テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
sasada
123
sasada
830
もみじ@数学抹殺委員会
68
#ご本人様には関係ありません
紫蘭
979
第1話 此処は何処
朝。
スマホのアラームが枕元で鳴り響く。
親の都合で転校してから、数ヶ月。
季節はもう夏へと変わる。
「今日も学校か…」
クラスで話せる相手はできた。
休み時間に一人
というわけでもない。
でも、それだけだ。
みんなには、小学校の頃から積み重ねてきた時間がある。しょうもない話で笑い合って、放課後は約束をして帰っていく。
その輪の中へ入ろうとは思わない。
……いや、入れないだけなのかもしれないが。
「……ま、考えても仕方ないかー」
そう自分に言い、勢いをつけてベッドから起き上がる。
いつも通り制服に着替え、
いつも通り用意された朝ごはんを食べる。
机の上には[温めて食べてね!いってらっしゃい]と書かれた付箋が貼ってある。
母親は朝早く家を出て、帰りも遅い。顔を合わせることはほとんどない。
「いってきまーす」
……なんて、誰もいない家に向かって声を掛けるのも、もう慣れた。
返事が返ってくることはほぼない。
父親は僕が小さい時から単身赴任中。
年に一回会うこともない。
遊んだ記憶も話した記憶もほとんどない。
母親も仕事が忙しい。
仕方ないことだと分かっているし、僕のために働いてくれているということも分かっている。
今更寂しいだなんて思う年齢でもない。
それでも、朝の静かな家を出るたびに、胸のどこかが少しだけ空っぽになる気がした。
玄関の鍵を閉め、見慣れ始めた町を歩く。
「もう夏か……。」
季節だけは、誰を待つこともなく進んでいくんだなぁ。
そんなことを思いながら腕時計を見る。
学校まで、まだあと三十分以上ある。
「散歩するか…」
僕はこの辺りを歩いてみることにした。
思い返せば、引っ越しをするとだけ母親に言われ、この町のことはほとんど知らない。
ただ一つ知っていると言えば、歴史的に有名な場所がいくつかある……ということくらい。
とくに歴史に詳しいというわけでもないが、担任が今度授業でもまわる と言っていたような気がする。
ふらふらと町を歩いているうちに、辺りに家は見えなくなっていた。
「やべ、遠くまで来すぎたか?」
そう呟きながらふと、横を見ると、見慣れない石段があることに気が付いた。
この辺はもともと家が多い地域ではない。
人が住んでいるとは思えない家も多い。
でも、こんな石段は見たことがなかった。
僕は好奇心に抗えず、その先に吸い込まれるかのように石段を登った。
「神社…?ここも有名なやつなのか?」
石段を登った先に見えたのは、鬱蒼とした木々に囲まれた、随分と古びた鳥居と、その奥に見える本殿。
木漏れ日が差し込む境内は、不思議なくらい静かだった。
風が吹く。
葉が揺れる。
その音だけが、波のように辺りへ広がっていく。
僕はどこか不思議な魅力を感じ、この神社から目を逸らすことが出来なかった。
まだ学校まで少し時間がある。
少し覗くだけなら──
そう思い、手前できちんと一礼をしてから鳥居へ一歩足を進める。
その瞬間、急に感じた眩しい光に思わず目を閉じる。
葉を揺らす強い風が吹き抜けた。
「……っ」
ゆっくりと目を開ける。
目の前には、さっきまでと変わらない森。
「……?」
なんだろう。
少しだけ空気が違う気がする。
鳥の鳴き声が、やけに近く聞こえる。
風の匂いも、さっきより濃い気がした。
「気のせいか……」
そう呟いて、また一歩踏み出す。
「せっかくこんなとこまで来たんだし」
二礼、二拍手、一礼。
何をお願いしたかは、自分でもよく分からない。ただ、 この生活が少しでも変わればいい。 そんなことを思っていた。
参拝を終え、踵を返す。
「こんな所あったんだな……。意外と雰囲気いいじゃん」
そう言いながら、きょろきょろと神社を見渡していた顔を上げると、
「……は?」
鳥居はある。
でも、その先にあるはずの石段がない。
住宅街もない。
通ってきた舗装された道も。
電柱も。
目に映るのは、どこまでも続くあの鬱蒼とした深い森だけだった。
「…ここ……どこだ……?」
コメント
1件
うわ、これ転移ものの始まり方としては鉄板だけど、めちゃくちゃ丁寧に心情描かれてる…。主人公の「誰もいない家に『いってきます』って言っちゃう」感、すごく分かる。あと「季節だけは誰を待つこともなく進む」って一文がめっちゃ刺さった。これ、ただの異世界転移じゃなくて、孤独な少年の心の隙間を描いてるからこそ、この後の展開に期待しちゃうなあ。続き、どうなるんだろう…。