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私たちは馬車に揺られながら、再びクレントスの東門を目指していた。
……とは言っても、もう目と鼻の先だ。
初めて東門を訪れたときは、ルークと出会って――
ふふふ、やっぱり懐かしいなぁ。
「アイナさん、嬉しそうですね!」
「え? そうですか?」
……思い出に浸りすぎて、顔がニヤついてしまっていたのだろうか。
そんな顔を見られてしまうのは、何とも恥ずかしい限りだ。
「――それにしても、この辺りには誰もいませんね。
南門を遠巻きに迂回したときは、兵士が大勢いるように見えましたが……」
「そういえば、そうだねぇ」
確かにここに来るまで、たくさんのテントが見えていた。
私たちは完全にスルーしていたけど、クレントスを攻めるための兵士たちが陣取っていたのだろう。
「……でも、東門に誰もいないのは何ででしょうね?
もしかして、罠? 地面に凄い爆弾が埋まっているとか――」
「無くは無い、ですね……」
「それじゃ一応、鑑定はしていこうか。
ルーク、馬車はゆっくりでお願いね」
「はい、分かりました」
ルークが返事をすると、馬車の速度はすぐに緩やかになった。
私は私で、前方へ向けて広範囲の鑑定を使うことにする。
……スキルをしばらく使い続けるのはしんどいけど、安全には代えられないからね。
よーし、集中、集中……っと。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
――しかし、何もなかった!!
……というわけで、鑑定スキルでは何も見つけられないまま、私たちは東門まで着いてしまった。
ただ、門は閉じられていて、このまま入ることは出来ないようだ。
「すいませーん!!」
……ひとまず呼び掛けてみるも、反応は無し。
「返事がありませんね……。
誰もいないのでしょうか。うーん……」
「さすがに誰もいないということは――」
ルークの言葉の途中で、私たちの上から声がしてきた。
慌てて声の方向を見てみると……外壁の上に、誰かが立っているようだった。
「くっくっく……。俺のいる東門に来るとは、運の悪いやつだな……!
権力の|狗《いぬ》どもが! 後悔しながら死んで逝け!!」
「グルァアアアアアアッ!!!!」
「――ッ!!?」
その男が手を上げると、突然上空に巨大な鳥が現れた。
鳥……!? いや、あれは獣に翼が生えた感じの――いわゆる合成獣、コカトリスのような魔物だった。
「や、やっぱり罠……!? ルーク!!」
「はい、お任せください!!」
「――グギャッ!?」
合成獣が私たちに襲い掛かった瞬間、ルークの剣が魔物を斬り裂いた。
……この程度の強さでは、ルークに挑むのは力不足というものだ。
「な、何だと……!? よ、よくも俺のポチを……!!」
……ん? ポチ……?
ポチって顔かなぁ……。
そんなことを考えながら、私は改めて合成獣の顔を見てしまう。
……うーん、あんまりポチって感じはしないけど……。
しかし生命力が強いのか、ルークが急所を外したのかは分からないが……ポチはまだ、生きているようだった。
「あのー、ポチはまだ生きていますよ。
どうしますか?」
……私はもちろん、このまま戦うか降参するかを聞いたつもりだったけど、返ってきた答えは――
「ありがとう! 治してあげて!!」
「……ッ!?」
――予想外のものだった。
「あの、えーっと……?
……え? こ、降参するってことで良いですか?」
「はーっはっは!! 腐ってもこの獣星、こんなところで降参するタマでは無ぁいっ!!」
「し、七星!? まさか、どうして――」
こんなところに七星が……!?
……ということは、クレントスはもう王国軍の手に落ちている……!?
私たちは思わず、外壁の上の獣星に対して構えを取った。
しかし――
「ああっ!? せ、戦闘よりも先に、ポチを助けてあげて!?」
――これもまた、予想外の台詞だった。
「……あの、何で敵の従魔を助けなければいけないんでしょう……」
「いやいや、そこはあれだよ。
『情けは人の為ならず、巡り巡って己がため』って言うだろう?
ここでポチを助けてくれれば、お前たちにもいろいろと良いことがあると思うぞ!!」
「えぇ……?
でもあなたは、私たちを殺す気なんですよね?」
「それはもう!!」
「それじゃ、いつ良いことが起きるのでしょう?」
「ぬぅ……? 確かに……。
……いやいや、でもポチは助けてあげて!? ほら、可愛いだろ!?
お願い!! 他のみんなはやられちゃったの!! それに、可愛いし!!」
「……つまりポチを倒せば、あなたは無力だと……?」
「ふんがっ!!?」
獣星が言葉を詰まらせている間に、ルークは神剣アゼルラディアをポチの首元に当てた。
そうだ、私たちはいつでもポチにとどめを刺せるのだ。
「――私たち、東門から入れって言われているんです。
ポチは助けてあげますから、ちょっかいはもう止めてもらえませんか?」
「え、そうだったの!? 合言葉は聞いてる? ……聞いちゃうよ?」
「あ、はい?」
合言葉は――確か、『投獄したい』だっけ。
何だか変な合言葉だけど……。
「それじゃ、はい! 『ヴィクトリアを』?」
んん? えぇっと……?
「……と、『投獄したい』」
「……ッ!!
何だお前ら、仲間かよ!! 仲間なら話は早い!
門を開けてやるから、ポチをさっさと治してくれーっ!!」
え? え? え? ……えぇっ!?
……どんな合言葉なの……。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
とりあえずよく分からない流れのまま、私はポーションでポチの怪我を治してあげた。
そうこうしているうちに門が開き、獣星が慌てて駆け寄ってくる。
獣星とポチは抱き合い、頬ずりをしながら喜びあっていた。
「――ポチ! お礼!!」
「グリュゥン♪」
獣星の言葉に、合成獣は怖いんだか可愛いんだか、よく分からない声で私に鳴いた。
……これは、お礼を言っているのだろうか……。
「えぇっと……一体、どうなっているの……。
獣星さんは、敵? 味方?」
「うん? 何も聞いていないのか?
そっちこそ、王国軍の馬車で来るから敵かと思ったぞ!!」
「……っていうことは、やっぱり味方?」
私と獣星がそんなやり取りをしていると、街門の方から声がしてきた。
「――ルーク! ルークじゃないか!!」
「え? ……エドワードか! 久し振りだな……!!」
……おお、ルークが敬語じゃない……!?
何だかそれだけで、とっても新鮮だ。
改めて声の主を見てみると、その青年は以前のルークと同じ感じの……騎士の格好をしていた。
「アイナさんもお帰りなさい!
いろいろと大変なようでしたね。でも、ここまで来れば大丈夫ですから!」
「え? 私の名前を――
……あ、ああっ!? お久し振りですっ!!」
――あまり話はしなかったけど、彼には見覚えがあった。
以前、クレントスを発つときにルークに挨拶をしに行ったけど……そのときルークは不在で、代わりに言葉を交わしたのが彼だったのだ。
「え? もしかして、私のことも覚えていてくれたんですか? それは嬉しいなぁ……。
アイナさんの活躍も聞き及んでいますよ! ささ、ここでは何ですから、中へどうぞ!!」
エドワードさんは上機嫌で、私たちを中に促してくれた。
ついでに、怪我の治ったポチと獣星も上機嫌のようだった。
……もう、何が何やら。
でも、これでようやくクレントスの中へ入れるわけだ。……本当に、何が何やらだけど。