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扉を開けた先は意外にも中庭的な室内境内、パティオと呼ぶにはやや大き過ぎる空間が広がって居り、数百を数える悪魔の軍勢が整列して待ち構えていたのであった。
悪魔達は基本的に人型が殆ど(ほとんど)であったが、数十体の巨体、二足歩行のインド象っぽいヤツや犀らしき奴等まで混ざっている。
距離を置いて『聖女と愉快な仲間たち』と対峙する軍勢の中から一柱の悪魔が前に進み出て大声で叫ぶ。
「神に唾する愚か者達に告ぐ! ここは神聖なるバアル神の神域である! 異教の神と汚らわしい人間風情、低俗な魔王如きが足を踏み入れて良い場所ではない! 立ち去れっ! 否と言うのであれば、貴様らの魂魄(こんぱく)ごと存在を消し去ってくれよう! この私、神の名を与えられた『ハンニバル・バルカ』、バアル神に祝福された雷光が直々に滅びを与えてやろう!」
「ハンニバルって言ったら有名なカルタゴの将軍じゃないの、そっか、それで象さん連れてる訳ね、強敵っぽいわよ! 皆、気を付けるのよ」
コユキの言葉にアスタロトが答えたが、その表情はいつも通り気楽な物であり緊張の欠片(かけら)も含まれてはいなかったのである。
「確かにハンニバルは優秀な将軍であり、現在の奴は強靭な別格の魔王だ、だが、どんな強者であってもいるものだろう? 天敵ってやつが…… 任せちゃおうぜ、アイツの相手はアイツの天敵にさ」
そう言って微笑んだアスタロトはハテナ顔のコユキと善悪に構う事なく言葉を続けた。
「首尾はどうだ? ネヴィラス、サルガタナス?」
アスタロトの背後に音も無く現れる二柱の悪魔、深紅のネヴィラスと薄青のサルガタナスは両手一杯に、見るからに古そうな人骨を抱えていた。
アスタロトの周囲に人骨を丁寧に降ろしながら、ネヴィラスがチラリと視線を向けて言う。
「シヴァか…… 随分弱っている様だな? 今なら簡単に殺せそうだ……」
シヴァが答えて言った。
「おう、いつでも来い! にしても焦げ臭ぇぞ、お前!」
サルガタナスが割って入る。
「お止めなさいな二人とも! ラマシュトゥお久しぶり! あの、その、パズス様も、お会いしたかったですわ」
「ええ、懐かしいわね、サルガタナス」
「…………」
親し気に挨拶を交わすサルガタナスとラマシュトゥの横でパズスは照れ臭そうに頬を人差し指で掻きながらそっぽを向いているだけだった。
コユキがすかさず告げたのであった。
「顔見知りっぽい感じだけど、ここから悪魔同士の甘酸っぱい恋愛ストーリーみたいな展開に行く気なら、アタシは容赦なく爆ざしに行くからね、そのつもりでいてね…… ついでに言えばアタシと善悪とアスタは理解し合ってるんだからね、パーティ内の私闘はそれなりの覚悟を持つこと! オケイ?」
「お、オケイ、です」 ※ネ
「私闘? 戦いに迄なりませんよ、コユキ様、この封印と邪眼の力で――――」 ※シ
「ご心配なくコユキ様、今の所、興味ゼロでございますので……」 ※パ
「爆ざされるんですの?」 ※サ
「うふふふ、どうかしら? 試してごらんなさいな、うふふ」 ※ラ
コユキという暴君に対する認識がはっきり分かれる言葉を発する新旧のメンバーであった。
やり取りを見てから、ニヒルな微笑みを湛えながら、アスタロトは愛するトシ子に通信を試みたのである。
電波も届かない魔界の二層目、ヘルヘイムからどうやって?
心配ご無用、愛し合う二人の『存在の絆』の前ではそんな事、一切関係無いのであった。
アスタロトは黙り込んで何やら頑張っている様子を見せていたが、やや困った感じでコユキに言うのであった。
「あれれ、我が愛する、いいや愛し合っているトシ子、マイハニーと連絡が取れないのだが…… ああ、あれか、ヘルヘイムでは電波とか愛し合う二人の念波、純粋な想いとか真実の愛とか遮断しちゃう的な、な、な? ああいう効果のせいなのかな? そういう事態なんだと思うな! 困ったな、どうしようか? コユキぃ、ピンチ編だな、これは!」
困っているアスタロトに善悪が答えた。
「えっ? 師匠とだったらずっと通信が届いているのでござるよ? クラックに入った頃からずっと! アスタには聞こえないのでござるか? 何でだろう、アスタは本気の本気で師匠を愛しているのでござろ?
どうして? でござる」
止めてやれ…… そう言う事だろうがっ!