わたくしが生まれた時、周りは魔物さんだらけです。
彼らに襲われかけたのでわたくしは風に乗ってその場から逃げました。
宛もなく風の吹くままに流れていくわたくし。
特に生きる目的もすることもなかったわたくしが選んだのは眠ることです。眠っている時はこの寒くてつまらない現実で何かを考える必要がありませんでしたから。
きっといつか、このまま魔力が尽きて消えてしまうか魔物に見つかって食べられてしまうんでしょうけど、それも仕方がありません。
でも怖いのは嫌なのでせめて眠っている間がいいなと願うくらいしか欲もありませんでした。
そうやっていつものように流されていたわたくしですが、その日は少し違ったようです。
たしかにその日は特に天気が良くて、よく眠れそうと気分もよかったんですがそれとは別です。
でも全くの無関係というわけでもありません。気持ち良すぎて魔法を維持できなかったのか、わたくしは地面と激突してしまいました。
それで微睡みつつも再び風を吹かそうとした時です。
わたくしの体は陽気のように暖かい何かに包み込まれました。それからどうにも騒がしさを覚えたのです。
それで目を覚まして周囲を確認しようとしたわたくしでしたが、あまりの温かさに再び眠ってしまいました。
「あの、マスターが困っているので起きてください」
何やら声が聞こえてきましたが、面倒くさかったので適当に返したような気がします。
だってその寝心地は今までと比べ物にならないくらい良くて、ずっとこうしていたいなと思ってしまうほどでしたから。
すると何かわたくしとどなたかの間に繋がりが生まれていました。
どうやらわたくし、ノドカという名前を付けてもらったみたいです。
その時に初めてその人の顔を見ました。
知らないうちに繋がってしまったわたくしたちですが、すごく寝心地が良かったのでまあいいか、と納得しました。
そこでわたくしはこれからよろしくの意味を込めて風魔法でその人を撫でると、その人はふわりと笑ってくれました。
それからずっと寝ることしかしてこなかったわたくしですが、どうやら寝ていることよりも幸せな時間ができてしまったようです。
最初は暖かくて寝心地が良い場所としか思っていなかったはずなのに、いつの間にか居心地の良い場所に変わっていました。
多分、みんなのことが大好きになっていたからだと思います。ここにいると心までポカポカするのです。
こんな気持ちをくれたこの人たちへ大好きを伝えるためにわたくしは心の中で“お姉さま”と呼ぶことにしました。
でも困ったことにわたくしの後にわたくしと同じスライムさんが仲間になってしまったのです。
そのスライムさんまでお姉さまと呼ぶのは少し違うなと思いました。
でもお姉さまたちと同じようにすごくわたくしのことも慕ってくれるのですぐに大好きになりました。
だから細かいことを考えるのはやめて、ただ“ダンゴちゃん”と呼ぶことにしました。
アンヤちゃんに関しても同じです。
あの子も最初はよくわかりませんでしたけど、素直な良い子ではあるんです。ずっと一緒にいると大好きになっていました。
そうして気付けば、お昼寝の時間が減っていました。もちろん今も眠ることも大好きですが、みんなといることはもっと大好きなのです。
ちなみにみんなと一緒に寝ることに関しては最高です。
こうして大切に思っている大好きなみんなと大好きな居場所。
そしてみんながみんなともっと仲良くなれたら、それはどれほど素敵なことでしょうか。
戦うことはできないわたくしですが、ずっとみんなと一緒にいたいから、これからも雰囲気を大事にしながらわたくしなりに頑張っていきたいなと思います。