マズイ。非常にまずい状態だ。人生においていくつもの選択そして結果が待ち受けている。今回はその中でも非常に不味い状況下に陥ってる。
「クッソ!」
札屋ヒナキは、生まれつき霊感がある。シックスセンスや第六感とも呼ばれる類のものだ。大抵の人からは理解されず、笑われ時には馬鹿にしてくる者もいた。そんな奴らにこの風景を見せてやりたい。今まさに、 髪の長い女に追いかけられている。ボロボロの白い着物が血によって赤く染まり、ひと目見ただけでも嫌悪感を抱く。そんなものが見えていなければ、どれだけ幸せなのだろうかと常に考えてしまう。いつもこうだ。不幸や災難に巻き込まれてしまう。見えてしまってるだけでどうしようも出来ないのだ。祓う能力や従える力も無い。有るのは、自分に対しての劣等感だけ。それだけだ。
「近づくな!祓われても良いよかよ?」
「蜉ゥ縺代※縺上l���シ繧��シ�」
ハッタリを噛ませてみせるも、有効では無い。話の通じない系統の霊は非常に厄介となる。こんな時のために、バックに忍ばせてある塩を取り出す。こいつを掛ければある程度、霊力が弱まったり、身動きを封じることが出来るからだ。
「いいのかよ?!あ?どうなんだよ!」
「譌ゥ縺上√d縺」縺ヲ縺上l」
憎たらしい態度を取る霊、目掛けて塩をありったけぶちまける。稼げた時間で逃げ切ろうという作戦だ。これ以上打つ手がないのが現状なのだか。
「…縺昴l縺�縺代°」
しかし塩を浴びても尚、じわじわとこちらに近づいてくる女性の霊。効き目がないと言うより、怨恨が強いあまり霊力が強く、塩を掛けるだけでは対した効果は無い。
「クソッ!!」
こんな時、有効なのは神社に駆け込む事だ。ぶっちゃけそれ以外対処のしようがない。この辺の地形をこんな時の為に頭に叩き込んでおいたのだが、周辺には神社なんて存在しない。ここから最短でも1.5キロある。こんなやつと1.5キロも鬼ごっこできないし、体力もない。かと言って追いつかれれば何されるか分からない。今まで何回も、取り憑かれたことがある。取り憑かれた際の身体の所有権は霊サイドになる。身体の主導権を取り戻した際、何度死にかけたか。入水自殺しかけたり、首を吊ったこともある。首を吊った時は本当に死を覚悟した。ロープが切れなければ多分死んでいただろう。
「ダメだ!追いつかれる!」
走馬灯なのだろうか。今までの嫌なことが一気に頭によぎった。普通に生きたかった、ただそれだけなのに。今まさに真逆の状態である。誰を恨むべきなのだろうか?自分なのだろうか?心霊たちなのだろうか?はたまた、誰も理解してくれない世界なのだろうか?こうして自分も同じ怨恨を残し、霊となってしまうのだろか?
「…ッ!!!ヤベェ!!」
足が絡まり盛大に転んだ。終わった、分かるのだ。この霊はマジでヤバいと、頭の中で警鐘がなり続けている。今度こそ身体を奪われ死ぬ。負のオーラを纏った者が自分の身体を奪おうとする。
「なんでなんだよ!!俺がそんな憎いのかよ!!」
「…」
「俺の人生クソすぎんだろ!!誰か助けて」
最後に出た言葉は、生きたいからなのか?はたまた、自分の人生そのものを助けて欲しいのか。泣きそうで今にも消えそうなか細い声でつむぎ出した。
「わかった。私に任せて〜」
「隱ー縺�」
「君、流石にヤバいね!そんなに何を恨んでるか分からないけど成仏しなさいや〜」
そう言って突然前に現れたのは、高身長の全身黒色の服を来ている男性が女性の霊に話しかける。なんとも声の調子は、気が抜けるような今までの緊迫した空気を壊すものだ。
「この世に、何一つ残らないように消すから〜」
そう言って男が、霊に向かって手を伸ばす。すると淡い光が手の中から溢れ出し、それを霊めがけて解き放つ。その光に霊が包まれ苦しそうにもがき続ける。
「縺�o縺√�」
「さっさとあの世に行ってら〜っても君は地獄かな?」
最後の最後まで口調を変えない男性が霊に言葉をなげかけた。酷く場違いな感じではあるが、この男に命を救われたことには変わりない。
「お〜い!君?大丈夫かい〜」
「…あっ!」
「恐怖で腰抜けちゃった感じ〜?」
「あっ、い、いえ!」
いつの間にか頬に伝っていた涙を強引に拭き、対話を何とか成立させる。お礼を伝えなければいけない。今まで、助けを求めても救って貰えなかった。しかし今は違う。自分の声を聞き、助けを施されたのだ。
「あ、ありがとうございました!!」
心からの本音だ。救ってくれた。藁にもすがる思いで、出した声に応えてくれたのだ。ヒーローそのものではないか。助けの声を聞き、駆けつけるそんなヒーローで
「いや、感謝されるほどでもないよ〜」
声の調子を変えずに、尻もちをついてる自分に手を差し伸べてくれる。「早く立て」と言ってるようでもある。手を引いてもらい何とか立つことが出来た。まだ足は恐怖と痛みで震えているのだが
「最高に今のキマってたよね〜?かっこよかったっしょ〜」
「はぁぁ…」
「っても、さっきのはどうしようもないよ。私くらい強くないと、あんなに手っ取り早く祓えないさ〜」
「あれ、そんなに強い霊だったんですか?」
尚も軽々しい口調で応える男に、疑問をぶつける。確かに怨恨の塊ではあったが、どれほど邪悪なものなのか判断はつかなかった。
「私以外の人が祓おうとするなら、予め用意した場所に誘い込んで、神主5、6人がかりで封印できるか否かって感じかな〜?大量の御札とお酒、あと高度な封印の書がいるね〜。どれも即興じゃ、用意できない代物だから、私が居なかったらやばかったかも〜。」
つまり、ほんとに死にかけたというとこだ。感謝しかない。命の恩人でもあるこの人に、なにか返したくて、でも何も持っていなくて。そんな感情が渦をまく。
「…君もしかして、札屋ヒナキ君〜?」
その女は、自分の名前をまたしても軽い口調で、言い当てたのだ。
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