クリスマス当日。
湊は朝から準備をしていた。
本を片手に慣れない料理に苦戦し
こんな事なら一人暮らしの時にもっと料理をしておけば良かった…
と後悔しながら。
分量表示の適量やひとつまみに悩む。
「適量ってなんだよ…ひとつまみって?こんぐらいか…」
そう独り言をいいながら味見を繰り返す。
「こんなもんか…」
とりあえず全ての料理が完成した。
「さてと…」
出来上がった料理をテーブルに並べる。
時計を見るともう夕方になっていた。
シンから
『夕方位には行きます』
とLINEがきたがそれっきり連絡はなかった。
午後6時を回る頃湊の携帯が鳴った。
「ごめん!湊さん。今から行くから!」
「シ…」
湊が答える前に電話は切れた。
湊はクスッと笑う。
「そんなに慌てて切らなくても…」
シンが走って向かっている姿が容易に想像できる。
湊は冷えた料理を温め直し準備を始めた。
玄関のチャイムがけたたましく鳴り、ドアを開けると息を切らしたシンが立っていた。
「全力で走ってきたのか?笑」
外は寒いはずなのにシンは汗をかいていた。
「1秒でも早く会いたかった…」
「ったく…」
湊はシンの頭をポンポンと叩くと
「上がれよ」
家に入るように促した。
シンが靴を脱ぎ部屋に上がると、
「よしっ!」
湊がスイッチを押す。
「何やってるんですか………?」
「タイマー!今からキッカリ2時間だかんなっ!」
「もしかして時間計ってるんですか?」
「ったりめーだろっ!2時間って約束したんだから」
「はあ…呆れて言葉も出ないです」
「っるっせー!約束は約束!きちんと守ってもらうからな」
「せっかくのクリスマスなのにゆっくりも出来ないんですか?」
「お前は受験生!ゆっくりなんかしてる時間はないだろ!」
「そーですねっ。だいたい誘ったのはあんたの方だろっ」
「シン。3分過ぎたぞ…のこり1時間57分」
「もーわかりましたよ!」
シンは急いで家に上がった。
テーブルの上には湊が作った料理が並べられていた。
「これ全部湊さんが作ってくれたんですか?」
「まだあるんだな。笑。んっ?どうした?」
シンは椅子につかまり、頭を垂れる。
「嬉しすぎて…」
「早くしねーと全部食べる前に時間になるぞ。笑」
「残すなんて勿体ない!食べます!全部!」
「さすがに無理だろ。笑」
「いや、食べます!湊さんが俺の為に愛情込めて作った料理なんですから!」
「どんな胃袋してんだよ。笑。残ったら持って帰っていいぞ」
「本当ですかっ!」
「あっ、でもいつまでも冷凍保存して眺めるとかなら、なしっ!」
冗談で言ったつもりだったが…
「…なんでわかったんだよ……」
「まじか…お前こぇーわ」
席に着くと料理に手を伸ばす。
「うん!美味しいです!」
「本当か?なら良かった。クリスマスって何作っていいかわからなくて悩んだんだけど…」
「湊さんが俺の為に作ってくれたのなら何でも嬉しいです」
「言っとくけど、ケーキはないからな。さすがにあれは無理だわ…笑」
「大丈夫です。俺、甘いの苦手なんで」
「そっか」
「それに、ケーキは俺が作ります。湊さんが食べられるように甘くないのを」
「ケーキも作れんのかすっげーな。来年のクリスマス楽しみにしてるわ」
「その前に作りますよ」
「その前って…誕生日か?」
「もう少し前」
「もう少し前って、俺の誕生日は6月でお前の誕生日確か4月だったよな…?」
「はい」
「その前って事か?」
「俺達の、付き合った記念に」
「はっ?」
「卒業したら付き合ってくれるんですよね?」
「はああぁぁ?ば…ばかじゃねーの!誰も付き合うとは一言も言ってねーよ!」
「だって、俺の隣空けとけって言いましたよね?」
「言ったかもしんねーけど、付き合うとは一言も…」
「湊さん。俺、楽しみにしてます」
「お前はその前に約束した事があるだろ」
「大学合格ですよね」
「そうだな…」
「合格したら付き合ってくれるんですか?」
「合格通知見てから考えるわ…」
「本当ですか!」
「まぁ…見たらな…」
「じゃ…」
シンはポケットから紙を出した。
「なんだよ…それ?」
「合格通知です」
用紙を開き湊の顔の前に突き出した。
「えっ…?」
「これ見たら考えてくれるんですよね?」
「お前…試験は来月って…」
「地元の医大。今年から推薦枠始めたんです」
「…いつ受けたんだよ」
「湊さんが熱出した次の日」
「はあ?お前その日は塾だって…なんで大事な日に泊まってまで俺の看病なんかすんだよ…」
「お陰で合格できました」
「お陰でって、俺は何もしてねーし逆に迷惑かけて…」
「湊さん特製のお茶漬けのお陰です。元気もらいました」
「あんなの誰でも作れんだろ…」
「湊さんが作ってくれた事に意味があるんです」
「俺じゃなくて、お前が頑張ったからだろ。もしかして今日も…」
「はい。朝から塾なのは嘘です。今日が発表の日でした。合格できる自信はあったんですけど、やっぱり結果が出るまで心配だったんで言えませんでした」
「嘘なんかつかなくても…」
「驚かせたかったんです。手続きとかで遅くなってしまってすみませんでした。でもどうしても早く伝えたくて…」
「だから走って来たのか?」
「はい」
「ったく…」
「合格の約束は守りました。だから…」
「まだ卒業してねーだろ」
「俺はもう18です。法律ではもう成人してます。だから、俺と付き合ってください」
「…付き合えない」
「なんでですかっ?」
「まだ高校生だろ」
「だけどっ」
「法律では成人してるかもしんねーけど高校生とは付き合わねーよ」
「卒業したら付き合ってくれるんですか?」
「…お前次第だな」
「前にもそう言ってましたけど、それってどういう意味ですか?俺は今すぐにでも湊さんと付き合いたいんですよ」
「……お前が俺を嫌いになるからだよ」
「嫌いになんかなるわけないでしょ…」
「お前が想ってる湊晃は幻想なんだって愛想尽かすからだよ…」
「言ってる意味が全然わかんねーよ!こんなに好きなのに…」
シンは湊に近づき抱きしめる。
「やめろって!」
シンの腕を振り払い離れた。
「どーしたら俺の気持ちわかってもらえる?頭ん中こんなにあんたでいっぱいなのに…胸が苦しいくらいここもあんたで埋め尽くされてんのに…どんだけ言葉を並べても伝えきれない…俺ん中の全てをあんたに見せられたら…」
「お前は隣の年上のお兄ちゃんに憧れてそれを好きだって勘違してるだけだ。それにまだ俺達は友達のままだ…」
「だったら…なんで今日俺を誘ったんだよ …なんとも思ってない友達の為に何日も前から慣れない料理勉強して、こんなにたくさん料理作って、何時に来るかわからない友達の事待って…それって…ただの友達にする事なんですか?」
「……」
「ねぇ湊さん。あんたは何をそんなに怯ているんだよ…」
「俺はお前の為を思って…」
「俺の為って…本当に俺の為を思ってくれんなら、今すぐ俺と付き合ってくださいよ!」
湊はタイマーに目をやる。
「シン…あと15分だ…」
「時間なんかどーでもいいですよ!俺はもう友達でも受験生でもない!」
「約束しただろ…」
「そうやってまたはぐらかして…」
「別にはぐらかした訳じゃ…」
「今日は帰らない」
シンは手を伸ばしタイマーのスイッチをオフにした。
「おい…なにして…」
「泊まります」
「この前とは状況が違うんだ…」
「わかってますよ…あんたは言葉だけじゃ伝わらない…」
シンが何を考えているのかを察した。
「だめ…だ」
「期待させといて…だめ。っておかしいでしょ」
「勝手に期待してんなっ!俺は卒業したらって…」
「さっきは合格通知見たらって言いましたよね?」
「……」
「じゃ……クリスマスプレゼントください」
「用意してねーよ!」
「あるじゃないですか…」
「……何もねーって…」
シンは湊に近づき
「ここに……」
湊のあごを指で持ち上げる。
「おい………」
「俺がずっと欲しくて欲しくてたまらなかったもんが…」
「おぃっ!…んっ…」
無理矢理口づけた。
「ください。あんたを。…湊晃が欲しいんです…」
真っ直ぐ見つめるシンの瞳から目が離せなかった…
曇りのない瞳で見つめるその目に湊は気持ちを抑えきれなくなっていた。
「…だから…イヤだったんだ…」
「…えっ……?」
湊はシンの頭を引き寄せると今度は湊から口づけた。
「!」
シンは驚いて目を見開く。
ゆっくりと湊の唇が離れた。
「……こうなる事わかってたから時間制限したのに…どうしてお前は約束守れねーんだよ……」
「湊さん…今のって…」
「も〜っ!!言わなくてもわかるだろっ!ばかっ!」
「もしかして俺の事…」
「そーだよっ!あぁぁ~!卒業するまで何もしないって決めてたのに…お前のせいだからな…」
照れている湊が可愛くてシンは湊を強く抱きしめた。
「好きです…湊さん…」
「わかってるよ…」
「大好きです…」
「わかってるって…」
「大大大好きです…」
「お前しつけぇーよ…笑」
シンは抱きしめていた手を湊の肩に置いた。
そして、もう一度口づけようとする。
「調子に乗るな!ばかたれ」
湊の手に唇を塞がれた。
「なにするんですか!」
「もうとっくに時間過ぎてんだよ!」
「今日は泊まるって…」
「だめっ!」
「どうしてですか?」
「まだ正式に付き合ったわけじゃねーだろ」
「だって俺の事好きだって…」
「それは言ってない!」
「まだそんな事言ってるんですか?いい加減認めてくれても…」
「簡単に付き合う事ができる程俺は若くねーよ。それに…」
「それに…?」
「きちんとしたいんだ…お前と付き合うなら。誰にも言えないような付き合い方はしたくないし、そんな思いをお前にはさせたくない」
「湊さん…」
「お前より10年も長く生きてりゃ色々あるんだよ」
「色々って…それが俺が湊さんを嫌いになる理由?」
「多分な…」
「嫌いになんかなりません」
「まだ何も話してないぞ」
「どんな話聞いても俺は絶対湊さんを嫌いにならない自信あります」
「聞いてもいねーくせに…」
「今日は帰ります。残った料理は冷蔵庫入れといてください」
これ以上湊を困らせたくなかった。
「1人じゃ食べきれないぞ…」
テーブルにはまだたくさん料理が残っていた。
シンは湊を抱きしめると
「明日…また来ます」
そう言って名残惜しそうに離れた。
「おぅ…待ってるわ」
出ていくシンを階段まで見送った。
【あとがき】
やっぱり書くの好きなんだな…と再認識した数日間でした。
今は黄色信号ですが、赤信号になったら投稿できなくなるので書き残します…
恋人編まで書きたい作品ですが、途中退場になったら他で続けます。
続き気になる方いましたらインスタにて報告しますので探してくださいね。
退場させられるまではこちらで続けます。
毎日暑い日が続きます。
皆様体調管理にはお気をつけください。
それでは、また次回作でお会いできますように…
月乃水萌
コメント
16件
最高すぎます!😊👍✨ 続きが楽しみです"(∩>ω<∩)" 頑張ってください