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弾丸論破

1 - 王最王ケーキバース

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2023年10月11日

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新弾丸論破V3【腐】王最王

ケーキ歳上王  フォーク歳下最






【フォークの形は異様だ。あの三本の針で人を刺し殺せる。依って、この世にフォークは要らないと考える。】

意味が分からないこの考えに賛同する人間は多かった。

この考えが生まれたのはある事件がきっかけだ。フォークがケーキを食い殺すという猟奇的な殺人だった。

『意図せずとはいえ、殺人には変わりない』

被害者は男性で、フォークが女という身体的な差があると言うのに食い殺された。加害者が殺人後にこう述べた。

『フォークになんて生まれたくなかったのに』

この後悔に共感するフォークは多かった。その後、フォークの集団自殺が起こった。五十人程度だ。彼らは自分達で最期の晩餐会が開いたようだが、食物には殆ど口を付けていなかった。一口二口齧ったような跡があり、味を感じられなかった事で絶望したのではないかと推測されている。


その事件から三年が経った。世間が混沌に塗れていた。

三年間。千九十五日。

何も変わらなかった。

一般人はフォークを疎み、ケーキは保護され、フォークは自殺した。

フォークの自殺後、ケーキの後追い自殺も多かった。

何万人のフォークが死んだかも分からないし、フォークを守ろうとした政治家の消息も分からない。

しかし、フォークもケーキも先天的なもので、遺伝は関係無く、例え一般人同士の子だとしてもフォークが産まれる可能性もある。そういう時、人は嘆き悲しみ、子はマトモに生きられずに自殺する可能性が限りなく百に近いとされる。ケーキであれば、まだ生きられたかもしれない。



僕はフォークだ。

思い込みで味を作っていた。

「やっぱり無理みたいだ」

味覚の中で一番感じやすいのは苦味だ。真っ黒な珈琲を然許り口に含んだとて、無味が無変なのは何時だって其うだった。

「ちょっと貸して。……え、無味無臭だよ!すっげー不味い!うげぇ、これを飲める最原ちゃんの神経を疑うね!」

ブラックジョークが過ぎている。けれど、僕がこれくらい言われた方が救われる事を分かっているのだろう、少し嬉しかった。

「無味無臭なら不味いなんて感じる事は無いし、そもそも僕が味を分からない事は知ってるよね」

「あれー?そうだったっけ?」

「そうだよ」

にしし、と、歯を見せて、はにかみを工夫して笑っている。先刻コンビニで買ってきた百八十円のアイス珈琲はもう必要が無くなった。落としてしまった…フリをしてアスファルトに零す。薄暗い小路であるから誰にも気付かないし、誰も気付けない。

…腹立たしいなんて、言ってやるものか。

「どうしたの、最原ちゃん。」

「邪魔かな、なんて」

「……あぁ、成程」

大きくて丸い瞳を細める彼はいつもより大人っぽく色っぽく見えた。元来顔が整っているから、巷の女性が見たら所謂イチコロだったのだと思う。

しかし申し訳ないが、それを見たのは男だし、その男は彼と恋人間にある。それが嗜好という人間も居るには居るだろうが、それも僕がフォークだと知ったら早く殺せと豹変して喚くのだろうに。

「なら、バレる前に早く移動しなきゃね?」

「そうだね。……ほら、行こうか」

「何言ってるのさ。俺が言う側でしょ?」

「……うん。そうだね。」

「あ!今子ども扱いしたね!?」

ぶーぶーと喚き散らしているのが彼らしいな、なんて思った。でも、……もしかしたら、……やっぱり、……それも嘘なんだろう。何故だか頬が濡れていた。よく分からない。前に立つ彼を見る。露骨に目を逸らす彼を見て、何だか呆然とした気持になった。それに気付いたからなのか、不意に彼は奥の景色を一層逆撫でする様に指差した。

「ほら、見てみなよ。あんまり温かい風は吹いてないくせに桜が舞ってる。皮肉だね。春が終わったら、桜の命の花弁が消えるんだよ。そしたら、桜蕊も落ちてオレに相応しい赤い絨毯が出来るよ。……その時、最原ちゃんはオレの横に立ってくれる?」

「……状況に因るよ」

「そっかあ」

桜蕊が落ちた様子は嫌いだ。自分には赤い絨毯を踏む資格何て無いのだから、つい絨毯を避けて歩いてしまう。早く赤さから逃げたいが剰りに、早足になる。

「王馬くん、キミってきっとロマンチストだ」

「当たり前でしょ。夢はでっかく持たなきゃ。」

「将来の夢は?」

「また子ども扱いした!もうとっくに社会人だって!」

下から見詰めてくるのが可愛いな、なんて感想を抱いてなんかいない。彼の冷ややかな視線が僕の熱を冷ます。惚けた様に口が少し開いた。そういえば、下唇には赤が似合うと思うが、口紅より嫌いな物は無い。

反骨精神を持っているから。

だとしても、きっと彼は口紅の紅が似合う筈だ。僕を噛んだ時、鮮血が白い肌によく映えた。

まあ、似合ったところで、どうにもならないし。

目配せをする。応じるように彼は歩を進めた。それはまるで歌を跳躍させるみたいに、剰りにも大きな龍が風に身を任せた後力強く波打つ様に、堂々と、飄々と、韜晦をかき混ぜたみたいな、そんな感じだった。どうしてか、彼の嘘を、全てを、包容したくなる。

まさか、惚れた弱みだなんて言ってやるものか!

「ねぇ、何を見てるの」

「え?キミの方だろ」

「そういう事じゃないよ。オレの事で頭がいっぱいって顔じゃなかった!」

「いっつもそんな状態でなんか居られないよ……」

「いーや!オレはいっつも最原ちゃんの事でいっぱいなんだよ!オレの言う事にいちいち顔を赤らめて、顔を隠すのが好きだよ。面倒なオレを構ってくれるのが好き。オレを愛してくれるのが好―――」

「ま、待って!」

「……何?」

頭の中でまとまっていない事を口に出すと、意味が分からなくなってしまいがちだ。

「だから、あの、えっと、僕らってそういう関係、あそういう関係か、いやだとしてもこれは、流石に、不意が過ぎる、っていうか」

「オレはずっとこう思ってる」

嘘つきの彼がアイデンティティをフィルタに掛けず、そのままを伝えている。恍惚と情欲を露わにした姿が愛らしかった。

「……分かったから、もう何も言わないでくれ」

「分かってくれたらいいんだよ」

ふっと溜息を吐いた彼に王冠が被さっているのが半透明に見えた。

ああ、と低音が聞えた後、彼は何かを言いたげにしていた。やたらと目が合うし、その度に微笑を張り付けた。別に構わないから、指図するでもなく顎で促した。声はスカーフ越しで、くぐもっていた。敢えてそうしているのかとさえ思った。

「今日は帰さないよー!」

それは隠語みたいなものである。






「だからさ、最原ちゃんの身体を思っての提案なんだけど…」

オレにメリットは無い事が承知の上でこんな提案をして来るのだから、訝しげにならずには居られないのだろう。

「でも、王馬さんがそういう趣味なのかもしれないじゃないですか」

「生憎、オレは至ってノーマルだよ。キミの為になるかと思ったんだけどね」

う、と言葉を詰まらせた。押しに弱そうだ。反論さえもねじ伏せたら簡単に勝てそうである。

「でも、さすがにそういうのは…」

経験が無いのだろう、憐れ怯えた目で此方を見ている。「そこでだよ、最原ちゃん。ケーキの体液で味を感じる、っていう実証が有るのは知ってるよね?」

知る筈も無いだろう、国家機密なのだから。相も変わらず目を白黒させている。薄ら笑みを貼り付けた。

「そんなの、王馬さんの、嘘かもしれないです。王馬さんは、嘘つきなんですから」

そんな事知っているが、面と向かって言われるとは思いもしなかった。衝撃で目を白黒させてしまう。やはり面白いな、とつくづく感じる。

「さぁ、どうだろうね?…冗談だよ、睨まないで。これは本当だよ、オレの仕事は知ってる?」

「貴方自身が言った、…探偵、と、何かの組織のリーダーって事だけは知ってます」

「うんうん、その二つが出来るだけで国家機密何て簡単に知れるね」

「…国家機密!?」

一拍遅れて反応したのは反芻したからであろう。彼にもこんな一面があったのだとよく覚えておく事にする。

「まあ、そこら辺はいいさ。重要なのは事実であり、真実だよ。オレが言った事に依って、何か分かったかな?」

大きな期待で重圧をかける。長駆のくせに猫背なものだから、さらに小さく身を縮こませていた。仕方がない、脱兎の如く逃がしてあげた。

「…実はこれ、オレが試した事だよ。国家機密なんかじゃない。まあ、あんなものその気になったらいつ何時でもバラ撒けるけどね!」

「尚更、信憑性が薄くなったんじゃないんですか」

「あ、敬語は堅苦しいから辞めようよ。悲しいな!」

顔を引き攣らせて漸く敬語を外してくれた。

「できたら、王馬くんって呼んでくれると嬉しいよ」

「…そういう趣味、やっぱりあるんじゃないの」

「お願いだよー!あとオレはちゃんと男だし女の子のが好きだよ!」

「王馬くんは変な趣味を持ってるんだね」

「変人扱いを辞める気は無いんだ…」

そもそも、味を我慢すれば良いのにこの話に乗ってくる最原ちゃんも相当ではないか。否、此方が優しくないだけなのだけれど。

「でもさ、オレそこまで優しくないからさ」

ごく、と彼が唾を飲む。そうか、味の無いものをよくあれ程美味しそうに嚥下出来るな、と素直に尊敬した。

「飲精、って形でどう?」

「は?」

呆気に取られた表情もまた面白かった。手元にスマートフォンなんか有れば、隠し撮って額縁に入れて一生の恥にしてあげたのに、全く残念だ。

「だからさー、オレも痛いのは嫌な訳ね。皮膚とかそれこそ再生遅いし、くっそ痛てぇ訳じゃん?それなら痛くない体液を出す方法とか、それこそ唾液とか精液とかしか無いでしょ。んでもって唾液は量が少ないよね。ならいっぱい精液出しちゃえば良いじゃん!って話」

「でも、つまり、貴方の」

飲精なんて言葉が悪かったのだろうか。どうせなら揶揄ってやろう、悪徳な笑みを浮かべる。

「いや咥えるとかそんなんじゃないけど。あれ、っていうか最原ちゃんこんな言葉知ってた訳?あれれ?」

「いや、ちがっ、」

もうちょっと上手く嘘を吐けないのか。

「オレが精液出してそれを最原ちゃんにあげる感じでいいかな?放課後うちおいでよ、器とかに入れてあげるから」

「っ………うん」

こうして最原ちゃんが週一うちに来るようになった。


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