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元貴から新曲のデモ音源を受け取ったのは、 ダンスレッスンが終わって自宅へと送ってもらう車の中だった。
まだリリースしていない曲があるのに、元貴のスケジュールは 相変わらずめちゃくちゃだ。
少しは寝られているかなぁと思いながら、彼の 新しい楽曲を聴けることに気分が高揚する。
CMのタイアップ曲だし、爽やかな夏ソングかな?と、お馴染みの飲料を思い浮かべながらいそいそとヘッドホンに手を伸ばし、再生ボタンを押した。
耳に流れ込む優しく、でもどこか切ない元貴の歌声。メロディも夏を感じさせる効果音もとても美しいのに、 なぜか胸がざわめくのを感じた。 自分の心の奥深くに眠っているなにかを揺さぶられるような感覚に思わず停止ボタンを押す。
そのままぼんやりと窓の外を眺めているうちに車は自宅マンションのエントランスに到着した。運転席のマネージャーに挨拶をして車から降りる。
部屋に入ってシャワーを浴びても、もやもやとした気分は晴れなかった。長時間に及ぶダンスレッスンで体は疲れているのに、眠ろうという気分にはなれない。
「こういう時は手を動かすのがいいよね?」
誰にともなく呟き、おれは新曲の譜面起こしに取り掛かった。なるべく何も考えず、音を拾う作業に没頭する。譜面ができあがる頃には気分も落ち着き、ほっとして寝室へと向かった。
翌日もダンスレッスン、更にはテレビ収録やCM撮影と、有難くも忙しない日々が続く。
新曲のプリプロもすぐに始まる。あの日起こした譜面で練習はしているけれど、デモ音源を聴こうとするとどうにも気分が重くなり、きちんと聴き込めないまま時間はあっという間に過ぎていった。
そんな状態でスタジオに入ってしまったものだから、おれに向けられる元貴の視線を強く感じる結果になってしまったわけで………
「りょちゃん?」
呼びかけた元貴が優しげに目を細めてこちらに歩み寄る。鏡張りのスタジオのおかげで彼がさっきまでものすごい真顔でこちらを見ていたのを知っているおれは、視線を落として身を固くした。
「わかってる、ごめん…」
元貴が小さく息を吐いた気配を感じる。
「少し休憩にしようか。気持ち切り替えよ」
そうおれに告げると元貴はくるりと振り返り、今度は打って変わってよく通る鋭い声を放つ。
「若井、おめぇもアタマのフレーズ間違えてっからな?」
「バレてた〜!!!」
元貴の視線が自分から外れたことにほっとして、のろのろと顔を上げる。
若井の胸ぐらをつかんで大袈裟にゲンコツを振り上げる元貴、顔はやめてぇ、と手で顔を覆う若井。周りのスタッフからも笑い声があがり、一気に空気がゆるんだのを感じる。
おれはできるだけ気配を消して、そっとスタジオから逃げ出した。
突然の藤澤供給過多に動揺し、あろうことか お話を書き始めてしまいました。
初めてのことでどうなるか?ですが、完成までやってみたいと思います、、、!