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ひとまず私たちは、クレントスの街をゆっくりと歩いていった。
……私とルークとエミリアさん。それにエドワードさんと、獣星と合成獣。
何だか違和感があるのは、やっぱり獣星と合成獣がいるからかなぁ……。
「えぇっと……。獣星さんって、七星の一人なんですよね?
七星って、『王国軍の切り札』……とか言ってませんでしたっけ?」
「ふふふ、その通り!!
王国軍の選ばれし精鋭ッ! 遊撃部隊ッ!! それが、我ら七星ッ!!!!」
「ですよね? そんな七星が何でクレントスに――
……いやいや、そもそも今ってどういう状態なんですか? クレントスで反王政の動きがあるって聞いていたんですけど……」
「――それは私から説明しましょう」
私が獣星に生温かい視線を送っていると、エドワードさんが話し始めた。
獣星とエドワードさん……。これまでの印象から、どう考えてもエドワードさんの方が説明は上手そうだ。
「お願いします。私たち、何も知らなくて」
「はい、簡単に説明しますね。
まず、反王政――とは言っても、元々はクレントス領主、アルデンヌ伯爵への不満から始まったのです」
アルデンヌ伯爵……というのは、ヴィクトリアの父親だ。
詳しい話は聞いたことが無いけど、まぁアレの父親だから……まぁ多分、そんな感じなのだろう。
「……不満、ですか?」
「権力を傘に、やりたい放題だったと言いますか……。
身内に便宜を図ったり、税金を使い込んだり、諸々の組織に無理を言い続けたり――」
「はぁ……。それはさすがに、どうにかしたくなりますね」
実際、冒険者ギルドのケアリーさんもヴィクトリアから圧を受けていたようだったし。
……でも私としては、具体的にはそれくらいしか思い浮かばないかな。
「そこで立ち上がったのが我らのリーダー、アイーシャ・ルクス・アドリエンヌ様です!」
「アイーシャさん! ……私も面識はありますが、お元気にしていますか?」
「もちろんです! 今も私たちの先頭に立って、指揮を執られておりますよ。
アイナさんのことも、ことある度によく話してくださいます」
「えぇ……?」
……悪い気はしないものの、どんな話になっているのかはやはり気になる。
さすがに悪い話では無いだろうけど、聖人君子みたいに扱われるのは、それはそれで嫌だからね。
「――っと、話が逸れてしまいました。
アイナさんがクレントスを離れたあと、アイーシャ様がいわゆる反王政派と手を組んで、そしてアルデンヌ伯爵の屋敷を占拠したのです。
アルデンヌ伯爵とその家族は、今も屋敷に幽閉されている状態です」
「おぉ……」
……ということは。もちろんヴィクトリアも一緒なんだよね?
でも、投獄じゃなくて幽閉なんだ。……昔の仕打ちを考えれば、私としては投獄したいところではあるけど。
「その後はさすがに、王国側にも動きが知られてしまいました。
そこでアイーシャ様は、王都の知人に呼び掛けて情報戦に入ったのです」
「へぇ……。王都にそんな知人が……」
――って、確かファーディナンドさんがアイーシャさんと文通をしてなかったっけ?
もしかして、知人っていうのはファーディナンドさんのことだったり……?
「その結果、王国軍から派兵はされたものの、協力者を多く潜ませることができました。
たくさんの兵士がクレントスに集められていますが、要所要所ではこちら側の味方が多いのですよ」
「へぇ……、凄いですね。もしかして、検問所もそんな感じでした?」
「はい、検問所は|要《かなめ》ですからね。
そして、ずっと協力者を集めているのですが、その中でも――特にアイナさんは、重要な人物と位置付けておられました」
「え? それはまた何で?」
「……今や、アイナさんはとても有名ですから。
神器を作った偉大なる錬金術師。しかも、ヴェルダクレス王国と敵対関係にある……」
「うぐ……。確かに私たちも、クレントスでは少し落ち着けるかと期待していましたが……」
私はついつい、ルークとエミリアさんと顔を見合わせた。
苦笑いをしながら、何とも反応に困ってしまう。
「いえ、ご安心ください。
アイーシャ様の直属で、王国側の情報を鵜呑みにする者はおりません。王都で何があったのかは、アイーシャ様にお話をして頂ければと思います。
何と言っても――」
そう言うと、エドワードさんはルークを見ながら、彼の胸を|拳骨《げんこつ》で軽く叩いた。
「――お前が『竜王殺し』だなんて、そんな大それたことをやるとは思えねぇしな♪」
「はは……。どうだかな?」
ルークは不敵な笑みをエドワードさんに返した。
……何だかとっても男の友情っぽい。端から見ていて、どこか気持ちが良いものだ。
「経緯は大体分かりました。
それで、今の戦況はどんな感じなのでしょう。南門の方に、ずいぶんと兵士が陣取っていましたけど」
「今は膠着状態にあります。
向こうは戦力を補充してから攻めるつもりのようですが、それは上手くいっていないようですね」
……戦力の補充。
呪星ランドルフが率いていた部隊は『疫病の迷宮』で全滅させたし、英雄ディートヘルムを含む部隊は敗走させた。
案外、ここら辺は私たちも一役買っているのかもしれない。
「……とすると、こちらから攻めるなら今のうち、という感じでしょうか」
「そうですね。ただ、こちらも戦力が十分ではないのです。
状況が状況ですから、物資もなかなか集められませんし……」
ふむ……。
しかし、物資補給なら私の得意とするところだ。
それに戦力なら、私たちがアイーシャさん側に付くことで一気に強化が見込めるだろう。
何せ、神器持ちのルークがいるのだから。
「クレントスは私も思い入れがある街です。だから、ずっとこのまま……というのは嫌ですね。
私たちも是非、皆さんのお手伝いをさせてください」
「おお! アイナさんが力を貸してくれるなら百人力です!!
ルークも頼むぞ!! ……えっと、それから――」
エドワードさんはエミリアさんをちらっと見た。
この二人は、今回が初対面だ。
「わたしはエミリアと言います。
通りすがりの聖職者ですが、支援はお任せくださいね」
「エミリアさんですね、よろしくお願いします!
はぁ……、ルーク。お前、両手に花で旅しやがって、この野郎……」
「はは……。お前もいてくれたら、ここまでの旅もずいぶん楽だったんだがな……」
ルークはエドワードさんを見ながら、しみじみとそう言った。
さりげに言ってはいるが、心の底からの本心なのだろう。
「……お前も、やっぱり大変だったんだな。……なぁ、たまには飲まないか?
今夜あたり、予定が無ければ……さ」
「ひとまずはアイーシャおばちゃんに会ってからだな。
ただ、俺はアイナ様をお護りしなければいけないから――」
……いやいや!?
安全さえ確保できれば、別に飲みに行くくらいは良いんじゃないかな!?
「ルーク、少しくらいは大丈夫だよ。
エミリアさんもいてくれれば、どうにかなるから。ね?」
「そうですか?
……そうですね、アイナ様もずいぶんとお強くなられましたし……」
「え? アイナさんって、強いのか?」
ルークの言葉に、エドワードさんが不思議そうに聞いてきた。
「神器を持った英雄ディートヘルムを、一人で倒すくらいには強いぞ?」
「は? ……最強じゃん」
エドワードさんは、信じられないような目で私を見てきた。
……おぉ? これはちょっと、勘違いの雰囲気が……!!
「ルーク!? もう少し言い方をだね……!?
えぇっと、エドワードさん。あれはちょっとした不意打ちっていう感じで戦ったんですが――」
私は誤解を解くように、慌てて説明をしようとした。
倒したのは事実だけど、尾ひれが付いて話が広がるのはやっぱり嫌だ。
「……しかしアイナさん。
不意打ちとは言っても……普通は英雄なんて、倒せないですからね……?」
「確かに」
エミリアさんのフォローも、予想外に入ってきてしまった。
それはその通りで、確かにそうなんだけど――うーん、まぁ良いか……。ひとまず、また変なあだ名が付かなければ良いんだけど……。
――そんな感じでしばらく歩いていると、ルイサさんの宿屋が見えてきた。
クレントスに滞在中、私がずっとお世話になっていた宿屋だ。
……一晩、金貨1枚の部屋に泊まっていたんだよね。
その使いっぷりも含めて、猛烈な懐かしさを感じてしまう。
「ところで、ルイサさんもお元気ですか? エドワードさんはご存知でしたっけ?」
「あ、はい! ルイナさんは今、アイーシャ様のサポートをして頂いています。
宿屋の方は、従業員の方に全部任せているそうですよ」
「そうなんですか。ルイサさんが戦うイメージって、あまり持てないなぁ……」
「いえ。戦いではなくて、食事や身の回りのことですね。
アイーシャ様とはもともと知り合いだったのですが、アイナさんにお世話になったことで、親密になったそうなんです」
「そ、それはお役に立てて何より……?」
「お二人とも、アイナさんに会いたがっていましたよ。
今日はこのままご案内しようと思うのですが、よろしいですか?」
――それはもちろん、私も望むところだ。
純粋に二人に会いたいということもあるけど、この街の問題もさっさと解決したいし。
問題が解決されれば、アイーシャさんの庇護下ということにはなるだろうけど、私たちの平穏がきっと訪れるはずだ。
……100%そうなるとは言い切れないが、他の街に比べれば、その確率はずっと高いだろう。
「はい。是非、よろしくお願いします!
この戦いを早く終わらせましょう!!」
ひとまず『神託の迷宮』に行くのは、クレントスの問題を解決させてからにしよう。
……そこで何が起こるかはまったく分からない。
それなら先に、安全な拠点を確保しておいた方が絶対に良いはずだからね。
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