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「先天性疾患というのは、どんな病気なんです?」
リーゼロッテの素朴な疑問だ。
「それは、表向きの話だ。まあ、ある意味……疾患かもしれない。兄上は、魔力が徐々に減っていっている。このまま行けば、いずれは枯渇する」
「……枯渇?」
確か、父リカードの死因も魔力の枯渇だった。魔玻璃の修復に全てを使い切ったが為に。
この世界の人々は、多かれ少なかれ魔力がある。その魔力が全て無くなったら、それは死を意味するのだ。
「原因はわからないのだが、日に日に魔力が減って衰弱してきている。宮廷魔術師による治療や、ポーションも試したが、魔力は回復しない。その上、聖女の癒しも全く意味をなさなかった」
(あ! だから、以前お父様を無理に呼んで、高濃度の回復薬を献上させたのね!)
最初の軽い会話からは想像できない程、ジェラールの瞳は悲しみを宿していた。
「リーゼロッテ、無理は承知している。だが、其方の力を貸してほしい」
「……私に出来るか分かりませんが。やれるだけの事はやってみます」
真剣なジェラールに、リーゼロッテも気合いを入れた。
『……魔力が減る病? そんなもの、聞いたことも無いが』
馬車の外から二人の会話を聞いていたテオは、声を出さずに呟いた。
◇◇◇◇◇
王宮に到着し、通された部屋は王太子の私室だった。
中に入れたのは、ジェラールとリーゼロッテのみ。他は応接室で待機だ。
テオは、馬車に残ると言って枢機卿から離れ、リーゼロッテの影の中へ入っている。
ベッドに横たわるクリストフ王太子は、青白く目は虚ろだった。
「兄上……」
「……ジェラール、か」
具合の悪そうなクリストフに、ジェラールは簡単にリーゼロッテを紹介し、早速癒しをと促した。
取り敢えずリーゼロッテは、クリストフにどの位の魔力が残っているのか確認する為、クリストフの手に触れて目を閉じ集中する。
最近、教会堂に魔力感知の魔法を使いまくっていたので、その能力はかなり鍛えられていた。
「……ん?」と、リーゼロッテは首を傾げる。
「何だ! どうした!?」
不安そうにジェラールが尋ねる。
「あの……、クリストフ殿下の魔力の属性は?」
「…………」
クリストフが答えない代わりに、ジェラールが言う。
「兄上は、火属性だ。だが、王族は大抵の他の魔法も使える。それが、何だと言うのだ?」
「……クリストフ殿下の魔力、テオと似ています」
「なっ!? 魔獣とだと? そんな馬鹿な。魔獣は闇属性だろうが」
『そんな事だろうと思った』
と、テオがリーゼロッテの影の中から声をかけ、部屋の中に現れた。
「テオ、どういう事だ?」
ジェラールは、眉根を寄せてテオに詰め寄る。
「魔力回復薬や聖女の癒しが効かないのは、簡単な話だ。それらは、光属性なのだろう? 其奴は、完全な闇の属性しか持たぬ。つまり、光は毒になっても薬にはならないのだ」
「う、嘘だ! 光属性だって珍しいのに、闇属性なんて有り得ない!」
テオの話に、信じられないとジェラールは目を剥いた。
「ふんっ! それは、所詮お前たち人間の屁理屈だ。昔は、その様な者達が沢山いたぞ」
そんなやり取りを見かねたのか、クリストフは重い口を開いた。
「その者の、言う通り……私は、闇属性だ。王族として、誰にも知られては……ならなかった。この国で、それは忌み嫌われるもの、だからな……」
息を切らしながらやっと話すクリストフの言葉に、ジェラールは何も言えなくなる。
部屋はシーンと静まりかえった。
「じゃ、クリストフ殿下。癒しをかけますね」
リーゼロッテは沈黙を破り、当たり前のように声をかけて再度クリストフに触れようとする。
「なっ! 馬鹿っ! リーゼロッテ、光属性は毒だとテオが言ったばかりだろうがっ!」
焦ったジェラールは、リーゼロッテとクリストフの間に立ちはだかる。
「はあ? だって私は光属性の聖女じゃないですよ? ねえ、テオ?」
「ジェラールよ。其方ら人間が女神と呼んだ者が、我等や魔物達に何と呼ばれていたのか忘れたか?」
「あっ! 魔王……」
フンッとテオは鼻で笑い、リーゼロッテを促した。
リーゼロッテが癒しをかけると、いつもの金色とは真逆の色……黒紫色の光がクリストフを包んだ。
見る見るうちに、クリストフの血色が戻り金髪だった髪は艶やかな漆黒に、明るかった青い瞳は闇色に染まった。
「ほう。それが、本当の姿か。魔力が無いのによく隠していたものだ」と、呆れるテオ。
「ああ、それは魔道具のお陰だ。流石に、魔力を無駄に使えなかった。私は、元々魔術に長けていたからな」
回復したクリストフは詰まることなく話す。
「あー!! もしかして、ジェラール殿下が言った優秀な魔術師って!?」
リーゼロッテの反応に、ジェラールとクリストフは、顔を見合わせて笑った。
そして、表情を引き締め王太子と王子として、リーゼロッテに今日の出来事を内密にしてほしいと頼んだ。
「もちろん誰にも言いません。私のことも秘密ですよ。それと、クリストフ殿下に見てほしいのですが」
リーゼロッテは、自分の首に付けっ放しだった例の魔石を取ると、クリストフに渡した。