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ごきげんよう、シャーリィ=アーキハクトです。お姉様主催のジョゼ教育実習は、ジョゼを怖がらせてしまうと言う姉としてあってはならない失態を犯して終わりを迎えました。
ジョゼの今後を見据えて少しばかり熱を入れすぎてしまいました。いやまあ、本気でジョゼにおねだりされたら抗える自信はありません。この世で私にとって最大の天敵は、レイミとジョゼの二人かもしれませんね。どちらからおねだりされても断れるとは思えませんし。
とは言え、より一層落ち込む前にレイミからの知らせでビックリしたのはある意味よかったかもしれません。
直ぐに現地へ駆けつけてみれば、レイミの言う通りマクベスさんを中心とした即応部隊でした。本来ならば緒兵科による混成部隊なのですが、今回は戦車隊と砲兵隊はお留守番です。
流石に帝都市内へ戦車を持ち込むわけにはいきませんし、砲撃するわけにも行かない。まあ、黄昏と違って道も広くないので運用には問題があるので必要ありませんが。
マクベスさんに詳細を聞くと、どうやらサリアさんの転移魔法によるものでした。存在は知っていましたし、便利ではありますがとても複雑な魔法であることは間違いありません。
この規模となれば尚更です。マスターと言いサリアさんと言い、規格外の魔法使いが味方で本当に良かったと改めて感じました。
レイミ?妹は至高の存在ですよ?異論を挟む余地など初めからありません。異議は地下室でじっくり聞きます。
さておき、急なことではありましたが非常にありがたいことです。援軍到着はパーティーまでに間に合わないと考えていましたからね。
「直ぐに手配しますので、先ずは身を隠してください」
上空を魔物が飛びながら監視しているのでマリアには知られた可能性が高いですが、仕方無い。直ぐに百名分の準備をしないと。
予めお姉様にお願いしてレンゲン公爵家領邦軍の制服を人数分手配して貰っています。暁の部隊が帝都へ乗り込むのは時期尚早。領邦軍に扮することで堂々と動かすことが出来ます。
「お待ちしております。幸いこの辺りは稜線が多いので、街道から身を隠す場所には困りません」
「では、寒い中ではありますが夜まで辛抱してくださいね」
夜陰に紛れて行動すれば、完全な秘匿な不可能でも真っ昼間にやるより遥かにマシです。
さて百名を越える部隊の駐留場所ですが、当然ながら用意しています。帝都郊外には帝国軍帝都防衛師団の駐留基地があり、広大な敷地を有します。この基地には貴族に属する領邦軍のための区画が存在します。
言うまでもありませんが、帝都は帝国の中心部であり政治の中枢です。大貴族の力が強いとは言え、帝室の存在は無視できません。
結果、貴族の出入りも頻繁に行われます。その際貴族は護衛として領邦軍を引き連れてきますから、彼等の駐留地は必要不可欠となります。
まして四大公爵家ともなれば引き連れてくる領邦軍も大勢となりますので、基地での区画も広大となります。
今回はレンゲン公爵家に割り当てられた区画と兵舎、倉庫を貸して貰う手筈になっています。お姉様は少数の護衛しか連れてきていませんからね。他の派閥を無駄に刺激することは避けねばなりませんから。
夜、夜陰に紛れて制服などの衣類を満載した馬車が密かにレンゲン公爵家の屋敷を出ました。そのまま極力静かに帝都を出て、平原へと向かいます。隠密性を最優先にするため、御者は私とレイミの二人だけ。服装も村娘スタイルです。逆に目立ちそうではありますが、メイド服や制服を纏うよりはマシでしょう。多分。
稜線を巧みに利用した夜営地に到着すると、マクベスさんが出迎えてくれました。焚き火は使わなかった様子ですが、暖かい毛皮の衣類をたくさん用意していたので寒さは紛れたみたいですね。シェルドハーフェンに比べて帝都は冷えますから。
「お待ちしておりました、お嬢様方。わざわざありがとうございます」
「マクベスさん、直ぐに着替えて駐屯地へ向かってください。話はつけていますから」
「承知!……おや、これは?」
幌馬車に積み込まれた大量の制服以外にも、幾つかのライフルが積み込まれていることに気付いたみたいですね。
「ライデン社製、リー・エンフィールドMkⅢ小銃です。レンゲン公爵家の領邦軍が正式に採用している小銃です。同じボルトアクションライフルなので、使い勝手に大きな違いはないはずです」
領邦軍に扮する以上、装備が違えば直ぐに露見してしまいますからね。お姉様におねだりしてみたら、人数分をPONとくれましたよ。うちもそれなりに潤沢な資金を持っているつもりでしたが、やはり大貴族には遠く及びません。
ましてレンゲン公爵家は交易と積極的な近代化でかなり裕福です。羨ましい。
「ほう、別の小銃ですか」
「現地に人数分用意してありますから、充分に訓練をしておいてください」
「畏まりました。直ぐに着替えろ!出発するぞ!」
荷物を積み下ろして、皆さんが一斉に着替え始めました。私とレイミは荷台で待機します。百名以上の男性が一斉に着替える様をのんびり観察する趣味は持ち合わせていません。流石に羞恥心はあります。レイミは平気そうですが。
「多種多様な武器を生産するものですね。よく現場に混乱が起きないものです」
「マーガレットさん曰く、全ての工場で別の武器を生産しているのだとか。管理が大変だとぼやいていましたよ」
そこでライデン社は有力な顧客の土地に専用の工場を建設することで、混乱を最小限に抑える努力をしているのだとか。更に銃弾の規格化を徹底しているのもありがたいことです。
つまり、同じライデン社製ならば相手の武器を奪ってもこちらで用意した弾が使えるのですから。
手早く着替えを済ませて、本来の衣服は丁重に馬車へ積み込み基地へ向けて出発します。私達姉妹はそれを見届けてから屋敷へと戻りました。
「夜分にご苦労様。自由に使うけれど、問題はないわね?」
屋敷へ戻るとお姉様がまだ起きていて労ってくれました。本当に抜け目がない人です。
「はい、指揮権はお姉様がお持ちください。私達はお姉様に従いますよ」
それが結果的には大きな利益になりますからね。援軍を要請してその日の夜には基地で待機するに至りました。この空いた時間を有効活用しないといけませんね。