺は口を挟んだ。
「……洸くん? ちょっとお兄ちゃんに説明してもろてええかな?」
遠慮がちにそう聞くと、洸はゆっくりと野中さんを見つめたまま、当時のことを話し出した。
「……高校生の時、帰りの電車でよく見る他校の男の子。初めはそれだけやったんよ。やけど、気づいたら、帰りに違う駅で降りても、逆方面の電車に乗ってもおる事に気づいて。でも、改札を出るといつも消えてる。不思議な男の子やった」
「……それが野中さんやったって事?」
野中さんを見ると、表情なく、ただただ俯いている。でも、洸の話し方に攻撃性はない。ただ、野中さんは洸と友達になりたかったシャイボーイやったんかな。
「……そう。でも、美容専門学校の入学式に突然現れて、夏休み前にはおらんなってた」
「ひぇっ!? ……それはちょっと、また違う話になって来てませんか?」
思わず野中さんに話を振ると、彼は完全に観念したように、ポツリポツリと真実を話し出した。
「……ある日洸さんが、学校帰りに進路の話をお友達としているのを聞いて、純粋にどこの学校に行くんやろうって気になって。そこに行ったら、友達になれるかもって、ずっと探ってたんです。そしたら駅のベンチで美容学校のパンフレットを食い入るように見てたので、絶対そこやと。学校には運良く推薦で通ったんですけど、……ただ僕の目的は洸さんとお友達になる事だったので、授業についていけず、そのまま辞める羽目になりました」
「……素直に声かけてくれたら良かったのに」
「……でもあの頃の僕は、ただの真面目で目立たない高校生で。あの頃から華があって垢抜けてて、たくさんのお友達に囲まれてる洸さんに話しかける勇気がなかったんです」
「……でも、十分目立ってたけどな? 高校生の頃から、髪色以外そんなに変わってないもん。俺がすぐわかったくらいやから。それに周りの女の子も新さん見ながらコソコソキャーキャー言うてたから、今日も又おるんやなぁってノールックでわかるようになったし」
洸がやっと、少し軽い口調になった。洸もこの真相を知るまでは、内心ずっと緊張してたんかもしれんな。
「……無自覚イケメンかぁ。で、いつ自分がかっこいいって気づいたん?」
俺がその場の重い空気を和ごますように話を変えると、「え!? いつ!?」となぜか洸まで乗り気になって聞いてる。ほんま、洸も洸で野中さんのこと嫌いやないねんな。
なんとなく席を立った洸が、冷蔵庫から美味しそうな紙パックに入ったフルーツジュースを取り出し、「これ、美味しいで」と笑顔で俺たちの前に置いた。
「……俺も別に責めたいわけじゃないねんで? やけど、ちょっと怖いやん? 美容学校にまでついて来たあの時の子が、急にまた俺の目の前に現れたんやから。やから、もしなんか感情が拗れてストーカーみたいになってしまってるんやったら、逆にこっちから攻めて行ったろうと思って」
洸がジュースをストローで可愛くちゅるちゅる吸いながら笑ってる。
ほんま恐ろしい弟やで。我が弟ながら、ちょっとしたサイコパスみを感じるのはなんなんやろう。
「……だから、僕と仲良くしてくれてたんですね。……今、腑に落ちました」
待って、もう野中さん絶望みたいな顔してるやん! 5年越しの友達になる夢が叶ったと思ってたのに、可哀想すぎて見てられへん!
「うわ! 今気づいた! 確かに洸、俺がおる時じゃないと野中さんに会ってへんわ!」
「やろ? 俺だって丸腰で行くほどあほじゃないし」
「え!俺のこと武器か防具やと思てる?!?」
ふふと、悪びれなく笑う洸を見て、それだけ頼りにしてくれてるって意味に受け取ってええんやんなと必死で複雑な気持ちを抑えた。
「……そこまで警戒されていたんですね。……僕、本当に友達になれたかと……」
もうあかんて! 俺が余計なこと言うてとどめ刺してもうたやん!
「でもさ、新さん、ぜんっぜんやねんな。俺が連絡先教えても、自分から送ってくることもないし、俺に会ったら嬉しさ堪えきれへん顔するのに、自分の気持ちを押し付けてこうへん。……だから、もう信じていいんかなって」
「……空くんのお手伝いをする事になったのは、本当に偶然やったんです。空くんのお兄さんが僕が働いているBARの常連さんで、昼間時間あるので良かったら僕が行きますよって。だから、あの日弦さんに人違いで家に入れてもらえた日、目の前に洸さんが現れて……本当に奇跡が起こったって思いました。これを逃したら友達になれるチャンスはもうないと思って、必死で空くんのお話を持ちかけてしまいました。だから、そんな下心は本当になかったんです!」
「……確かに、今考えたら初対面であのテンションの上がり方は、おかしかったわな」
クスクスと笑いながら野中さんを見つめると、彼は少し耳を赤くして、当時のことを思い出したのか照れている。ほんま、もう、この洸を助けてくれた恩人をこれ以上責める必要はないよな。
でも、俺には一向に腑に落ちひん事が、たった一つだけある。
「……でも、今日、野中さん休みやんな? なんで洸のこと助けられるくらい、すぐ側におったん?」
余計な心配をかけたくないからと、空くんの申し出でデートは野中さんの休みの日にした。やから、空くんと俺で野中さんの休みは確認済みや。それに洸は俺がおらんとこで野中さんと二人きりにはならへん。それはさっき、洸の口からはっきり聞いた。だから今だってまさに、俺と一緒にいる。
だとしたら、今日の野中さんは、一体どうやって洸のピンチを察知して、側におったんやろう。