テラーノベル
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サスケと付き合った。
新学期が始まった辺りに。夏休み中、他のヤツらに茶化されて、大して面白くもない恋バナに付け回されて、「ぜってー両思いだろ」なんて根拠のない言葉に浮かれて、学校が始まったらすぐ告白した。
それで、「好きだ」と言った後すぐ気がついた。オレってば、暑くて頭おかしくなったんじゃねーのかな、って。
自分の奇行に気がついた後のあの冷や汗は尋常じゃなくて、目の前で黙りこくるコイツにどう説明したらいいのか頭がすげー混乱した。
放課後の教室。校庭から響く部活の声援が、やけに大きく聞こえる。
あ、そうだ。「嘘です。ドッキリ」と、いつものようにヘラヘラ笑えば良い。そう思って口を開いたオレより先に、サスケが返事した。
「いいぜ……付き合っても……」
そう返事をした後、サスケはすぐに顔を逸らした。白い肌に、汗が微かに光っている。
耳も赤いし、熱あるんじゃねーのか?
「お、お前……マジ?」
オレはなんだかびっくりして、サスケに指を向けた。だってサスケが、オレの告白にOK?
「オレは別に、その……ほ、本気……だ」
「まじ……」
と、つい口から溢れた。
まじ?
サスケの視線が泳いでる。嘘には見えない。
まじ、なのか……
オレがあまりにも呆然としているからか、サスケが睨んでくる。
「そういうお前は、嘘なのかよ」
「ち、ちげーってばよ! マジ、オレも本気!!」
オレが必死に弁解すると、サスケは鼻を鳴らした。
「……なら、明日から恋人、な」
そう言って、黒い瞳を微かに細めながら小指を立てる。そのじんわりと赤く染った頬に見とれながらオレが相槌を打つと、サスケはすぐに教室から出ていってしまった。
「ま、マジか……」
と、一人残された教室で呟く。
オレはサスケと付き合った。
それからはフツーに、フツーの恋人らしくいた。
同級生たちにはあくまで内緒で――というか、内緒にしろ、バラしたら殺すだとかサスケがうるさいから――、下校する時は大体同じ。
放課後や休日にデートして、帰りはいつものラーメン屋に落ち着く。ただ、付き合う前に遊んでいるのと感覚はあまり変わってない。サスケの黒ずんだ瞳が、何を思っているのかも分からない。
なんでオレなんかと付き合ったのか、どうしてオレなんかを好きになったのか。そんなこと聞けないまま時間だけが過ぎてく。
付き合ってから二ヶ月の頃には、初めてのキスもした。
サスケは意外にも口付けの仕方は上手かった。こう、なんていうの? 唇同士が上手く噛み合うように近づけてくる。だけど、長いキスは息を上手く吸えないのかすぐに酸欠で顔が赤くなった。それを指摘するとこっぴどく怒られたから、もう何も言わないってばよ。
その後は特に何も進展はなく、普通に年が明けた。
「なぁ、フツー付き合ってどんくらいですんの?」
冬の風が寒い窓際で、いつもみたいに弁当を広げてそう言った。サスケは、日直の仕事でちょうどいない。
「はぁ? お前カノジョできたのかよ? まさかと思うけど、サスケか?」
と、シカマルが言う。
「ち、ちげーってば。ただ、その……気になった、みたいな?」
そう言ってオレが誤魔化す。でも、シカマルはまだ疑いの目を向けていた。
「で! どうなんだってばよ? どれくらいでするのか!!」
何か鎌をかけられる前にオレが叫ぶ。
「んなの知らねーけど……半年、いや三ヶ月? まぁ、人によるんじゃねーの」
「三ヶ月……」
あれ? オレってば、サスケと付き合って何ヶ月だ?
夏休み明けからで……もうすぐ半年!?
「やっぱそんくらいにはするもん……?」
「知らねーけど、ゴムの準備はしとけよ」
「わ、分かったってばよ……」
夕暮れ時。
いつもの道をサスケと一緒に歩いてる。
サスケの低い声が、全部頭をスラスラ抜けていく。
「……おい、話聞いてんのか」
「えあ!? 聞いてる! 聞いてるけど!!」
オレがそう言うと、サスケはいつもより不機嫌な顔で黙った。
「な、なぁ……サスケ」
「なんだよ」
ぶっきらぼうな返事だった。
どうしよう。誘うなら今? んなのわかんねーってばよ!! カカシ先生から恋愛小説でも借りれば良かった!!
「あー、いや、お前が嫌なら別にいーけど……」
オレがそうモゴモゴ言ってると、サスケが眉間に皺を寄せた。
その視線全てがいつもより気になって、体中暑くて頭が真っ白になる。
「さ、サスケと、セックスしてぇなー、って……」
最後の方は声が上擦った。
オレの言葉を聞くとサスケは目線をグルグルして、最後は地面に落ちる影へ向ける。
そして、首に手を当てて口を開いた。
「……そういえば昨日兄さんが――」
は!? ちょ、待ってってば!!
完全にスルーされた?
絶対キモがられたんじゃね? あの沈黙なんだよ!!
そこからはもう何も覚えてない。サスケの兄ちゃんが何をしたのかも、何も覚えてなかった。
「断られた」
翌日の休み時間。オレはシカマルの机に座りながら言う。
「何をだよ」
頬杖を付いて、面倒くさそうにシカマルが聞いた。
「お誘い」
「サスケか?」
シカマルは面白そうに口角を上げる。
オレはヤケになって頷く。付き合ってるのは内緒、なんてサスケからの口止めはすっかり忘れてた。
「へー、そうかよそうかよ」
シカマルはそれっきり何も言わなくなった。
それから何事もなく二週間が過ぎた。サスケは、オレからの誘いなんか忘れたような素振りでいる。
またいつもの帰り道。
「お前、今日暇かよ?」
と、思い出したかのようにサスケが聞く。
「え、あー暇暇。ラーメン行く?」
「いや……」
サスケはそう相槌を打ってからしばらく黙る。
何考えてんだ、コイツ。
「じゃあ家来こいよ。誰もいねーし」
顎に指を添えたままサスケが言った。
サスケの家か。久しぶりだな――って!! 誰もいないって言った!?!?
サスケの家行くのなんてめちゃくちゃレアだし、家に誰もいないって、それって誘われてんのか!?
「え、あ、い……行く行く……」
混乱を抑えながら返事する。
お、落ち着けオレ……家に行くって言ったって、サスケにその気があるなんて分かんねーだろ?
だからとりあえず……あー、どうせ勉強とか、サスケの家の漫画とか漁ったりして、ゲームとか少しやったりすんだろうな、って……
うん、だから期待すんなってばよ。
「ふ、ちゃんと準備しとけよ……」
サスケの黒い瞳が細くなる。笑ってるようにも、控えめに伏せているようにも見えるその目と言葉に、頭がますます熱くなった。
「え!? じゅ、準備……?」
オレが馬鹿みたいに食いついて聞くと、サスケは周囲を見渡す。そして誰もいないのを確認してから、胸の前で人差し指と親指で円を作ってから、もう片方の人差し指をそこにゆっくりと挿入した。
そのジェスチャー、何度も見たことある。
教室でも、本の中でも、何度も何度も。
それって、オレの知ってる意味で合ってるのか!?
オレが放心状態でいるから、サスケはため息をつく。オレの理解力が足りてないと思ったのか、一度咳払いをしてから口パクまでした。
『せ』、『く』、『す』。
確かにサスケの薄い唇が、そう形作った。
「ま、まじ、で……?」
その唇に釘付けになったまま、オレは聞いた。サスケは返事をする代わりにオレの手を掴む。
「ボケボケすんな、行くぞ……」
そう言ってサスケはオレを引っ張って歩いた。
微かに髪の毛の隙間から覗く耳が赤くなっている。オレとサスケの手の間に、じんわりと汗が滲む感覚がした。
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