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初めて目にした其奴は、儚い美しさを持ちつつも何処か恐ろしさを持ったヤツだった。
口から発する言葉すら誰も彼もを惑わすかの如く美しいもので、俺も今にも其の声に身を委ねてしまいそうだ。
「中也さん」
俺の顔を見てニコリと微笑む顔は何処か腹立つ彼奴を脳裏に浮かばせるが、どうしてか居心地善く感じさせた。彼奴であって彼奴ではない…、何とも不思議な野郎だ
此奴からすれば俺など所詮は王に操られた哀れな吸血種の一人であり、会話を望めない事など明白であるにも関わらず、此奴は飽きずに道中何度も俺に話し掛けてきていた。
――「貴方と太宰君は犬猿の仲と聞きましたが、その様子を見れば本当のようですね」
――「紅茶は好きですか?もし機会があればジャムと一緒に飲んでみてください、ぼくのお気に入りです」
喋り方から考えても独り言ではないのだろう、よく飽きずにやれるものだ。決して正体を教えぬように細心の注意を払いつつも黙って話を聞いていてやると、何とも言えぬ無表情に近かった顔は不意に変わって、ふわりと嬉しそうに
「ぼくの話を聞いてくれているのですか?
ふふ、ありがとうございます」
と吸血種の俺なんかに礼を告げてきた。
分からねェな。矢張り誰もから聡明だの天才だのと謳われる奴ほど、俺のような奴には理解出来ねェような可笑しな行動を普通だと説明するように披露する。
…だが、此奴の嬉しそうな顔と、ありがとうという安い礼の言葉だけで身体が簡単にドクンドクンと鼓動を鳴らしているのも又事実であり、先程の考えとは違う居心地の善い腹立たさがまた俺の中で蠢いていた
 ̄ ̄
ムルソーでの戦いが終わり、一時の休息を身体に教えるように息を吐いた。此方に向かって吹く風を大人しくこの身で受ければ、先程まで血を見ていたからか?風に当たるのは久しいと思った。
今回の戦いで腹立つ太宰も次いでに死んでくれりゃァ良かったが無駄に生命力の高い此奴はまた生き残ったようだ。
「で、中也、魔人さんと行動を共にした感想は?」
「はあ?手前ェに教えて何になるッてんだよ?」
「何時もの私なら君への嫌がらせに…と言いたい所だけどね、今回はただの興味だよ」
…正直に吐く手前ェほど気持ち悪いもんはねェな、と苛立ちを言葉にして、奴とのムルソーでの事を考えた。
「…そうだな、手前ェよりは人間のフリして居やがッたよ」
「ふーん?」
「いや、違ェか…」
他にも彼奴に対して思った感情があった筈だった、だがそれが何なのか、どの様な感情であったのか、答えとなる者は既に居らず、ただ隣で男とよく似た仕草をするヤツが「はぁ?」と眉を顰めた顔で此方を見つめていただけだった。