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「おじゃましまーすっ!」
「おい、こさめ! 靴は揃えろって何回言った! ……っと、差し入れな」
「らんらん、ありがとう」
退院して数日、静かな午後。
みことの暮らす部屋――いや、“すちの部屋”――には、にぎやかな訪問者たちの声が響いていた。
「みこと~! ごはん、ちゃんと食べてる~?」
「なつ、勝手に冷蔵庫開けんなって……! お前、どこでくつろいでんだよ」
「俺の家なんだが……」
すちは苦笑しながらも、仲間たちの気遣いにどこか安心していた。
「みこちゃん、調子はどう?」
こさめが隣にちょこんと座り、笑顔で尋ねる。
「うん……だいぶ良くなってきた。みんなのおかげだよ」
「そういう時は、“すちのおかげ”って言うんだよ~」
「こら」
こさめはケラケラ笑い、らんは後ろからその頭をぽんっと優しく叩いた。
「お前、そういうとこ天然なんだからな、みこと」
「……え?」
「わかってないかもだけど、すちの手前、それ以上無防備な顔すんな。……殺気すげーから」
ちら、とみことがすちを見ると、彼は表情を保ちつつ、カップを拭く手が一瞬止まっていた。
「……いや、してないよ」
「嘘つけ」
そんなやりとりをしていると、いるまが床に座り、すっかりひまなつを膝枕していた。
「なつ、寝るなら家で寝ろよ」
「え~、ここがいちばん楽~……あといるまが近いから安心~……」
「お前なあ……っ」
ひまなつが目を細めてのぞき込むと、いるまは途端に顔を逸らす。
「……あの時、お前が無事じゃなかったら、俺……絶対、壊れてたわ」
ひまなつのまぶたが少し揺れる。
「じゃあ俺、なるべく無事でいるね。……いるまの隣で、ずっと」
その瞬間、沈黙。
こさめとみことが目を丸くし、すちは「へぇ」と少し目を細めた。
いるまは何か言いかけたが、結局何も言わず、ひまなつの頭を撫でるだけだった。
「……こさめ、来い」
「え? な、なになにらんくん~」
「こっち」
ぐいっと手を引かれ、バルコニーに連れ出されたこさめは、戸惑いながら見上げる。
「……あん時、お前が泣きそうな顔してたの、ずっと覚えてんだ」
「……らんくん」
「俺が全部守るから。……だから、お前は、俺のことだけ見てろ」
こさめの頬がみるみる赤く染まり、うなずくと、嬉しそうにらんの胸に顔を埋めた。
リビングでは、すちがブランケットをかけ直してくれているところだった。
「ほんと、みんなすごいな……」
みことは小声で呟いた。
「何が」
「……ちゃんと“気持ち”伝えられて。俺なんか、まだ全然……」
「じゃあ、練習しとく?」
「えっ」
「“好きです”って言う練習。ほら、声に出して」
「い、いや、それはちょっと……!?」
「嘘だよ。……でも」
ふっと、すちの声がやわらかくなる。
「焦らなくていいからね」
そう言って、そっと手を重ねた。
みことは少し照れた顔をして――
でも、その手をそっと握り返した。
こうして、6人の関係はまたひとつ、深く結ばれていく。
それぞれが痛みを知り、守りたいものを見つけた。
この日々が、続いていくことを祈るように。
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