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24 - 第21話:心の温度

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2025年05月11日

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第21話:心の温度

 その詩は、通知もランキングも、バズりもしなかった。

 けれど翌朝には、学校のAIネットワーク内で100回以上読まれていた。


 誰も“読んだ”とは言わない。

 でも、何かが変わっていた。




 1時間目の教室。

 サクラギ・ミナ――常に黙っていた女子が、黒板の前でわずかに手を挙げた。

 質問ではなかった。ただこう言った。


 「……この単元、たぶん“答え”じゃなくて、

  “考えること”が大事なんだと思います」


 静寂が落ちた。

 AIは「適切な意見」として処理した。だが、その言葉の**“揺れ”**を、数名が感じていた。




 休み時間。

 廊下の端で、ハヤセ・ジュンが友達にそっと話しかける。


 「昨日、詩みたいな文章読んだ。

  名前なかったけど……なんか、あれ、良かった」


 「え、どれ? 感想書く欄なかったよね?」


 「……だから、誰にも言えないけど。

  ちょっと、誰かに言いたくてさ」




 放課後、昇降口。

 カネダ・トモキは、自分の靴箱に手紙が入っているのに気づく。

 そこには一言だけ、手書きでこう記されていた。


 > 「“君の声”、誰かに届いてると思うよ。」


 署名はない。

 でも、その文字は、どこか“あたたかかった”。




 夜。

 ナナの部屋。彼女はミナトに送られてきたメッセージを読んでいた。


 「この詩、何度も読み返してる。

  俺、いつからか“冷たい”のが当たり前になってたけど、

  あれ読んだら、胸の奥がチクっとして、びっくりした」


 ナナは静かにスマホを置き、小さなメモ帳に一行書いた。


 > 「感情って、消されるもんじゃなくて、

 >  忘れてただけなんだね。」




 ミナトの端末には、

 AIからの通知がまた届いていた。


 【感情反応誘導リスク・レベル2】

 【社会的影響指数 上昇:未許可】


 だが、今までのように数字を見るだけで終わることはなかった。




 彼は返信欄に、たった一行、こう打った。


 「それでも、人間には“心の温度”が必要です」


 送信ボタンは、もちろん反応しない。

 “提案”として無視された。




 でもその一行が、端末の画面の明かり越しに、

 部屋の中をほんの少しだけ、あたたかく照らした気がした。




 詩は、バズらない。

 スコアは上がらない。

 けれど、“読むと黙りたくなる”詩がある。


 そして今、

 それがゆっくりと、人の心にぬくもりを灯し始めている。



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