ゆるりと流れる時間にスマイルも落ち着いた様で、今は鼻を啜る音だけが腕の中から聞こえる。
それでも変わらず背中をさすってやっていると、弱い力でぐっと体を押されたのでそのまま少し彼から離れた。
kr 「お。…落ち着いた?」
ずっと腕の中にいたスマイルの顔は赤く、目は少し腫れてしまった様でぼーっと瞼を重たそうにしていた。濡れた顔をティッシュで拭ってやりながらそう聞けば、僅かにだが頷いてくれる。
kr 「良かった良かった。…よし!じゃあなんか、して欲しい事とかある?何でも良いよ。飯食いたいとか、風呂入りたいとか。ゲームもあるけど…、」
お腹は空いてるだろうし、汗だってかいたはずだから気持ち悪いかもしれないし。思う存分泣けたのなら、次は楽しいと思えることをしないと。
そう思って、うちで出来ることをいくつか提案してみる。とは言っても大した物は無いからできることは少ないけど、なんて考えているとどうやらスマイルも何か考えているようだった。
出会った時から長考の癖があるなと思っていたので、また長いかなぁと気長に待つことにしてみる。
サラサラと髪を触ってみたり、耳に掛けてあげてみたり。
どのくらい時間が経っただろうか、そうしているとスマイルに服の裾をぎゅっと掴まれ視線が重なる。少しだけ目を泳がせた後、服を掴んだ手はそのままにまた俯いてしまう。
その行動を不思議に感じ、何か言いたかったのではと覗き込んで名前を呼ぶ。
kr 「スマイル…?」
sm 「……ほんとに何でもいいんですか、?」
kr 「ん?うん、良いよ。うちに呼んだのは俺だし、大したもんはないけど…、」
キョロキョロと辺りを見渡しながら、他に何かあったかなと探してみる。
すると手にグッと力を入れたスマイルが、それならと頭を持ち上げた。
露わになった顔は先よりも真っ赤になっていて、彼の様子がふと変わったことに気づく。
kr 「ん、言ってみ。…大丈夫だから。」
sm 「……て………しぃ…」
聞き取れなかった声が、頭と一緒に尻すぼみに下がっていく。
kr 「ごめん。なんて、」
sm 「忘れさせてっ、欲しい…、です。…今日のこと。」
kr 「……ぇ、?」
しっかり聞き取らないと、そう思ってもう一度聞き直そうとした時。
はっきりとした声で予想していなかった
“やりたい事”が耳に入ってくる。
『忘れさせて欲しい』
確かにスマイルはそう言った。
いきなりの事に思わず声が漏れてしまったが、この意味に気づけない程俺は鈍くない。
自分の経験則からも、彼の雰囲気からもそういう事であるのは間違いないだろう。
だけど今日みたいな事があったからこそ、これに気づかないふりをするべきだろうか。
スマイルにとって、前にした事のその先は未知な筈だから。いくらBL作品を知ってるからって、見るのと実際やるのとでは訳が違う。
何と答えようか、頭の中で考えているとあまりに返事が返ってこず不安になったのか、スマイルが恐る恐る俺のことを覗き込んだ。
sm 「…せんぱい…?」
kr 「ぅ“…、」
上目遣いでこちらを覗く瞳は、うるうると揺れてせがんでくる。理性が喉に詰まって呻き声が漏れ出る。
これは流石に、据え膳食わぬは何とやらだろうか。
最後まで抗った末に、俺が出した答えは。
kr 「……っ、スマイルは、俺で良いの…?」
目の前にいる彼がこくりと頷く。
kr 「…はぁ、…分かった。」
俺は小さく息を吐き、裾を掴むスマイルの手をそっと退かす。
それに少しだけ不安そうな顔をしてこちらを見上げているのに気がつき、安心させる意味を込めて優しく頭をくしゃくしゃと撫でてやる。
kr 「…取り敢えず風呂、入ってきな。準備してくるからちょっとだけ待ってて。」
この言葉にほっと顔を緩ませたのを確認すれば、そのままの足で風呂場へ向かった。
コメント
2件