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スマホの画面が暗くなった瞬間、教室のざわめきが一気に戻ってきた。笑い声、机の音、友達が話す声──全部が現実の色をしていて、のあは少しだけ目を伏せた。
さっきまでのやり取りが、夢だったみたいに胸の奥で光っている。
『俺だけが知ってるからな。のあの全部が好きだ』
ゆうくんの言葉がまだ耳の奥に残っている。
のあは手のひらでスマホをぎゅっと握りしめる。
──会いたい。
──触れたい。
頭の中で何度もその言葉が繰り返されるけど、口には出せない。
のあの周りには友達がいて、現実があって、時間が進んでいる。
でも、心だけは画面の中に取り残されている気がした。
「のあ、さっきのダンスめっちゃよかったよ!」
友達が笑顔で声をかけてくる。
のあは少し驚いて、すぐに笑顔を作る。
「ありがとう」
その笑顔の裏側で、胸の奥にゆうくんの姿をそっと隠す。
誰にも見せられない、小さな秘密。
のあは心の中でゆうくんの名前を呼ぶ。
──ゆうくん、今何してる?
──この世界にいたら、私の隣にいてくれた?
夕焼けに染まる窓を見つめながら、のあはスマホの画面に指をすべらせる。
そこに光る名前が、唯一の救いみたいに思えた。
そしてまた、指先が小さく震える。
「ゆうくん…」
声にならないその言葉は、教室の空気に溶けて消えた。
でも、心の奥では確かに届いている気がしていた。