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(……来ると思ってた。)
仲間のなかでも、最も近い存在だった。
何も語らなくても、意思は通じた。
己の過去を、最も知っている存在だった。
「……六連島。」
静かに、しかし凛とした声で名を呼ぶ。
その瞬間、六連島灯台の目が彼に向いた。
『オマエハ ダレダ』
聞いたことのないような、機械のような声。
けれど、部埼はたしかに感じた。
その奥に――かすかに揺れている、本当の声を。
「俺は……お前の“灯”を思い出しに来た。」
部埼は、胸元の懐中時計を取り出す。
静かに、音を刻むその時計。
六連島と共に拾い、共に磨き、時を合わせていた物。
『トキハ モウ カンケイナイ』
六連島の灯が、赤く瞬く。
その光が、周囲を焼くように広がる。
だが部埼は動かない。
「そうだな。時間に意味はない。だけど、あの時のお前は、いつも俺にこう言ってた――」
“お前は振り返りすぎだ”
“時間なんかに縛られるな”
“前だけ見ろ”
「だから今は、俺が言う番だ。」
強く、はっきりとした声で、叫ぶ。
「――帰ってこい、六連島!」
その声に応えるように、逆光の空間が震える。
六連島の赤い灯が、一瞬だけ、揺らいだ。
その揺らぎの中から、かすかに“笑み”が見えた。
部埼にしかわからない、仲間の表情。
『……おせぇよ』
風のような声が、霧に混ざって消えた。
次の瞬間、六連島の黒い外殻が砕け、
光の粒がはらはらと舞い、空へ昇っていった。
沈黙の中、部埼は静かに時計を見下ろす。
「時間は……動いてる。」
その目に、確かな決意の光が宿っていた。
「……すごいよ、部埼さん。」
特牛が、ぽつりと呟いた。
「全然、無愛想なのに……ちゃんと、伝えてるんだね。」
「見た目と中身は、違うってことだな。」
角島が微笑み、観音埼も腕を組んで頷く。
「やっぱりカッコいいじゃん、部埼さん!」
部埼はいつものように、何も言わない。
ただ、懐中時計の秒針が静かに進むのを見つめていた。
残された名前は、あと三つ。
烏帽子島
剱埼
石廊崎
それぞれの名前が、再び空に浮かび上がる。
「待ってろ。俺たちが、連れ戻す。」
部埼の声に、仲間たちはうなずいた。
次の“光”は、烏帽子島を示していた――
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