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注意書
・モブのキショ語り
・黒猫さん出て来ません。匂わされる程度。
・キャプテンビーフがちょっと重いです。
▶︎太宰治の名作をオマージュしました。
オーケーな方はどうぞスクロールを。
「もし、旦那さま。良ければお話を聞いていただけませんか?あぁ、旦那さま!!調度良い所に!!貴方様を求めておりました。旦那さま、良ければ私をあの人の元へと連れて下さいな、いえいえ、もうあの人の場所は知っております。旦那さまに申し上げたって構わない。あぁ、腹が立つ。あの人は酷く惨いです。生かしておけませぬ。旦那さま、どうか…どうかあの人を殺して下さいな。いいえ、私が殺す。私があの人を殺して差し上げるのです。そして私も死ぬ、あの人を殺して私も死ぬのです!!あぁ、なんと素晴らしき結末!!きっと彼らも喜ぶでしょう。あぁ、いえ、はい、すみません、落ち着いて申し上げます。あの人は生かしておいていい存在では御座いません。世の中の仇です。はい、あぁ、勿論で御座います。はい、はい。分かっております。全てをお話致します。全てをお話致しますのでどうかあの人を……。あぁ、はい、承知致しました。全てお話致します。その代わりあの人を殺させて欲しいのです。何せ、あの人は私を裏切った。私を辱めて、虐めて、そして苛んだ。あの人は私の師です。そして主でもあります。いえいえ、そんな、私だけの主だと思いたかった。それなのにあの人は…。あぁすみません、初めからお話致します故……。
先程も言った通り、あの人は私の師でした、そして主でもありました。私があの人と出会ったのははるか昔、この街で行われた大きな催し事でした。あの人はまだお若かった。すらっとしたスタイルにあの人らしい立ち振る舞い、私は全てを奪われた気分でした。然し、その反面、私はあの人がいけ好きませんでした。何せ、あの人はまだデビューしてそれほど経っていなかったのに少し横暴なように感じた。えぇ、それが切っ掛けなのは分かっておりますとも。ただ私の目にはあの人の横暴さは酷く歪んで見えました。まるで造花の様に、わざとらしく…そして興味関心を含まない細められた眼…。私には酷く恐ろしく見えたのです。作り物のようなそれは見るに堪えず作られた横暴さなど面白くも無かった。それでもあの人に着いていくと決めた方々は笑って居られました。それはそれは満足そうに…。ただ、私は…私だけはあの人を好きにはなれなかった。それでも私に光を与えてくださったのです。あの人は催し事に来ていた私を見て柔らかく笑って見せたのです。私は眉をひそめました。驚いたから?腹が立ったから?恋をしたから?いいえ、そのどれもが違います。いいえ、違いません。あぁ、私は何を言っているのか、私の言っていることは出鱈目だ。全て出鱈目なのです。いえ、あの人の言っていることこそが出鱈目だ。なにも信じては行けません。えぇ、あぁ、はい。分かりました、すこし、少し落ち着きますので…しばしお待ちを……。
__あの人は私に言いました。『笑ってられるときが幸せなんだから、無理して笑えとは言わないけど笑える時は笑っとけ。』…と。私は声を上げて泣きたくなりました。えぇ、、私は自分の笑顔が嫌いでした。だからこそあの人の作り物のように美しい細められた眼が厭わしく見えたのでしょう。邪念や煩悩を含まないあの純粋無垢な瞳に嫉妬をしたのだと分かりました。それでもあの人は私に、私だけにそういったのです。私だけの言葉、えぇ。あの人とゆっくりお話出来たのはその一瞬だけでしたが私はすっかりあの人に心酔しておりました。私はその日決めたのです。あの人に全てを捧げ、要らぬものを…否、私の持つ何もかもを捨て、あの人に着いて行くと…。あの人が私にくれた言葉だけを信じて…いえ、あの人の何もかもを信じて生きて参りました。それなのに、あの人は裏切ったのです。私を、この私を裏切った!あぁ、あの人はきっと泣くだろうと思います。私を裏切って、辱めて苛んだあの人は地獄へ落ちるべきだ、いえ、あんな神聖な人は天国へ行くべきだ、いや、あんなに惨い人は地獄へ行くべきだ…あぁ、私は何を言っているんだ。はい、すみません、旦那さま。分って居るのですが…。すみません、すみません。あの人は私に元気を与え続けた。勇気を与え続けた。あの人ならなんだって与えてくれたのです。夢も、希望も、勇気も、元気も、そして笑顔も…。それなのにあの人は禁忌を犯した。私にだけ送った言葉をあの人に媚び売る愚者共にも送ったのです。私は声を荒らげたのを覚えております。『どうしてそんなことを仰るのですか!私は貴方様から貰ったその言葉を胸に生きてきたのに他の方に言ってしまえば価値が下がってしまいます!!』あの人は少しの間驚いておりましたが、軈てそうっと目を細めては私に説いたのです。『価値が下がってもこの言葉で救えるのなら価値を下げてでも届けたい。』と…。私は愕然としました。私にだけの言葉をこうも安売りされるとは、そしてあの人がそう言った時の表情と来たら……!目を細め恍惚とした表情を浮かべ、剰え恋している乙女かの様に頬を赤らめた顔を…。私は何もかもを信じるのを辞めました。それでもあの人の存在だけはまだ信じておりました。何より私はあの人を愛していました。それはそれは純粋な愛の形でした。それでもあの人はそれを受け取ってくださらなかった。希望と未来で爛々と輝く瞳を少し伏せて私の想いを包み込んだのです。その時に私は思いました。あぁ、あの人はもう人間になってしまわれたのだと。何よりも恐れていたことが目の前で起こってしまって私は動揺が隠せませんでした。あの人だけは神聖なままでいて欲しかった。それなのにあの人は愚者共に触れ、愚者共と話しました。その時点であの人はもう穢れていたのです。それでも私は諦めませんでした。あの人をどうか神聖なままで居させるために様々な事をしました。私が愚者共に成りすましてあの人に接近し、あの人がもう下界に降りないように仕向けたり、あの人が愚者共に様々な感情を享受する前に全てを落としてしまおうと、そう思い私は必死に動きました。それでもあの人は気付きませんでした。いえ、気付かなくて良かったのです。私のこの想いだって誰にもわかって貰えなくていいのです。あの人は、私の此の無報酬の、純粋の愛情を、どうして受け取って下さらぬのか。私をもう哀れだと思わなくなってしまったのか?あぁ、旦那さま、あの人のためにも私にあの人を殺させてくださいまし。あの人は私を貶めた、私があの人を支えてきたと言うのに、努力を惜しまなかったと言うのに、あの人は他の人を見た。もう私を眼中に居れなくなったのです。あの人は…あの人は……!!あぁ、すみません、醜いことを口走りました。だけれども、私は寂しく、口惜しいのです。この胸を掻き裂ける程には口惜しいのです。なんの事だか全く分かりませんでした。ですが、貴方様は分かるはずです。えぇ、私たちはあの人を愛しているのです。嫉妬とは、なんてやりきれない悪徳なのでしょうか…。旦那さま、貴方様はもう知って居られるのですよね?その気持ちを…。貴方様はあの人の為に何を捨てましたか?私は家族、故郷、家、そして希望を葬り去りあの人に付いて行きました。無論、その道中に様々な事があったのは変わりありません。貴方様に出会ったりだとかそれはそれは様々ありましたとも。否、貴方様_殿方に出会ってしまったのです。貴方様方に出会ってからあの人はお変わりになった!!!貴方様方のせいで、!!!貴方様だって私を好ましく思って居られませんでしょう?分かりますよ、その気持ちを顕にした表情。それを見てもなお幸せだと感じ取る人は居ないでしょうね。けれども私も貴方様を好ましく思っておりません。兎や角言ってもはあの人に捨てられ今はもう行く宛もなく彷徨って居るのですが…。だがあの人は貴方様を特別に想っている!!だからこそ、あの人を殺し、そして私も死ぬ…なんてビジョンを思い描いておりました……。けれど、もうどれもこれもどうでもよかったのです。あの人きっと私を覚えていない。いえ、覚えて居なくていいのです。私の存在なぞ覚えて置かなくても…。その方があの人は綺麗に居られる。美しく、そして儚く……、何より神聖で居られるのですから。あぁ、旦那さまのその表情と来たら……!あの人が神聖な存在だと……お分かりなのですね?矢張りそうだ!!そうに違いありません!!旦那さま__牛沢様はあの人を__キヨ様を愛して居られるのですね。さぁ、私も同じ気持ちで御座いますとも……。ですから、ほら……あの人を私の手で殺させてください。私たちは……未来永劫あの人を愛している。」
一頻り話したと思えば後ろからサイレンの音が。きっとこの付近の誰かが通報したのだろう。牛沢は狂信者を押さえ付け警察の迎えを待った。
警察が辿り付けば大人しく身柄を引渡し踵を返す。まだ後ろで何か言っている気もするが彼は聞く耳なんぞ持たなかった。
「お前に分かられるほど純粋で透き通った恋してねぇのよ。」
嫌味ったらしく吐き出した言葉はパトカーのエンジン音に阻まれ響くことは無かったが今こそは有難いと思える。そのまま彼は愛しい人の元へと向かう。
「キヨ。」
優しく呼べば優しく振り返り笑みを零す”あの人”を腕の中に閉じ込めた。あの狂信者がどう思おうと、どう殺そうとしても関係無い。だって”あの人”は俺の者なのだから___。