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【ダークヒーロー、クレス=ウォーカーの話】
「君の能力は素晴らしい。逆境を乗り越え敵を打ち砕く、物語の主人公にこそふさわしい」
かつて僕の能力を指して、ヒーロー管理局の長官が言った。
僕はその日、長官を殺した。
初めて自分の能力を知覚したのは、飼い犬のベスを殺したときだった。
ある雨の日、僕は道路を渡ろうとしていた。
その日のベスは何か機嫌が悪かったらしい。ぐずって横断歩道を渡ろうとしなかった。僕は苛立って、ベスの身体を押し出したんだ。
その瞬間、信号無視の車が突っ込んできた。
僕が押したせいで、ベスの身体は一瞬でグチャグチャになった。
次の瞬間、僕の身体は変容した。
僕の嗅覚は研ぎ澄まされ、数キロ先の匂いも嗅ぎわけられるようになった。
かくして、僕は自分の能力を自覚することになる。
能力のルールはシンプルだ。
殺した相手の能力を継承する。
発動条件は、本当にクソ。
殺す相手が、僕を愛してくれていること。
敵をどれだけ殺しても強くなれないが、仲間を殺せば、僕のパワーは際限なく膨れ上がる。
そんな、最悪の力だった。
でも僕は気にしなかった。こんな能力、どの道必要なかったんだ。
だって僕には素敵な仲間がいたんから。
ジョー、ネイサン、オリビア、デイビッド。みんな、僕を可愛がってくれた。
「呪われた力? 気にするなよ」
「君の嗅覚は索敵に有用だ。自信を持て」
「戦えなくたって、クレスは私たちの仲間だよ」
「僕らはチームだ、誰も欠けてはいけないんだ。もちろん、君も」
転機が訪れたのは、凶悪な敵、アイアンレイスと相対したときだった。
戦闘で疲弊した僕たちは、廃倉庫に隠れて息を殺していた。アイアンレイスに見つかれば一瞬で殺される、緊迫した状況だった。
「勝てる方法が、一つだけある」
ジョーが言った。
「クレス、俺たちを殺せ。俺たち四人の力を、お前ひとりに集約する」
他のみんなも覚悟を決めた顔で頷いた。
「私たちはきっと、君の中で生き続ける」
「僕らは幸せさ。僕たちの意思は、君が全うする」
「正義を執行してくれ。俺たちの代わりに」
誰一人、涙を流さなかった。
泣いてたのは、僕だけだった。
そのとき僕は思ったんだ。この人たちは本当のヒーローなんだって。
僕は四人を殺し、彼らの力を継承した。新たな力を身につけた僕にとって、アイアンレイスは敵じゃなかった。
月日は流れ、僕にも新しい仲間ができた。
マシュー、ニコラス、クリストファー。みんな、前の仲間より強かった。
「初めて会ったとき思ったよ、僕と君は生涯のライバルになるって」
「若いな、お主。若すぎる。死なせるわけにはいかんなあ」
「俺が君を鍛えよう。最高のヒーローになれるまで」
みなと一緒に努力を重ね、僕はますます強くなった。
でも、次の転機は訪れた。
僕らの力じゃ到底太刀打ちできない敵、ブラックコメットに会敵し、僕らは瀕死の重傷を負った。
何とか逃げ延びた僕は、また仲間を殺すことになった。僕以外は満場一致の決定だった。
「あの世で君を待ってる。百年後くらいに、また競い合おう」
「我儘ですまん。だが、託させてほしい。次の世代に」
「クレスはもっと強くなれるよ。俺が保証する」
みんな、何一つ文句も言わず、黙って僕に首を刎ねられた。
これまでの努力なんて鼻で笑えるくらいのスケールで、僕はパワーアップした。僕はブラックコメットを瞬殺した。
それからも、僕は殺した。
星を刈る者を討つため、僕は仲間を殺した。
虚空の暴君を討つため、僕は仲間を殺した。
異星の戦王を討つため、僕は仲間を殺した。
殲滅者を討つため、僕は仲間を殺した。
処刑人を討つために、僕は仲間を殺した。
僕の仲間はみんな勇敢。かっこよかった。
命を惜しむ人なんて、誰ひとりいなかったんだ。
当然か、だって彼らもヒーローなんだから。
死の間際、みんな、目に希望を宿すんだ。
「この世界は終わらない、だってクレスがいるんだから」
「君の未来に栄光があらんことを」
「クレスは、僕らが紡いだ最後の希望だ」
「私の道はここまで。でも、君はまだ歩き続ける、君の後ろに道ができる」
「泣く理由なんてないよ。だって、クレスがいるもの」
「君が生きてくれれば、それでいい」
「愛してるわ、クレス」
みんなの言葉は、どれも暖かかった。
ねえ、教えてよ。
なんでみんな、同じ顔をするの?
みんな、笑ってた。
だから、わからないんだ。
どうしてみんな、誰ひとり例外なく、僕が首を跳ねる直前――。
僕に向かって、僕と目を合わせて――。
助けを求める顔したの?