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へ何それ尊すぎ… 何事…!? 尊すぎて今日はよく眠れそうだ🫠
日曜の午後。
曇り空の下、元貴は滉斗の家の前にいた。
「……来るの、久しぶりだな」
インターホンを押す前に、呟いてみる。
前に一度来たときは、ギターを教えるためだった。
でも今回は、“なんとなく一緒にいたい”という理由だけで来ている。
しかもアポなしで。
ピンポーン。
「はーい……って、元貴か!」
ドアを開けた滉斗が、ちょっと驚いた顔をした。
「や、来てよかった?暇だったから」
「もちろん、いいに決まってるじゃん。上がれよ!」
—
部屋に入ると、前と変わらない香りがした。
それだけで、なんだか落ち着いた。
「今日弾いてみたいのは……“パブリック”。」
「え、あの曲?」
「うん。滉斗が何度も聴いてくれたって言ってたから、 一緒に音を重ねてみたくて」
「……うわ、マジか。ちょっと緊張してきた……」
「大丈夫、ゆっくりでいいから」
元貴がメロディを歌って、滉斗がコードを弾く。
ふたりで一つの音楽を創るということ。
それが、こんなにも温かくて、優しくて、胸を打つなんて。
—
“知らぬ間に誰かを傷つけて
人は誰かのために光となる
この丸い地球に群がって
人はなにかのために闇にもなる”
元貴の声に、滉斗のギターが静かに寄り添う。
真っ直ぐな音。ゆれる指先。
その全部が、今の滉斗を語ってる気がして、目が離せなかった。
歌い終わったあと、静かな時間が流れる。
「……ありがとう。今日、一緒に弾けてよかった」
「こっちこそ。元貴の声、ほんと良いよな。……改めて思った」
「そんなことないよ。滉斗のギターもすごくよかった」
「マジで? じゃあ調子乗っていい?」
「うん。好きなだけ乗って」
ふたりで小さく笑ったあと、滉斗がふと元貴のほうに手を伸ばして言った。
「なあ、手。見せて」
「……え?」
「ちょっと、比べてみたい」
言われるがままに、手のひらを差し出す。
滉斗の手が、重なる。
「……滉斗の方が大きいなぁ」
「いや逆にさ、俺より小さい手で、あんなギター弾けるのがすごいと思うんだけど」
「それ、うれしい…」
見つめ合うこともなく、でも、合わさった手の温度が、
お互いの言葉よりも正直だった。
そして、そっと——
指が、ゆっくりと絡んでいく。
心臓の音が、やけに大きく響いているのがわかった。
「……なんか、変な感じ」
元貴がつぶやくと、滉斗が小さく笑った。
「……俺も。」
2人は、繋いだ手のまま、静かに見つめ合った。
目と目が合うだけで、息が止まりそうになる。
この時間が、何かの合図のように感じられて——
元貴のほうから、そっと身体を近づけた。
滉斗も、一言も発さず、でも逃げることはしなかった。
「……」
沈黙の後。
——唇が、触れた。
優しくて、あたたかくて、ふわっとした空気の中で、
ほんの短い、でも確かなキス。
まぶたを閉じた滉斗の表情が、愛おしかった。
唇が離れたあとも、手はずっと繋がれたまま。
僕たちは、何も言わずに、ただ少し照れたように見つめ合った。